ベルギー最高峰に位置する激情カオティック・ポストメタル・バンド。壮絶なカオスが渦巻く激重音楽に、世界は絶望を映し出す事になる。既に本国ではカリスマ的人気を獲得。数々の有名バンドとも共演し、世界的にも評価が高まってきている。また、KingdomやSyndrome、Sembler Deahなどサイド・プロジェクトでも盛んに活動中。詳しいBigoraphyについてはTokyo Jupiter Recordsさんのページをご覧ください。
レビュー作品
> Mass Ⅴ> 23.10(LIVE DVD) > Mass III-II + Mass IIII > Mass Ⅱ > Mass Ⅰ
Mass Ⅴ(2012)
これまでの功績やその思慮深いダークな音楽性がNeurosisに認められ、Neurotと契約してリリースされた通算5枚目のアルバム。なお一層の深化を遂げた全4曲40分の激重暗黒音楽は、ベルギーが産み落とした怪物の新たな進撃の始まりと呼ぶのにふさわしい。
ゆっくりと奈落へと押し進む重いリズムと極端にヘヴィなリフの反復、怨念を込めてあまりにも悲痛に叫ぶヴォーカルが、視界そのものを黒で塗りつぶしていく。静かな立ち上がりから、熟練のアンサンブルとともに激流に飲み込まれる#1「Dearborn And Buried」からして救いは無い。徹底して遅く重厚、そして暗鬱。一筋の光すら差し込む余地のない闇、そして身体的にも精神的にも圧倒的な重量感を伴って轟くこのサウンドは、変わらずにAmenraである。さらには宗教音楽の要素やトライバルなリズム、それに繊細なポエトリーリーディングも交え、スケールを巨大化。また、近年のNeurosisや復活以降のSwans辺りの感性を染み込まている印象もある。前作から音楽的に大きな変化があるわけではないが、彼ら固有の表現の深化を感じ取れることだろう。
そして作品は、不穏な緊張感で満たされた静に沈む場面を配しつつも、あらゆる境界線や壁を潰していく漆黒の重轟音を見舞う#2「Boden」、#3「A Mon Ame」と続き、聴き手を容赦なく飲み込んでいく。なかでも、ラスト曲#4「Nowena | 9.10」の存在は大きい。驚くほどに繊細な歌声とギター・フレーズを奏でる序盤から、極限までに溜めて感情を暴発させたヘヴィ・サウンドが世界を一変させてしまう。Neurosisをも説き伏せた神秘の漆黒界がここに打ち立てられるのだ。これまで以上の貫禄と風格。ベルギーの怪物、やはり恐るべしである。
23.10(2011)
2010年10月23日にベルギー・コルトレイクにある劇場で開催されたライヴ映像(全7曲約67分)、それに加えて2006~2009年までの未公開ライヴ映像7本を収録した2時間超のライヴDVD。
スタジオ音源でも陰の気質にまみれた荒廃した景色が映し出し、脅威の重低音とどす黒いグルーヴで聴き手の度肝を抜いていたが、こうしてライヴ映像を通すと当然のように迫力がさらに増す。画質は荒いといえるだろうけど、ほとんどモノクロに近いステージ上から繰り広げられる激重音楽からは、ただならぬ混沌が当然のように押し寄せる。後方には楽曲の負のオーラを増幅する映像が延々と流されているのが特徴的。また、メンバーは大きく動いたりせずに、感情的だが丹念な演奏に終始して暗黒物語を構築していく。その全てが合致していくことであれほどまでに内省的に響く重厚な世界が打ち立てられるのだろう。
特に衝撃的なのは、ラストを締めくくる「Aorta」~「Ritual」の連続コンボ。深遠な叙情性を垣間見せる立ち上がりから怒涛の重低音爆撃と悲痛な絶叫が木霊する「Aorta」で精神をズタズタにしたところで、徐々に黒い音圧がそこにいる人々の五感を遮っていく驚愕の「Ritual」へ。ミニマルな展開から過度に精神を煽っていくのだが、最後の最後でゲスト女性ヴォーカリスト(AmenraのサイドプロジェクトOathbreakerのVoの人)が戦慄の絶叫をブチかましたときに訪れるカタルシスは鳥肌物もの。途中で謎の男性が十字に吊るされる点もおぞましい。是非とも下記の動画リンクを参照にして、この闇の深さを感じてほしい。果てしないと表現できるほどに圧倒的な音を発し続けるライヴが必見である。
■ Amenra “Aorte.Ritual” 23.10 live dvd
Mass III-II + Mass IIII(2010)
06年発表の『Mass III-II』と08年発表の『Mass IIII』をリマスターし、さらに『MASS II』から2曲ボーナストラックとして収録した2枚組アルバム。
ベルギーから全世界を底知れぬ深淵に招き、然るべき混沌に堕としていく脅威の作品である。負の情念が渦巻く重厚なサウンドはどす黒い炎へと変わり、身も心も焼いていく。そのサウンドには聴けば聴くほどに恐怖を覚え、大地だけでは飽き足らず、天空をも浸食しようとする絶望の波が絶えず押し寄せてくる。LVMENがチェコの怪物であるならば、このAmenraもまたベルギーの怪物といえる存在である事は間違いないだろう。
