Anathema ‐‐Review‐‐

1990年から活動を続けているイギリスのゴシック・プログレバンド、Anathema。当初は、ゴシック系のバンドとして名を広めていたようだが、近年はPorcupine TreeやAnekdotenに影響を受けたのか、次第にネオ・プログレとしての気質を開花。7年ぶりに発売された8thアルバム『We’re Here Because We’re Here』ではレディオヘッドやシガー・ロス等の暗欝な知性や神々しく壮大な力を取り込み、とてつもなく感動的な世界を繰り広げ、新たなファンを開拓した。12年発売の9thアルバム『Weather Systems』ではさらに多くの賞賛を集め、翌年にはオーケストラとの共演を果たしたライヴアルバム『Universal』をリリース。2014年には通算10枚目となるフルアルバム『Distant Satellites』を発表、ここ日本でも13年ぶりに国内盤が発売されるなど注目が高まっている。

レビュー作品

> Distant Satellites > Weather Systems > Falling Deeper > We’re Here Because We’re Here


Distant Satellites

Distant Satellites(2014)

 2010年代に入ってから『We’re Here Because We’re Here』、『Weather Systems』という大傑作を立て続けにリリースし、昨年にはオーケストラと共演を果たしたライヴ作品『Universal』を発表。これまでと違ったファン層から一気に支持を集め、キャリアでも最も充実した時期にいるモダン・プログレッシヴ・ロックの旗手の通算10枚目。ここ日本でも2001年発表の『A Fine Day To Exit』以来、約13年ぶりに国内盤が発売になっていて、遅まきながら再び注目が集まっている。

 この記念すべき10枚目では、前述した10年代に発表の2作品を主にした”これまで”、そして、この先を暗示する”これから”の二面性が「泣いてもいいんだよ。」と聴き手を諭す。ジャケットはそれこそ過去への回帰を思わせるものなのだが、近年のアナセマを象徴する壮麗なる音の調べは、天上界へと僕等を駆りたてる。染み入る様なメロディとエモーションを最重要視したポストプログレは、オーケストレーションを交えながら美しい瞬間を次々と生み出していく。変拍子を軸にしながらも鮮やかな色彩を描きながら駆けあがっていく#1を起点に#2、#5と3曲にも渡る組曲「The Long Song」はその証明。白く眩い光に包まれる中で鳴り続けるメロディ、優しくも情熱的な歌声はどんな暗闇をも超える。

 個人的には、#4「Ariel」があまりにも感動的でグッと来た。ピアノ伴奏をバックに女性VoのLee Douglasが切々と歌い上げる前半だけでも、思わず込み上がってくるものがあるが、哀切を浄化するように音と光が徐々に明度をあげ、ヴィンセントのエモーショナルな歌唱も交わってくると一気に涙腺が崩壊。ナイーヴでいて力強い歌とメロディがセンチメンタルに胸を打ち、優麗なギターの音色が清潔な蒼い空へと吸い込まれていく。エンディングのしっとりとしたピアノと優しい歌声がまた、感動の追い打ちをかける至高のバラードとなっている。10作目にして遂にバンド名を冠した#6「Anathema」も当然ながら重要な楽曲であり、初期の暗鬱なるゴシック/ドゥームな曲調へも踏み込みつつ、清廉としたポストプログレと融解したことで新たなドラマを造形。自ら「アナセマと名付けるのが相応しい」と発言したのも納得の1曲に仕上がった。

 作品のひとつのピークを迎える「Anathema」を境目に、後半の楽曲では打ち込みのリズム/音響がやたらと主張してくることからもわかる通り、”これから”を明確に示す内容となっている。#7「You’re Not Alone」ではウェットなピアノの調べがリードしていたかと思うと、ドラムンベースっぽいアプローチとヘヴィなリフで光を翻す。さらに、近年のレディオヘッドに感化されたかのような表題曲#9「Distant Satelites」は、アトモスフェリックかつエレガントにまとめあげることで、新鮮な印象を残している。新しい息吹を感じさせるこの2曲では、現代プログレの最重要人物であるスティーヴン・ウィルソンがミックスを手掛けている点もポイントであろう。

 そして、電子音響と流麗なオーケストレーションが一体となる美しいエンディング#10「Take Shelter」で物語は締めくくられる。しかし、正直に話せば、#7「You’re Not Alone」からラストまでの流れは、その世界観こそ地続きだが、異なるアプローチによる冒険のために違和感を覚えたのは事実。それでもAnathemaの作品を通しての求心力やストーリーの雄弁さ、優れたアレンジに肩を並べるものは無い。光に満ちた最上の景色を約束する傑作である。

