Cold Body Radiation ‐‐Review‐‐

オランダのMという人物による独りブラック・メタル・プロジェクト。近年のポスト・ブラックメタルの要素を汲み、美しさとノイジーな狂気をも追求したサウンドを提示して、オランダから世界に自らの存在を知らしめようとしている。

レビュー作品

Deer Twillight > The Great White Emptiness


Deer Twillight

Deer Twillight(2011)

   オランダのMによる独りポスト・ブラックメタル・プロジェクトの2ndアルバム。アトモスフェリックで神秘的な音像にブラックメタルの狂性が雪崩込んだ前作でも確かな爪痕を残したが、本作を初聴した時は驚きが大きかった。と同時に完全に魅了されてしまった。メランコリックな美しさを甘く儚く響かせ、シューゲ・ライクな轟音ギターが幻想世界へと連れて行く。Slowdiveを思わせるゆっくりと堕ちていくような感覚、Alcestのようなノスタルジックな慈愛と優しさが夢見心地を味あわせてくれる。

 本作ではリリカルなインストをメインに聴かせ、空間を優しく彩るシンセサイザー、クリーン・パートを中心にしたヴォーカルが作品の持つ美麗な世界観を造形していく。ポスト・ブラックとしての混沌と幻想性が織りこまれた音楽性に労わるような優しさが溢れだし、ポストロック/シューゲイザー要素を核に据えた大胆な変貌ぶりが凄い。その新しい魅力が見事に花開いている。奥行きのある音像が麗しく構築されており、個人的にはAlcest以降のポストブラックメタルの中では一番にグッと来たかもしれない。それほどまでにこの美しい音色が魅力的。特に冒頭の#1における息を呑むような甘美なインストゥルメンタルは、驚くほど際立っている。徐々に湧き上がっていくようなポストロック的アプローチが恍惚を誘う#2にしても、折り重なる美轟音ギターに骨抜きにされてしまう。

 もちろん、ブラックメタル要素は少なからず存在している。#3のように美しいサウンドの裏で忌々しく反芻する絶叫や#6では前作で聴かせた邪念を持っての疾走も聴けるのだが、その要素は”強のアクセント”という領域で抑えている印象。メランコリックな作風を全編通しても全く損なっていない。ただ、寒々しさや儚さを感じさせる辺りはブラックメタルらしい感触といえるが、それがシューゲイザー要素と結びついて、うつむき加減に拍車がかかっている。だが彼はそれでも禍々しさの向こう側にある清冽とした美しさを完璧に表現した。己の叙情感覚を研ぎ澄ませることで極限までメロウに昇華された本作は、幅広いジャンルに揺さぶりをかける名作に仕上がっている。


The Great White Emptiness

The Great White Emptiness(2010)

   オランダ人のMという人物によるブラック・メタル・プロジェクトの1stフルアルバム。志向しているのはALCESTの出現以来、雨後の筍のようにわんさかしているポスト・ブラックメタルであるが、本来の血筋であるブラックメタルの狂気や疾走感も随分とブレンドされている。繊細なアルペジオに美しいシンセが絡んでくる上品なパートでの柔和な表情や心地よい浮遊感が特徴的。曲によっては優雅なピアノの調べ、淡いヴォーカル、やけに動きまくって主張するベースとドラマ性を高める要素もチラホラ。けれど、それと鬩ぎ合うように非情に鳴るノイジーなパートも強烈で、ツーバスで突っ走り、陰惨なリフが轟き、神経をぶったぎる絶叫が黒々しく木霊する。意外と瞬間の切れ味は鋭くて黒い。個人的に近いと思うのはWolves In The Throne Roomだろうか。彼等のように深遠な静と惨劇の動の組み合わせが巧く、エグさと美しさが絶妙なハーモニーを奏でている印象。けれどトチ狂ったようにノイジーにぶったぎるとはいえ、こちらの方がよりシューゲイザー/ポスト・ロックの成分は強めで、空間的な拡がりや温もりさえも感じるサウンドスケープからはどこか郷愁の風景すらも蘇ってくる。黒々しさを交えながら幽玄的な美や浮遊感を演出することに成功した好作品だと思う。ジャケットも惚れ惚れするような美しさで惹かれる。

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