スロウテンポで激しいまでのヘヴィネスを必然であるがごとく叩きつけるも、極めて深遠でアーティスティック。その様は、このジャンルの先駆者ともいえる存在のNeurosisの影響が大きいように思う。地鳴りの如しスラッジ・リフと背徳の絶叫が痛烈に空間を歪ませていく化け物染みた重低音がダイナミックに轟いている。痛々しく壮絶な音の塊。それによってどす黒い情念が作品を通して極まっていくのだが、読経のような呪術的な歌に、まろやかなクリーン・ヴォイス、叙事的なメロディ等も織り込みながら、静と動の交錯で緊迫感のあるドラマ性を高める事も忘れてない。加えて、激情ハードコア/スラッジ/ポストメタルという領域からアンビエント、ドローン、エクスペリメンタルにまで枝葉を伸ばし、時には耽美な女性ヴォーカルを織り込む事で圧倒的な闇世界に奥行きをもたらしている。
内容は極めて緻密で濃密。ISISのアート性の高さや思慮深さ、BotchやConvergeばりの猛烈な感情の奔流と混沌、GY!BEのような終末の世界観と物語性を内包しており、その影響で作品はより深度と退廃的世界観を強めている。特に『MassⅢ-Ⅱ』に収録の#6「Ritual」という曲、足元から怒涛のように押し寄せる轟音の濁流に全てを持っていかれ、狂気の淵を彷徨う事必至。「Mass Ⅳ」に収録されている#1「Silver Needle. Golden Nail」や#5「Aorte」等は混沌の中に美しさを見いだせる楽曲として確立されている。
人間の核に非常なる重みをもって迫る壮絶な音の群れ。あまりにも壮大な絶望と混沌を打ち鳴らす孤高のバンドである。それこそ、Neurosisも真っ青になりそうな超然とした世界がここに。深層意識を巡る激重の旅路。
Mass Ⅱ(2004)
前作より1年ぶりとなる2ndアルバム。本作では、どす黒く重いサウンドに磨きがかかっており、Neurosisの領域にまた前進。バンドの進むべき方向性が定まった事を感じさせる内容で、前作よりも重心がかなり低くなって漆黒の業火がベルギーから全世界に向けて放たれている。呪術的な重みのあるリズム、負の感情を巻きこみながら重く重く鳴らされるリフ、地獄へと道連れにする絶叫が余りにも強烈で、打ちのめされてしまう。1stアルバム以前のISISが見せたスラッジにNeurosisの深遠なる混沌が加わったかのようなサウンド、それが出口のない暗闇で鳴り響いている。けれども暗欝かつ非情な音世界の中で、哀しみに覆われたメロディを鳴らしては対極の美を表現。ミステリアスな女性のサンプリング・ヴォイスやアコースティックな音色も取り入れながら、混沌へと向かっていく様は余りにも見事である。
本作には彼等の後の代表曲となる「Ritual」が収録されているが、「Ⅰ」「Ⅱ」という別れた内容になっている(「Mass Ⅲ」には1曲として収録)。暗欝とした中に艶やかさも感じるメロディから激音リフと共に漆黒へと雪崩込んでいく#4「RitualⅠ」、アコースティックの哀感ある音色と語りから危険を脅かす重い世界が幕を空ける#5「RitualⅡ」と彼等の凄さを体感することになるだろう。ハードコアのアグレッションに生々しいエモーションが重なる#2やMouth of the Architectをも凌駕する#3もまた印象的だ。全5曲で約32分の内容だが、その黒々しい音世界に十分すぎるほど溺れる事が出来る。
Mass Ⅰ(2003)
ベルギーからおぞましく重厚な世界を構築するAmenraのタイトル通りの1stフルアルバム。といっても6曲で約27分程の収録で、現在の音楽性とは少し違うスタイルなのが特徴といえるだろうか。
Neurorisに影響を受けた重心の低さや薙ぎ倒し系の重量級リフが音の壁を築き上げる様は、今にも通ずる部分といえるが、ハードコア的なテイストが随分と滲み出ていて荒削りの初期衝動が所々で暴発する。激情という単語が一番当てはめやすいとしたら、おそらく今作だろう。その影響を強く感じさせるのが#4で、激情ハードコアとスラッジが邂逅したかのような音が聴き手を強く殴りつけていく。また、焦燥感を滲ませているのも若々しいつくり。故に構成として甘い部分もあるのだが、アグレッシヴかつ重く鋭利に切り込んでくる様には正直かなり驚かされた。
しかし、この頃から激しさと重さを兼ね備えた音楽を鳴らしているのは間違いなく、さらには呪術的かつ陰鬱。暗黒スラッジ/ポストメタルにだいぶ足を突っ込んでいる。この黒い濁流のようなサウンドは心身を世界の果てまで押し流していく。また、生命をすり減らすような絶叫はこの頃から存在感抜群。音の壮絶さに拍車をかけている。負の情感がたっぷり詰まった#1はドゥーム/スラッジにも親和するヘヴィさに唖然とし、不穏なイントロからカオスが暴発する#2はただその破壊力に悶絶してしまう。しかしながら、#3では箸休め的にたおやかな叙情も細やかに編んでいて、黒々しくもアート感覚を忘れていない。カオティックな渦から静かな語りへと移行し、クライマックスに再びけたたましく爆発するラスト#6は特に印象的。Amenraの現在の音楽性が好きな方からすると、肩すかしを喰らうことも否定できない。だが、あの暗黒激重世界の種をまいた作品として重要な初作である。
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