 ちなみ僕は通常盤を購入したために未チェックだが、5.1chサラウンド音源を収録したBLU-RAY AUDIOディスクを手掛けているのが、今をときめくイェンス・ボグレンが担当。至高×至高の奇跡体験があなたを待っている。


Weather Systems

Weather Systems(2012)

    清らかな音の調べが導く天上の世界。昨年のリ・アレンジ集第2弾『Falling Deeper』を挟んでリリースされたこの9thアルバムは、ジャンルという壁を越えて、万人の胸に響く感動を届けてくれる。これまでの延長上にあるポスト・プログレッシヴを基調とした作風であるのは間違いないが、重ねた洗練とリ・アレンジ集で磨いたオーケストラ・アレンジが新たな昂ぶりと美しさを生んだ。

 軽やかだが勇壮な強さを持ったアコギに乗せ、繊細かつ力強く歌い上げる#1「Untouchable, Part 1」から本作のクオリティを実感する人も多いだろう。ポストロック的な解放と上昇を続けながら、ストリングスを交えながら壮大に締めくくる。そして、続編の#2「Untouchable, Part 2」ではオリエンタルな鍵盤の旋律が静かな情熱をたぎらせながら、ウェットに歌う男女ヴォーカルが豊かな情緒を加えていく。それは、どこか慎ましくもロマンティックな膨らみを感じさせる。聴けば聴くほどに心の芯を震わせ、深くにまで染み込んでいくこの細やかな表現には、熟練者ならではの味わいも感じとれるだろう。力強い旋律と共に晴れ渡る空と神々しい光に吸い込まれていく#5「Sunlight」はポストプログレの向こう側を見せられたかの様でもある。

 電子音を多用したミニマルな展開から壮大なオーケストレーションを聴かせる#6「The Storm Before the Calm」は、意外なところを突かれた印象だが(Ulverに感化されたのかと思ったり)、少し冷えた陰りのあるメランコリーもまた魅力として表出。ひとつのメロディから全体の構成に至るまでの陰影のつけかた、アクセントのつけかたも説得力に富んでいる。そして、鍵盤の調べをバックに歌の力を最大限にまで引き出していく#7「The Beginning and the End」は、泣きのギターまでもが感情を揺さぶってくる名曲。続く#8「The Lost Child」では深い叙情を湛えながらもかつてのゴシック的な暗欝とした耽美さも引き連れながら感動へと着陸し、その世界を飛び越えていく#9「Internal Landscapes」は、柔らかな光で包んでいくようなマイルドな歌と演奏が螺旋を描きながら天を伝っていくようだ。

 聴後にじわっと広がる感動と余韻はやはりAnathemaらしい。どうしても”光”や”天”というキーワードを多用してしまうが、今の彼等にはその言葉がよく似合う。徹底した美意識がもたらすこの音楽は、どこまでも儚くロマンティックで、優しくて清らか。これまで同様に作品の精度は高く、様々なジャンルのリスナーを振り向かせるほどの感動は、本作にもたっぷりと詰まっている。


Falling Deeper

Falling Deeper(2011)

    08年に発表した『Hindsight』に続くリ・アレンジ集第2弾。意外にも選曲は初期の曲が中心になって採用されているみたいだが(未だに昨年のアルバム以外はチェックしてない)、本作は総勢26名のストリング・セクションを従えてのオーケストラ・リアレンジになっているので、その時とはもちろん趣が違う。清新な美しさにありとあらゆる部分が浄化され、包み込まれていった昨年発表の傑作『We’re Here Because We’re Here』で確立した音楽をそのまま踏襲している形ではあるが、本作では哀切の感情がひしひしと滲む幻想的で美しい世界が拡がる。#5ではThe GatheringのAnneke van GiersbergenがゲストとしてメインVoを務めているが、作品からメタル的な印象を抱く人はほぼ皆無だろう。よりアトモスフェリックなサウンド・スケープを汲み上げていて、選び抜かれた一音一音を丁寧に鳴らしながら、心に染み入る哀愁を演出。ベクトルはほぼ静に傾いていて大きな起伏はなく、全体通してもしっとりと聴かせるタイプの作品として貫いている。っていうかイージー・リスニングの領域にまで達しているようにも個人的には感じられた。

