bloodthirsty butchers ‐‐Review‐‐

1987年に札幌で結成され、活動25年を超えてもなお一線級で活動してきた日本のロック・バンド。Dinasour Jr.やSonic YouthといったUSオルタナ勢からの影響を受けたサウンドに、日本人らしい情緒や風情、また自身の剥き出しの感情を包み隠さずに封じこめた音楽で数々のミュージシャンに大きな影響を与えた。バンド随一の傑作といえる『kocorono』を始め、『未完成』等の数多くの作品を世に送り出し、2003年には田淵ひさ子を迎えた4人体制で再出発。2012年には、活動25周年を記念して全12枚のフルアルバムを完全収録した豪華BOX SET『血に飢えた四半世紀』をリリースした。しかしながら、2013年5月末に中心人物の吉村秀樹氏が逝去。多くのアーティストから追悼の声が寄せられた。

レビュー作品

> youth(青春) > NO ALBUM 無題 > kocorono


youth(青春)

youth(青春)(2013)

 前作から約3年8カ月ぶりとなる13枚目のフルアルバム。未だに信じられない吉村秀樹氏の逝去から早くも半年。『次のアルバムはね 俺の最高傑作な音像なのよ』という彼が残した言葉通りに、研ぎ澄まされたアンサンブルが生み出す真っすぐなロックが、マグマの様な熱さで聴き手の胸を震わせる。

 作品としては、4人編成になって以降の最高傑作とも評された前作『NO ALBUM -無題-』から延長といえるものだろう。揺るぎなき信念と鉄の意志を持って前進を続けた彼等の音像は唯一無二。ブッチャーズらしい哀愁と轟音が渦巻き、明日へと生きるメッセージ性の強い詞を吉村氏が逞しく熱烈に歌い上げる。その上で奏でられるメロディは、よりセンチメンタルな響きを持ち、職人的な味わいのポップさが随分と効いている様な印象もあり。ハードコアの芯を感じさせる激しくて力強いサウンドなのに、全ての喜怒哀楽を享受する様な包容力を持ち合わせている。その歌と演奏は全てを受けとめて、ただただ真っすぐに未来へのエネルギーと化す。また、緩急に富んだ#6「Techno! chidoriashi」やこれがラスト・トラック?と全ての人の意表を突く#10「アンニュイ」のような大胆な新機軸で驚きを与えてくれていたりもする。

 その中でも豪快でパワフルな中にメロウさが広がる#1「レクイエム」、キャリア屈指の大名曲である#3「デストロイヤー」の力強い躍動と猛烈な熱量に感服。心がくじけそうな時、途方もなく大きな壁にぶち当った時には、太陽のように熱く眩いブッチャーズのロックンロールがある。己と戦い続け、北の寒空を突っ切ってきた男達の青春28年目の集大成。そして、彼等の残した音楽はまた明日へと語り継がれていく。


NO ALBUM 無題

NO ALBUM 無題(2010)

 田淵ひさ子が加入して4人体制となって以降の最高傑作とも評される2010年発表の通算12枚目のフルアルバム。ジャケットは函館生まれの画家である故・深井克美氏による「ランナー(未完)」を使用しているとのこと。

 本作発売時点で既に20年を超えるキャリアを重ねていたわけだが、現在進行形で突き進むブッチャーズ節は、健在である。薄闇から光が差し込むようなギターから、彼等らしいUSオルタナ風の力強いサウンドで進行する#1「フランジングサン」から貫禄の一撃。全体的にミドルテンポの楽曲が多いので落ち着いた印象も受けるが、厚みのあるアンサンブルがあり、同世代はもちろんのこと彼らよりも若い世代にも共感を呼ぶような言葉と歌がある。加えて、この深みのある音の広がりと切ないメロウさ。年相応に老練たる表現力やどこか清らかなポップ感に磨きをかけながら、ロックの荒野をひたすら突き進んでいる。

 #2「散文とブルース」における哀愁のハーモニーと渋い味わい、胸を締め付ける様な繊細なメロディと吉村氏の感傷的な歌声が印象的な#3「僕達の疾走」等の前半の曲では、特にその真っすぐな力強い音と言葉が胸に響いてくる。そしてまた、歌に比重が置かれている印象も受ける。なかでも特に好みなのが#9「Ocean」で、夏の光景が浮かぶようなアルペジオの旋律から、どこか余裕のある歌いっぷりと心地よい解放感が大変良い。後半のドラムの連打、ギターソロに続いて、「生きている、生きて行こう」という力のこもったメッセージを聴いた時に、涙腺が緩む人もいることだろう。そして、最後には艶やかなピアノの旋律を交えながら、吉村と田淵ひさ子が掛け合いのようなツインヴォーカルを披露する#10「curve」という新境地すら見せてくれている。いつまでも日本人が誇れるロックを奏で続けるブッチャーズの充実の一枚。


kocorono完全盤(紙ジャケット仕様)

kocorono(1996)

 その真っすぐな言葉、蒼くセンチメンタルな音色が胸を打つ。12の月を冠した曲名通りに、12の楽曲で巡る日々・季節を自らの喜怒哀楽と重ねながら奏でた、1996年に産み落とした邦楽オルタナティヴ・ロックの金字塔、『kocorono』である。彼等の最高傑作に挙げられることも多く、数多くのフォロワーを生んだ日本の財産とも呼べる重要作だ。

 #1「2月」の冒頭における三人の力強いアンサンブルから、拳にグッと力が入る。北国の空を裂くような轟音ギターの生々しい響き、淀みなく澄み切ったアルペジオが残す切なさ、大地を踏みしめる様なリズムがもたらす躍動感。そして、Vo&Gtの吉村氏のお世辞にも上手いといえない歌が、技術を超える情熱を持って訴えかけてくる。等身大の不器用な男三人が追及した、どこまでも真っすぐな表現。全ては生々しく、さらに心で叫ぶように鳴っている。そしてまた、この迸る熱気と轟音の中に哀切や日本的な風情を滲ませ、独特の情緒を持ったサウンドに昇華しているのも惹かれる要因だろう。Dinasour Jr.やSonic YouthといったUSオルタナ勢からの影響を強く感じさせるものの、日本人だからこそ創り上げることができた音になっている。この切なさ、この温もりがまた染みるのだ。

 収められた12曲(2010年のリマスター盤に、原盤にはなかった『1月』が追加されている)は、それぞれの月の季節感や風景が浮かんでくるような描写力を持つのだが、特に#6「7月」は、日本の宝とも評すべき名曲である。淡々と歌い上げる吉村氏と美しいアルペジオがノスタルジックな心象風景を奏でる序盤から、リズム隊による力強い推進も手伝って、やがて感情を剥き出しに轟音の壁がそびえたつ。歪み切ったギターがうねりをあげて炸裂するアウトロを聴いてると、ブッチャーズの表現のひとつの極致なのではと思わせるほど。本当に特別な1曲となっている。

  日々は過ぎ去って季節は巡り、年を重ねていく。時を止めることは決してできないが、己の弱さや様々な葛藤をさらけ出しながら、それでも情熱を燃やしながら前に進んでいくしかないことを本作は教えてくれる。三人の男達が生み出した奇跡のような音は、発表から10数年経ったても未だに色褪せることはない。Fugaziのイアン・マッケイに『グレイトなバンドだ』と賞賛される理由がここにある。日本語ロックのひとつの到達地点。

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