Cynic ‐‐Review‐‐

アメリカはフロリダ出身のプログレッシヴ・デスメタルバンドCynic。1993年に発表した唯一の作品「Focus」がマニアに大ウケして各地で絶賛されたが、この作品でシーンから姿を消し、伝説となる・・・っが2007年に何と復活。2008年秋には15年ぶりとなる復活作「Traced In Air」を発表し、これからの動向が注目されている。

レビュー作品

> Traced In Air > Focus


Traced in Air

Traced In Air(2008)

   全世界が傑作と評した「Focus」よりなんと15年ぶりとなる復活の2作目。「Focus」が余りにも凄かったことと(その後に及ぼした影響も含め)、それを発表後にあっけなく解散したために、必要以上に神格化された存在になってしまったのはみなさん衆知の通りである。そのため、おそらくこの作品に対するハードルというのはとんでもなく高いものになっているだろうことは容易に想像がつく。

 15年という空白と名作「Focus」の影響でリスナーも期待と不安が入り混じった中で再生ボタンを押すはめになったと思うが、個人的には本作も実にいい作品だと感じた。巷で言われている通りにデスヴォイスよりもエフェクトヴォイスや歌心あるノーマルヴォイスを中心に持っていったことでデスの要素は減退。だが、心に染み入るような叙情性を強化したことで、独特の世界観がより多くの層へと幅広くアピールできるものへと変化している。前作のように天国と地獄の両方の末端を見られるようなことは無くなかったが、この幽玄なる雰囲気に飲み込まれてしまう人も多々いることだろう。儚げなギターの旋律が感情を湿らせ、複雑なアンサンブルが奇妙に空間を歪ませながら独自の世界を構築していく。訪れる静寂にすら漣を立るような余韻を残すこの世界に入ったならば、感興が湧かないわけがない。

 また、スペーシーな音作りが徹底されていることでふわふわとした浮遊感は前作以上。これには宇宙へと放り出されたような感覚を覚える人もいるのではなかろうか。だが、メタリックなエッジは健在でプログレの枠組みに収まらない攻撃性は保ったままだし、ダークな美意識が貫かれたドラマティックな構成、それにプログレならではの展開の妙技には前作同様にグイグイと意識が引き込まれていってしまう。ここに存在する透徹した美しさもまた感動を誘う要因の一つ。その神秘的なメロディは体の芯から徐々に熱を与え、やがては恍惚へとベクトルを走らせていく。不思議な昂揚感が身体中に湧き上がるのだ。その緻密な計算に基づいたCynicのインテリジェンスはやはり見事なものである。

 8曲34分の宇宙遊泳の旅に出ることは、未体験ゾーンへの扉を開くことを意味する。まさに“銀河を駆け抜けるスペクタクル” 。1stの延長線上を期待した人には不評だと思うし、現存のポストメタル勢の影響を感じさせる部分もあるが、個人的には本作にも恍惚とさせられたのだった。


Focus

Focus(1993)

   1993年に発表した1stフルアルバム。これが全世界のマニアに大ウケした彼等の最高傑作だ。

 鋭いインテリジェンスと超絶技巧と絶賛される卓越したテクニックから繰り広げられる摩訶不思議な世界。ジャズ・フュージョンの要素を生かしたプログレでありながらもデスヴォイスや鋭く激烈度の高いリフがメタルのカタルシスをも味あわせてくれる稀有な作品だ。だが、宇宙との距離を縮めるエフェクトヴォイスや女性の麗しき声が生む奇妙な浮遊感が感じられるし、変幻自在のリズムによる静と動の起伏に富んだ構成で倒錯したかのような空間が浮かび上がってくる。火花を散らすというよりは各パートが絶妙なバランスで絡み合って不可解な物語をつくりあげていく。そして、その物語からは、天国と地獄の往来に広大な漆黒の宇宙空間までをも含めた、とんでもない諸行無常の旅に連れて行かれているような感覚を覚える。闇鍋とも評されてもおかしくはない多様な音楽性・奇妙な音風景がこの8曲35分という中で表現されているわけだ。もはやこれは神話とか哲学とかで語るようなもんだろう。余りにもかけ離れた様々な要素が本作では違和感無く共存しあって彼等のオリジナリティを確固たるものとしている。たぶん、後のバンドもこんな奇妙極まりない世界観と音楽性に影響を受けたことだろう。それに全体を通して透き通るかのような凛とした美しさもまた魅力一杯である。どの楽曲にもCynicの魅力が詰め込まれており、精神に大きな効果を及ぼすことだろう。特に#1「Veil of Maya」は彼等の凄さを物語る名曲だ。個人的には有機的な美しさを感じさせる#7をかなり堪能したものだ。

 8曲で35分という短い時間であるが、この作品から聴き手が受け取る情報量の大きさは他の凡庸な作品と比べれば桁違いだ。この作品を残して解散という道を選んだ(といっても06年再結成)のはきっとこれ以上のものは作れないというのもあったのだろう。当時に“10年先の作品”といわれたのも納得だ。ちなみにわたくしは、2004年のリマスター盤を持っていて、これは6曲のボーナストラックが付属。番外編として十分楽しめる内容になっている。

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