【アルバム紹介】65daysofstatic、轟音人力エレクトロの熱狂

 2001年にイギリス・シェフィールドで結成された4人組インスト・バンド、65デイズオブスタティック。

 轟音ギター、ピアノ、シンセサイザー、デジタルビートを融合させた音楽は、初期から人気を獲得。“モグワイ・ミーツ・エイフェックス・ツイン”と形容されるほどでした。

 音楽性を少しずつ変えながら現在までに6枚のアルバムをリリースしており、国内盤は主に残響レコードから発売されていました。また日本にもサマーソニック06での来日を始めとしてフェスに単独ツアーと多くの公演を実施。

 本記事ではこれまでにリリースされている全フルアルバム6作品について書いています。

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アルバム紹介

The Fall of Math(2004)

 1stアルバム。全11曲約43分収録。国内盤が本国イギリスより2年遅れで、残響レコードから発売されました。

 轟音ギター+ピアノ+ブレイクビーツという音楽性を初期から確立。そのさまは“モグワイ・ミーツ・エイフェックス・ツイン”と形容されるほどであり、世界各地で人気を得るまでになりました。

 エレクトロニカ寄りの柔らかなタッチから無機質かつ緊迫感のあるデジタルビートが組み込まれ、ギター/ベース/ドラムの迫力ある生音ががっぷり四つでぶつかりあう。

 それでもプログラミングを操る頭でっかちさやクールさよりも、人間的な騒々しさと熱さがあるのが初期の65dosの特徴です。

 バンドの代表曲のひとつである#3「Retreat! Retreat!」を収録。また柔剛・静動の細かな切り返しの中でスピード感と人力バンドである気概をみせつける表題曲#6「The Fall of Math」も見事。

 先読みさせない緊張感を常に与え、さらにはロック的なダイナミズムをしっかりと感じられたのが支持された要因といえます。65dosの入門には間違いなく本作からでしょう。

One Time For All Time(2006)

 2ndアルバム。全9曲約37分収録。#1「Drove Through Ghosts to Get Here」から#2「Await Rescue」のコンボに某エナジードリンクよりも翼を授けられた人は数知れず。

 尋常じゃないハイテンションで始まる本作は、方向性はそのままにエレクトロニクスと生演奏の融合に磨きがかかっています。

 特にドラムの圧倒的な手数や迫力のギターノイズによる切れ味と爆発力がすさまじい。ピアノにすらエレガントな添え物じゃない鋭さを感じさせます。

 ネジを締め忘れてぶっとんだスリリングな展開を繰り広げる#8「65 Doesn’t Understand You」には、人間も機械もオーバーヒートしそうです。

 派手な音色や緩急の妙を活かしながらバンドがさらなる前進を示した作品であり、ピアノを基調にドラマティックに駆け上がる代表曲#9「Radio Protector」の締めくくりがまた素晴らしい。

 前作と本作には初期しか出せない味があり、初期衝動と創造性の両方が合致していた印象が強いですね。ノイズギターとデジタルビートの奔流が巻き起こす狂騒、刺激はこちらの方がお強い。

The Destruction Of Small Ideas(2007)

 3rdアルバム。全12曲約62分収録。凶暴性とダイナミックさが控えめになったという感想を抱く人が多いと思います。またドラムの音が軽く感じ、録音は総じてこじんまりしている。

 デジタルなタッチをふんだんに用い、ピアノやストリングスにグロッケンシュピールの音色も聴こえてきます。しかしながら高速ビートで畳みかけるような展開は少なめで、即効性に重きを置かず。

 ポストロック的なスタイルに近づいた、じっくりと盛り上げていく曲が多いです。#2「A Failsafe」や#4「Wax Futures」のように抑制しながら、ここぞのタイミングで暴れ散らかす曲もあるにはあります。

