BVDUB –Review–

 中国の紹興在住のアメリカ人トラックメイカーBrock Van Weyによるプロジェクト。現在までに既に10以上の作品をリリース。白昼夢のようなアンビエント~ミニマル・ダブ~テクノは、静謐だがとても深い余韻をもたらす音楽にまで昇華されており、瞑想的な快楽に包まれる。

レビュー作品

> Then > The Truth Hurts > Tribes at the Temple of Silence


Then

Then(2011)

   9,10月に連続リリースとなった『I Remember』、『Resistance Is Beautiful』に続く今年5作目となる作品。それら2作でも彼らしい手腕を発揮した高品質なアンビエント・テクノを送り届けてくれていたが、本作における夢幻の彼方へと誘う細やかなサウンド・デザインはもはや孤高の領域とさえいえる。永続的な心地よさが続くアンビエント/ドローン、そこにフロア寄りのビートが詰め込み、柔らかな昂揚感をも誘う仕様。そこには安らぎのまどろみがある。

 大らかな海のように広がっていくシンセ、揺らめく茫洋としたノイズ、幾億もの魂を鎮めんとせん幽玄なヴォイス・サンプリングがデリケートに重なり、壮大なアンビエントを築き上げている。流麗な美しさを持ったその音像はいつも通りに包み込むような柔らかさ。その中にどこか泡のように散って聞く儚さや哀しみも湛えている。さらに本作でより顕著になったのは奥ゆかしいシネマティックな作風で、崇高に響くヴォイス・サンプリングが心安らぐ美しさの中で儚さに拍車をかけている印象。また、随所に織り込まれるエレガントなピアノの旋律、そして絶妙な場面で差し挟まれるビートがミニマルな構成の中で上手く挿入され、五感を揺らがせる。このように柔らかな音響の中で絶妙なタイム感で変調させることで、曲のスケールとヴィジョンは果てしなく拡がっていく。また、アンビエントな趣はもちろん強いが、フロア感覚は今年の作品の中では一番に感じる。そんな本作では浮遊感漂うアブストラクトでダビーな音色の上で美しいヴォイス・サンプルが反芻し続け、クライマックスでの躍動感あるビートが桃源郷へと誘う22分超の#2「I Knew The First Times」が特に素晴らしい。聴けば聴くほどにはまる。多作だった2011年の締めくくりにふさわしいBVDUB流の美意識が貫かれた4曲76分にも及ぶ安らぎと祈りの鎮魂音楽。


The Truth Hurts

The Truth Hurts(2011)

   BVDUBとHome Normalを主宰するIan Hawgoodによるコラボレーション作品。リリースはIanが新たにはじめたレーベルNOMADIC KIDSから。

 Ianによる1999年から2011年のレコーディング素材にbvdubが新たにアンビエントの魔法をかけた4曲73分が本作品の全容である。霧のようなシンセ・レイヤーにアコースティックな生音やフィールド・レコーディングした素材、さらにミステリアスな女性Voサンプリングが絡んでまどろみの白昼夢を創り上げる。ほぼビートは無く、延々と続くドローンの海に全身が包み込まれていくような感覚に陥っていく。とても壮大でエモーショナルな音像による優しい昇天。オーロラのようなシンセの揺らめきや美しいヴォイス・サンプルに浸っていたかと思うと、徐々に膨れ上がっていく音圧にいつの間にか陶酔し、時間すらも忘れてしまう。自分はIan Hawgoodの作品は聴いたことは無い。けれども、BVDUBの流儀・美学による透徹とした儚い美が貫かれている。それは神々しいという言葉すらも浮かんでくるほどだ。ただ、どこかノスタルジックでもの悲しさも作品の底を流れている。12分台の曲が2曲、24分台の曲が2曲とかなり聴き手を選ぶ忍耐がいる作品であるが、アンビエント~ドローン・ファンの心はきっちりと掴むはず。なお、本作の全収益は東日本大震災の義援金にあてられる。


Tribes at the Temple of Silence

Tribes at the Temple of Silence(2011)

   中国在住のトラックメイカーによる2011年早々発売の最新作(現在までに10枚以上のリリースをしているっぽい)。儚い輝きを持った細かい音の精微な連なりが、幻想的かつ浮遊感ある世界へと誘う作品だ。

 白昼夢のようなアンビエント/ミニマル・ダブ/テクノ・サウンドが特徴的で、まるで音色のひとつひとつが空気に溶けていくかのような印象を受ける。柔らかなシンセが時を丁寧にほぐし、儚く淡い女性のサンプリング・ヴォイスが抑揚をつけ、可憐なピアノの調べが幻想的でロマンティックな雰囲気に造形していく。そのゆるやかな反復の中で徐々に変相を遂げ、次第に鼓動を高めていくかのようにビートが高まっていくが、一歩下がった奥ゆかしさを感じさせるとともにとても優美である。繊細な煌きを放つ電子音の存在、所々のダビーな音響処理など随所の小技も聴いており、その全ての諸要素が精巧な意匠によって音の波動となって表れ、大気をも海をも地をも静かに覆い尽くしていく。緻密な作業の果てに想像力を高め、神秘的な光を湛えた音楽が生まれているといっていいだろう。清らかな空気感、流麗な時間の流れは神経の隅々にまで心地よい安らぎを与えていく。このおぼろげながらもメロウなサウンド・デザインは、ソフトに鼓膜を揺らして胸の奥に染み入るような感動までも与えてくれる。とても美しく澄みきった音楽だ。しかしながら、どこか慈悲を背負ったかのような重みがあって、静かだがとても含蓄の深い作品となっている。ほぼ10分越えで全7曲79分のフル・フルヴォリュームではあるが、恍惚のリスニング・タイムと鳴りうる精巧な美しさを備えており、ノスタルジックな感情をも呼び起こす本作は、創り手に深い敬意を抱かざるを得ないほどの完成度を誇っているといえるだろう。じっくりと堪能すれば新たな知覚の扉が開かれそうだ。

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