Earth -‐Review-‐

故カートコバーンとも親交の深かったUSオルタナティヴシーンの鬼才・ディラン・カールソン率いるEarth。地球を揺り動かす激重ドローンでカルト的な人気を博すSUNN O)))がEarthをリスペクトしてその名をつけたことが知られている。Earthといえば何といっても脅威の殺戮ドローン「Earth2」で全世界に与えた衝撃であろう。これにより彼等はドローン・ミュージックの始祖として圧倒的な存在になり、一部から神格化されている。その後、2枚ほどアルバムをリリースしたが、薬物中毒によりシーンから一旦姿を消すことになる。だが9年のときを経て5thアルバム「Hex」を発表。ドローンミュージックどころか、ブルージーなアメリカサウンドに踏み込んだこの作品は物議を醸した。そして2008年、3年ぶりの6作目にあたる「The Bees Made Honey in the Lion’s Skull」を発表した。2011,2012年には2枚連作となる『Angels of Darkness, Demons of Light』をリリース、その孤高のミュージックの凄みを思い知らされた。

レビュー作品

> Angels of Darkness, Demons of Light 2 > Angels of Darkness, Demons of Light 1 > A Beaurocratic Desire For Extra Capsular Extraction > The Bees Made Honey in the Lion’s Skull > Hex: Or Printing In The Infernal Method > Living In The Gleam Of An Unsheathed Sword > EARTH 2 : Special Low Frequency Version


Angels of Darkness Demons of Light 2

Angels of Darkness, Demons of Light 2(2012)

 昨年発売されたアルバム『Angels of Darkness, Demons of Light』の続編。Part 1と同時期に制作されていたもので、一時期は2枚組としてリリースするというアイデアもあったそうだ。前編が約60分ほどに対して、今回の後編は約45分と時間的には短い仕様。内容としては第一章から地続きで、様々なジャンルの諸要素を掛け合わせた含蓄と深みのある音色が、緊張感を持って鳴り響き続ける。もちろん大きな変化はない。ただ前作以上に静謐なつくりはそれだけで緊張感に締め付けられそうになるが、古代芸術のような品位と思わず身構えてしまうような厳格さがあり、太古から現代へと通じていくような悠久の時の流れも感じさせる。核となっているのは当然、全てを見透かしたように研ぎ澄まされた感覚から紡がれるギターとドラムなのだが、柔らかな刺激と丸みを帯びたチェロの旋律が彩りを加えていく。古めかしく懐かしい、それでいて今までには感じたことのない様な新しさも備えた音楽。ドローン、アメリカーナに重きを置きつつもジャンルという境界線はなく、様々な音と触れあい、掬いあげながら『Hex』以降の自身をさらに高めている。各楽器がゆるやかに共鳴し合い、耳を撫でるような柔らかさと歴史の重みみたいなのを両方を感じさせる#2を始めとして、Earthは繊細にしてダウナーな物語をこちらでも創り上げた。穏やかに凪いだ音がどうしてこうも重く拡がり続けるのか。達観したものが奏でるサウンドはやはり業深い。


Angels of Darkness Demons of Light 1

Angels of Darkness, Demons of Light 1(2011)

 約3年ぶりとなる通算6枚目となるスタジオ・アルバム。05年の再結成作『Hex』からパワー・アンビエント/ドローンの地平を越え、悠久たる音楽の形成を目指してきた彼等の進化/深化が本作でも見事に発揮されている。ロックというフォーマットを用いながらもフォーク/カントリー、ジャズにブルースといった要素を含蓄し、美学に基づいた音響とプロセスの果てに浮かび上がる独特の味わいと風情を持ったこのサウンドはまさしくEarthでしか成しえないものといっていいだろう。重く深いギターの音色、沈み込むように打ち鳴らされるドラムに太いベースとチェロの荘厳でふくよかな調べが加わって、アメリカの広大な風景とそこに暮らす人々の感情の僅かな蠢動をも描き出す。仄暗く陰った性質、反復を基調とした展開、繊細な音の選び方、空間の取り方、奥ゆかしく落ち着いた佇まいはそのまま。だが、メロディに寄りそった造りになったことや構築された曲から即興インプロへと流れ込んでいる全体構成を取って、前作で表現した風景を地続きにさらに引き延ばすことに成功している。静かな郷愁が古色蒼然とした音色に溶け込み、悠然としたブルージーなギター・フレーズがしっとりと神経の一本一本に染みていく。未知の種類の感動との触れ合い、やはりEarthの音楽を聴くとそれを毎回覚えることになる。

