90’s EMOの軌跡は続く、American Football

 アメリカ・イリノイ州の4人組ロックバンド。メンバーはMike Kinsella(Vo&Gt)、Steve Lamos(Dr)、Steve Holmes(Gt)、Nate Kinsella(B)。90’sエモ~ポストロックに分類されるサウンドを主体ですが、もっとしみじみと優しい音色と唄で聴衆を魅了する。1997年に活動開始し、2000年に活動停止。その短期間に残した1999年発表のセルフタイトル作『American Football』が今でも語り継がれるように賞賛され、根強い人気を誇ります。

 2014年に再結成。以降はコンスタントに活動を続けます。2016年に2nd『American Football(LP2)』をリリース。そして2019年3月に3rd『American Football(LP3)』を発表。ここ日本へは2015年、2017年の来日公演を行い、2019年にはフジロックへ出演しています。

 以下、2021年12月現在までにリリースされている3枚のフルアルバムについて書いています。本記事を機に、彼等の音楽に興味を持っていただければ幸いです。

目次

American Football :LP1 (1999)

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 当時としては最初で最後だった1stフルアルバム(後に再結成しました)。マイク・キンセラがもともとやっていたCap’n Jazzは、御存知の通りに奇天烈で爆発力のある激エモ/パンクと言った感じで、10代の初期衝動を大いに感じる作風でした。対してこのAmerican Footballは、凪いだ海のように穏やかなサウンドと染みわたるような歌心が特徴です。

 美しいアルペジオと柔らかな歌声、さらには長閑な空気を持ち込むトランペットの音色が切ない哀愁を漂わせていく。決して激しさを売りにしたものではなく、ポストロックにも連なっていく流麗なサウンドが心を惹きつけます。冒頭を飾る#1「Never Meant」はまさしく彼等の特徴が表れた名曲として君臨しています。

 優しいメロディやトランペットとともに感傷的に夏の終わりを迎える#2「The Summer Ends」、Peleやtoeといったインスト・ポストロック勢にも影響を及ぼしたであろう#3「Honestly?」といった曲も軽やかで清涼感に溢れたもの。どこまでも広がる草原の上で夕陽を眺めるかのような#8「Stay Home」もまたセンチメンタルな気分にさせられます。

 90年代エモ特有の枯れた味わいに加え、滑らかな展開と美しいメロディが最上の説得力を持っています。そんな全9曲で綴られた本作は、90年代エモを語る上で欠かせない名盤のひとつ。2014年に再発された2枚組デラックス・エディションでは、未発表のデモ音源やライヴ音源を収録。本作をまた一段と輝かせています。

American Football :LP2 (2016)

 まさかの復活を果たし、約17年ぶりとなる2ndフルアルバム。昨年には奇跡の初来日公演がありましたが、作品まで届けてくれるとは。ただ、作品名が1stと同じくセルフタイトルなのですが、一応LP2という別名称が用いられています。

 発売に伴って前作を聴き直しましたが、時代を感じさせない音楽であるなと改めて感じたものです。アルペジオを中心にゆったりと紡がれる美しい音色、たおやかなグルーヴ、ソフトな歌声。それらがひたすらに蒼くきらめいており、聴いているとのどかな田園風景が広がるかのようです。

 イントロからグッと引き込まれる#1「Where Are We Now?」から込み上げるものがありますが、本作においても約束されたアメフト節は変わらず。寄り添うような音とのどかな時間の流れ。まあ、前作ほど蒼さを感じはしませんが、Owenの活動も踏まえて円熟した楽曲を届けており、年齢を重ねてきたことがいい枯れ具合につながっています。

 所々でトランペットの登場はあるものの(前作と比べて頻度は減っている)、シンプルに良い歌とメロディを多くの人々の胸に響かせます。一段と切ない哀愁を帯びた#3「Home Is Where the Haunt Is」、クリーンなギターと軽やかなリズムに乗せられる#5「I’ve Been So Lost for So Long」など収録。

 熱量の押し売りはせず、力むことなく自然体で。良い言い方ではないかもしれませんが、素朴が最上の味みたいな。全9曲約38分、17年後も色褪せない音楽として語られるだろう作品です。

American Football :LP3 (2019)

 約2年半ぶりとなる3枚目。全8曲約47分収録。Rachel Goswell(Slowdive)、Hayley Williams(Paramore)、Elizabeth Powell(Land of Talk)といった女性ヴォーカリスト3名がゲスト参加しています。本作リリース後となる2019年7月にフジロック出演。途中でタイムテーブルが変更/切り上げになってしまうほどの凄まじい雨中でのパフォーマンスは、ちょっとした伝説になっている。ちなみにわたしは翌日の3日目に足を運び、ヘッドライナーのThe Cureを堪能しました。

 当時としては最初で最後の金字塔だった1stアルバム、それから再結成を果たして17年の時を経ての2ndアルバム。両者ともにアメフト味を余すところなくパッケージ化したものであり、繊細で美しい音色と哀愁を感じさせる歌によって彩られた作品は、多くの人に親しみを持って受け入れられました。

 その2つの作品を通過し、明らかな進化系となった本作。90’sエモとポストロックの接続から普遍的な魅力を生み出すのは言わずもがなですが、なおかつシカゴ音響~USインディー、ドリームポップといった領域にも効果的に足を伸ばしています。煌びやかなビブラフォンの響きとお馴染みのアメフト節を交えながら幻想的なムードを演出する#1「Silhouettes」から、バンドは新しいタームに入っていることを示すのです。

 トランペットなどの管楽器やフルート、ピアノの音色までを取り入れる贅沢さもありますが、熟成された歌とサウンドがもたらす”のどかで感傷的”という独特の味わいは残されています。それこそ前述したアメフト味/節はここにあるのかなと。その上で表出する幻想的な美しさは、Omaha Children’s Choirを迎えた#4「Heir Apparent」や7分近い#5「Doom in Full Bloom」で堪能できます。

 特徴的なのは前述したように3名の女性ヴォーカリストの参加。Elizabeth Powellが参加した#2「Every Wave to Ever Rise」では煌めいた海面を思わせ、パラモアのHayley Williamsとの #3「Uncomfortably Numb」は控えめな哀愁ソングとして機能します。#6「I Can’t Feel You」 に至ってはスロウダイヴのRachel Goswellが儚さと透明感を加味する。

 彼等自身の持つ素朴な味わいを熟成させたうえで、アプローチを増やしたことでの立体的な音像の獲得。受け取る側としても豊かさをさらに感じさせるものです。しみじみと心の中が潤ってくる感覚。感情を爆発せずとも発せられる大人エモ。わたしにとっては、これまでで一番引き寄せられる作品でした。

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