Anrietta ‐‐Review‐‐

2009年に結成され、東京を拠点に活動する5人組ポストロック/ドリームポップ・バンド。Sigur Ros~Album Leaf~MUMといった先人達のサウンドを資本にし、美しく儚い生楽器の音色とエレクトロニカを丹念に重ねながら、天使のような歌声が織り込まれていく純白の世界は、福音の如き叙事性に満ちている。2010年にはMatryoshkaやArcaが所属するNovel Soundsと契約。これからが大きく期待されていたが、2012年9月に解散した。

レビュー作品

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Memoraphonica

Memoraphonica (2012)

 たゆたう美しい旋律、胸を締め付けるような切なくも芯の強い歌声、折り重なる柔らかな電子音たち。眼を閉じ、じっくりと耳を傾けていれば、色鮮やかな情景や物語が浮かび上がってくるだろう。一昨年に発表された2ndデモ音源やjukiとのスプリット作を聴いて以降、とても楽しみにしていたAnriettaの待望のデビューアルバムである。2ndデモ音源3曲(#1,#5,#8)を再録、Aureoleとのコラボ曲(#4)も収録された全9曲約47分。

 これまで通りにシガー・ロスやムーム、アルバム・リーフを思わせる天上へと通じていくほどの安らかなる癒しを持った美しい音像を主体に、聴き手を優しく包みこんでいく。その作風をロマンティックな美意識と共にさらに強化したものに仕上がっており、オーケストラ・アレンジも加えて楽曲のスケール感が増している。しなやかなリズムの上に、幻想的に揺らめくギターやリリカルなピアノが折り重なり、グロッケンやストリングス、ホーンの音色が厚みと色彩感を寄与。そんな荘厳なアンサンブルに造語を歌いあげる女性ヴォーカルが息吹を吹き込めば、アンリエッタが紡ぐ世界観が鮮やかに浮かび上がってくる。至福をも与えるその美しいハーモニーはこのバンドの大きな魅力となっているはず。さらに情景を一変させる様なインパクトのある轟音の洪水を交え、その静と動の生み出すドラマもまた、作品の陰影や立体感に繋がっていて味わい深い。

 悲壮感すら漂う冒頭から静かに静かに引き込んでいき、終盤には妖精の優しい頬笑みに囲まれるような世界へ誘う#1、アルバム中随一のポップさと可憐で華やかなインパクトを持った#3、雪の結晶のようなグロッケンと優しい歌を軸にホーンの暖かな音色も交えながら夢幻の世界へと飛び立つ#5、光のカーテンに包みこまれていくような#8など印象的な楽曲は多い。繊細な唄と音響によって精巧にデザインされた楽曲群からは、様々な情景が浮かんでくることだろう。そんな本作の中でも純白のメロディとノスタルジックな温かさが、胸の奥深くに染み込んでいく#7は多くの人々の心を動かすに違いない。

 幻想的でありながらも、大らかな包容力と懐かしい温もり、そして大きな感動が押し寄せる。もちろん、まだまだ越えていく壁は多い。だが、絵本のようなファンタジーから普遍的なポップ・ミュージックまでの魅力を鮮やかに提示する本作は、新しい扉を開く音色が詰まっている。


lakshmi

Lakshmi (2010)

粋な事に12月25日のクリスマスに発表された、東京のポストロック5人組Anriettaと同じく東京のアトモスフェリック・スラッジ/ポストメタル5人組jukiのスプリット・アルバム。Anriettaが2曲約11分、jukiが2曲約26分で合計4曲約37分も収められていて、EP以上のボリュームが本作の全容だ。印象的な個性と輝きを放つ2バンドの大いなる可能性を凝縮している。

 先行はAnriettaから。Sigur Ros~Album Leaf~MUMといった先人達が頭をよぎる様なポストロックを主体としたサウンドで、じわじわと評価を上げているバンドである。儚い哀愁をまとったギター、ゆったりとしつつも芯の強いリズム、柔らかな電子音等が会話をするように触れ合い、丸みを帯びたサウンド・フォルムを形成。そこに安らぎの白い時間、天使のような慈愛を振りまく女性ヴォーカルが織り込まれ、叙事的な物語が優しく奏でられている。繊細な音色が精巧に配置され、滑らかに遷移し、ゆらゆらと重なっていくことで純白の大らかな風景を描き出しており、しなやかなグルーヴもまた心地よい。

 しかしながら、ここぞのアンサンブルの爆発力は高いし、洪水のようなギターに感情を強く揺さぶられることもある。そのような轟音の噴出を利用した痛みを伴った世界観を、さも当然のように表現されている所も印象的で、表裏一体の感情が楽曲に濃い陰影を作り出しているようにも感じられた。とはいえ、安らかで美しい音像は天国的な癒しへと繋がっていくし、曲のクライマックスに向けて翼をはばたかせて飛翔感を演出していく感じも様になっている。その手の音楽好きには間違いなくインパクトを残す2曲が収録されており、この美しい音の奔流は数多の人々の琴線に触れることだろう。ちなみに通販で購入したら、無料配布中の3曲入りの2nd Demo音源もサービスで封入されていて、こちらではよりまろやかな叙情性が顕著。北欧的ドリーム・ポップにも接近した秀逸な3曲が収録されている。

 両バンド共に感心するのは曲の展開とそれに伴った高い物語性で、感情の蠢きが寸分もなく巧く表出している印象。少しかけ離れた音楽性ではあるが、音の共通項や意識の面で共鳴・親和している部分は多い。ポストロック~ハードコア~スラッジと行き来する音像の中で、若者が心血を注いで鳴らす音色には未来を形どって行く頼もしさがあり、これから先への大きな期待を抱かす良質なスプリット作であると個人的には思う。なお、本作はDISK UNION及びSTM Onlineにて入手できる。

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