 ゆったりと確かめる様に楽器を鳴らしながら、恐ろしく含蓄に富んだ、またとてつもない深みを内包した音楽の造形。そして、人間の根源的な部分に覚醒をもたらし、麻薬的な酩酊感の注入、深い余韻を心に拡げていく。Earthはひたすらに深化の過程を歩んでおり、本作の続編は秋に発表予定。彼等の地平に刻む新たな世界が今から待ち遠しいものだ。


Bureaucratic Desire for Extra Capsular

A Beaurocratic Desire For Extra Capsular Extraction (1991 / 再発2010)

 ドローン/パワー・アンビエントの生きる伝説EarthのSUB POPから91年にリリースされた1stアルバム。当初発売されたものは3曲30分強という内容だったが、本作は同時期にレコーディングされていた4曲を追加収録されて再発された完全盤ともいえる内容である。アートワークも丸いピンクの中に瞳が映っているものから、SUNN O)))のスティーヴン・オマリーが手掛けたものに一新されている。

 Earthといえば次作の『Earth 2』における徹底したドローン・サウンドで音楽界の革新を行い、SUNN O)))等の奇形児たちを生んできたわけだが、この1stにもそんな彼等の源流が詰まっている。陰鬱なリフが執拗に繰り返されて徐々に変相していくギター、冷たく重い感触で機械的に叩かれているかのようなドラムが淡々と進行役を担う。それがEarthの基盤を創り上げているわけだが、この1stでは徹底して排除・限定した音数の中でもドゥーム/スラッジの要素が強いことやニルヴァーナのカート・コバーンが参加(#2における朴訥とした声と#6の暗闇に沈んでいくような唄)していて、もっと音楽的な感じがする。必要最小限の音数で人間の精神をずぶずぶ犯していく次作へのアプローチは、病的なまでに脳味噌をかき乱していく18分のドローン#3でみせているし、密教呪詛ドローンともいうべき組曲#1、#2の存在感は格別。暗闇の世界を単一リフと最小限のビートで垣間見せる手法は、本作でも異常な中毒性を発揮しているといえよう。追加音源の方もさすがといえる内容で、Pelicanがカヴァーしたことでもお馴染みになった#4は激重スラッジでしっかりと展開も練られていて強烈だし、インダストリアルな無機質で冷徹なビートで牽引する#7も凄い。

 Earthといえば何かとカート・コバーンが云々と話をせざるを得ないのが常になっているような気もする。っが、彼が参加しているということを差し引いても、ドローン/パワー・アンビエントの萌芽ともいえる内容の本作はしかるべき闇の深淵へと人々を導く作品だったといえるだろう。この度の再発で多くの人に無に立ち返っていくかのようなEarthの音楽を体験してもらいたいものだ。


The Bees Made Honey In The Lion's Skull

The Bees Made Honey in the Lion’s Skull(2008)

 作品を聴き終えた瞬間、猛烈に湧き上がる感情が身体中を走り抜けた。天壌無窮の殺戮ドローン・ミュージックの衝撃作「Earth2」から9年ぶりに姿を現した復活の前作「Hex」ではクリアなサウンドを取り入れた新しい次元へと足を踏み入れたEarth。今作は聴いた感じ、その「Hex」の延長線上にあるものだといえるだろう。普遍的な音楽という観念に立ち返ったかのような作品であり、スローで淡くブルージーなギターリフが延々と繰り返され、その上にピアノ・オルガン等で優美でオリエンタルな質感を与えている。それらが有機的に混ざり合って三次元的に広がるハーモニーがとても官能的で美しい。熟成を重ねた渋みと豊穣感というのも音から滲み出ている。幻想感すら漂わせる神秘のサウンドスケープ。

 原始から現世までの時間の流れを感じさせてくれる深遠な音世界。人間の内面に迫るというよりはむしろ、この遥かなる地球の深奥に接近を試みたような音だ。本当に奥深い境地に辿りついている。漆黒の闇と燦然とした光の対峙、万物の生と死、この世の全てに対して問いかけるような作品であると思う。 荒涼とした大地に悠々と轟く畏敬の神音が我々を覚醒へと導くはずだ。

 なお、日本盤はヨーロッパのライブ音源を集めたボーナスディスク付(値段は3150円ですが)。こちらはヨーロッパツアーだけで限定発売されたものらしい。そのライブ盤も格別の味わいがあるエクスペリメンタル・ミュージックなので、興味をもたれた方は日本盤の方をオススメします。