 過去曲は全く知らないので、申し訳ないが比較するようなレビューは書く事が出来ない。ただ、個人的には気品高く荘厳なオーケストラの音色をもっと効果的に組みこめなかったかなと感じる場面もある。例えば、本作でいえば#9がAnathemaとオーケストラが見事に結晶化した楽曲に仕上がっていて壮麗にラストを飾っているが、もう少しこういったタイプの曲が欲しかったのが本音。しかしながら、過度に抑性を効かせた所や余白を残すことで楽曲に含み/深みをもたらしているように感じさせる点は、さすがに熟したバンドの表現力を見せつけているように思う。#1~#3の流れは聴いてて特に見事に感じたところで、清新なエネルギーに満ちた美しい世界観の中に哀切/もの悲しさといった情が落とし込まれているためか、胸を自然と動かされてしまった。細やかな感情表現の揺らぎ、零れおちる情念をオーケストラと共に拾い上げ、丁寧に織り上げていく全9曲38分。やはり本作でも心が洗われていく感じは強い。


We're Here Because We're Here

We’re Here Because We’re Here(2010)

    UKのゴシックメタル/ネオ・プログレ系6人組バンド、Anathema(アナシマ)の8thフルアルバム。08年には過去の名曲群をアコースティックで再録した『Hindsight』を発表しているが、フルアルバムとしては03年の『A Natural Disaster』以来7年ぶり。ミックスはポーキュパイン・トゥリーのスティーヴン・ウィルソンが務めている。

 過去作は全て未聴。当初はMy Dying Bride やParadise Lostなどと並んでゴシック・メタルの代表格として君臨していたそうだが、このアルバム聴く限りその要素はほんのりと滲みでる程度。優しいメロディが鼓膜を震わせ、マイルドでウェットなヴォーカルが骨の髄まで染みわたるように伝わる本作は、気品高い美しさを纏い、崇高な光に大地が艶やかに照らされていくようなそんな感覚を持っている。麗しい女性Voや上品で流麗なピアノ、ストリングスにオーケストラ・アレンジが細心の手つきで施され、儚く神々しい世界観を確立。ゴシックの船出からオルタナ~プログレを経由しつつ、シガー・ロスやEfといったポストロック勢との親和で確実に彼等の世界は拡がりと深みを増している事を印象付けている。洗練に洗練を重ねた美しさ、どこまでも穏やかに広がる感動が胸を満たしていく。聴けば聴くほどに作品に夢中になる。

 オープニングを飾る#1「Thin Air」から柔らかく温かなギターと上品に歌うヴォーカルが印象的。ポストロック的な感性を発揮していること示すように中盤では轟音のカタルシスを誘発する。続く#2では崩壊を思わせるイントロのピアノを合図に男女ヴォーカル、演奏陣が感情を爆発させていく様が何とも凄まじい。ピンと意図を張ったような緊張感とスリリングな展開に身も心も捩れていく。素晴らしい。ここまでの2曲で既に本作が強烈な引力を持っていることに気づくことだろう。

 アナシマの造形する物語は、これ以降さらに感動の度合いを増す。たゆたう波のようにゆるやかで上品なバラード#3~#5は格別で心に溜まった澱を取り除き、感動を胸の奥の奥まで広げていく。この安らぎと感動の演出がまた巧みで、おそらく序盤5曲が本作の繊細で儚いイメージを決定づけているといえよう。とはいえ、#7のようにAnekdotenを意識したような靄のかかったかのような陰鬱プログレ系の曲もあるし、ダイナミズムと疾走感を作品に与える#8の役割も大きい。それらが本作において絶妙な差し色となっていることは言うまでもないだろう。また、#6のようにナレーションが入った曲では作品の物語性を高め、金色の音粒子が舞い上がってキラキラと輝くバックを背景に静かな語りが終幕を切なく引き立てていく#10も見事の一言である。

 前述したように本作で彼等の作品は初めて聴いたが、まさかここまで感動的な作品だとは思わなかった。神経を優しくほぐし、身体の芯から温めてくれる昇天の音色が詰まっている。柔らかな音と明確なストーリーの基で汲みあがっていく世界は壮大で、訴求力は尋常ではない。しかしながらその世界はそっとリスナーに手を差し伸べ、優しく微笑んでくれる。他ジャンルのリスナーをも取り込める懐の深さと明確な説得力を持った作品であり、それこそAlcestが1stアルバムで成し遂げたことを再び具現化するような神々しさと美しさを纏った作品だと個人的には思う。

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