 それでも”聴かせる”という方向性に向かっているのは明白で、迫力や攻撃性をくるむように叙情性でカバー。詩的かつ重厚なトーンで引っ張る#7「Music Is~」や#11「White Peak~」はその筆頭です。

 またラストには声入り楽曲#12「The Conspiracy of Seeds」も準備。バンドに対してハイボルテージを求める人には物足らない作品なのは事実ですが、65dosが変化を求めて踏み出したことは伝わります。

We Were Exploding Anyway(2010)

 4thアルバム。全10曲約57分収録。恋愛映画のワンシーンのようなジャケットが目につきますが、音楽も大胆に変化。

 残響レコードの紹介で”轟音人力エレクトロダンス”と表現されてる通りに、クラブ~ダンス・ミュージック色が強くなりました。

 電子音によるフロア仕様のゴージャスな煌びやかさや華やかさを打ち出すと同時に、前作では弱かったリズム隊が迫力増し増し。

 強靭なビートが先導する#2「Crash Tactics」や#5「Weak4」はド派手なパーティかと思えるほどです。ロック色は減退したものの、違うスパイスを大量投入することで快楽性をずいぶんと高めています。

 The Cureのロバート・スミス御大が参加した#6「Come To Me」という飛び道具も備え、初の10分越えの大曲#9″Tiger Girl”のミニマルな展開で熱を帯びて行く様に快楽は止まらない状態。

 65dosが新境地へ突入したことを宣言する作品となっています。再発盤には同時期に製作した楽曲を中心とした7曲入りEP『Heavy Sky』を追加収録。

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Wild Light(2013)

 5thアルバム。全8曲約52分収録。残響レコードから今のところ最後の国内盤リリースとなった作品。

 ”轟音人力エレクトロダンス”と評されてダンス・ミュージック方面に突き抜けた前作を経ての本作は、エレクトロニックとポストロックの中間地点に位置する作品です。

 バンドを司るポール・ウォリンスキが”ロックとデジタルなサウンドのバランスを正確に整えたいと思った”とGhost Cultのインタビューで回答。

 確かに初期ほどの爆発力や切れ味はなく、クラブ対応のアゲアゲモードも封印。突出した部分はあえて作らずに総合力で勝負しているイメージで、浸れる心地よさがあります。端的に言えば玄人化している。

 終盤で美しい重奏を聴かせる#2「Prisms」、初期のささくれた轟音ポストロック的な側面が聴こえる#4「Blackspots」、銀河のようなパノラマが広がる#6「Taipei」と魅力的な楽曲は揃えています。

replicr, 2019(2019)

 6thアルバム。全14曲約42分収録。フルアルバムは6年ぶりですが、16年にはSFアドベンチャー・ゲーム『No Man’s Sky』のサウンドトラックを提供しています。

 ここへきてプログラミング脳に90%移植。本作は電子音のアイデアや断片素材を切り貼りしたようであり、オリジナル作品では最も静のベクトルへ向いています。

 そして何よりもバンド感が薄い。海底を潜行するかのような暗いアンビエント~ドローンの領域。

 猛烈なリズムが襲いかかる#2「stillstellung」ではBen Frostのような鋭利さが牙をむくとはいえ、アゲにかかるのはこの曲ぐらいです。

 それに#9「five waves」や#14「trackerplatz」には煌びやかさとわずかな希望が差し込みますが、楽曲の大半は色味や人間味は極力抑えられ、アブストラクトなデザインが施されています。

 デジタル・ビートがもたらす快楽やバンド・アンサンブルによる熱気はここにはない。未来の不確かさを予言するようにダークな音響が精神を鎮める。時を経てこの変化に至ることがスゴい。

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どれを聴く

65daysofstaticに興味を持ったけど、どれから聴けばよいの?

 初期2作品『The Fall of Math』と『One Time For All Time』からが良いです。”モグワイ・ミーツ・エイフェックス・ツイン”と形容された彼等の音楽を十分に味わえるはず。

プレイリスト

お読みいただきありがとうございました!
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