Hex: Or Printing in the Infernal Method

Hex: Or Printing In The Infernal Method(2005)

 約9年の時を経て届けられた奇跡の復活作。時の流れというのはドローン・ミュージックの始祖であるEarthの音楽さえも変えてしまう力を持っているのだろうか?ここにあるのはかつてのEarthの音楽ではなく、第二形態に進んでしまった事を意味する、新たな音を創造している。殺傷力は無くなり、クリアなギターが広大な大地を悠然と漂うようなサウンドへと変貌。それでいて心の細部に眠るノスタルジアを呼び起こすような感覚。全体的に霞がかったモノトーンのようなサウンドで覆われ、仄暗い印象を与える。かつてのように重苦しいディストーションギターの音圧で肉体的にも精神的にも屈服させるのではなく、本作ではブルージーでノスタルジックな音が中心ながらも心の内面をしっかりと突く作品である。壮大なストーリーを描いた約46分に何かとてつもないようなものが詰まっていて、聴く度に底なし沼にはまっていくかのようだ。これこそが鬼才と呼ばれるディラン・カールソンが放った黒魔術かもしれない。

 第2のEarthの序章となった呼べる革命的な本作。  古の風景を映し出す暗黒色のサウンドトラックのように音が響き渡る。


Living In The Gleam Of An Unsheathed Sword

Living In The Gleam Of An Unsheathed Sword(2005)

 9年ぶりとなるアルバム『Hex』に先立ってリリースされたライヴアルバム。全2曲約73分に及ぶボリュームで、現在のEarthの立ち位置を示している。#1「Dissolution 3」はWNYUラジオでのスタジオ・ライヴを収めたもので、ディラン・カールソンのソロナンバー。空間が歪むヘヴィなリフを延々と繰り返していき、後半にちょっとだけ叙情味を取り入れようとしたフレーズが挟まれる。約15分の底なしのヘヴィ・ドローン。そして、本作の要になっているのがタイトルトラックの#2で、ディラン・カールソンのギターに女性ドラマーのエイドリアン・デイヴィスが加わって、二人によるヘヴィ・ドローン・インストゥルメンタルが約58分間も続く。こちらもリフの繰り返し攻撃で酩酊させていく楽曲であるが、ドラムがわかりやすい躍動感を生んでおり、インプロっぽい感じではあるのだが展開も構成も考えられているように感じさせる。それ故に涅槃のような轟音地獄は避けており、以前には無かった聴きやすさというのが少しではあるが存在するようになった。前述したようにワン・リフを基調としながらもテンポチェンジを幾度か行い、緊張感を高めながら昂揚感すら覚えるラストへと進んでいく。長丁場ではあるが、これ系のリスナーに受け入れられる材料はそろっている。この作品の後の9年ぶりとなるアルバム『Hex』では新しいEarthの音楽を厳かに打ち鳴らして、驚きを与えるのであった。


Earth 2

EARTH 2(1993) 

 SUB POPからリリースされたこの2ndアルバムは、EARTHの代名詞であると共に、まさしくエポック・メイキングな1枚。漆黒の時を奏で続ける重低音ノイズは、ドローン・ドゥーム/パワー・アンビエントを孵化させた歴史的にも重要作にあたる。それこそ現在では、SUNN O)))という怪物を生みだした作品として再評価もされているのだ。

 そんな本作に収められているのは、音楽による究極表現の一種といっても過言ではないだろう。地獄から呼び寄せられたドローン/ドゥーム・リフが延々と鳴り続ける3曲70分超の驚愕のインストゥルメンタル暗黒絵巻。その単純な表現力を持ってしって彼等は涅槃の扉を開いていく。本当にひたすらギターとベースによる嫌がせが続くだけ、さらに加えるとドラムレス(厳密にいえば少しはいってるけども)で展開もへったくれもなし。そして、またメロディも拒否している。故にリスナーに寄りそっている所は全くなく、ポップという言葉は完全に捨て去った。ただ、彼等の漆黒の美学に基づいて究極の音楽を追い求めており、ロックの範疇を越えて、ドローン/ドゥーム、さらにはアンビエントや現代音楽までをこの轟音は行き交っている。終わるともしれない重低音ノイズに空間が埋め尽くされては、肉体的にも精神的にも追い詰められ、そして時間軸さえも奈落の底に突き落としてしまう。轟くリフの壁はジャケットの爽やかな青空すらも飲み込んでいく。そんな恐ろしく巨大な作品であり、孤高の音楽性に敬意すら浮かぶ。

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