Grails ‐‐Review‐‐

アメリカ・オレゴン州から深淵なる音楽を創造し続ける4人組。暗闇の底部を漂うドローン、時に戦慄さえ覚える幻惑的なサイケ、中近東風の異国情緒が薫る不穏なインストゥルメンタル。

レビュー作品

> Black Tar Prophecies Vol’s 4, 5 & 6 > Deep Politics > Doomsdayer’s Holiday > Take Refuge in Clean Living > Burning Off Impurities > Burden of Hope


Black Tar Prophecies Vols. 4, 5, & 6

Black Tar Prophecies Vol’s 4, 5 & 6(2013)

 定期的にリリースを続けるBlack Tar Propheciesシリーズの4と5に、新たに6を加えた編集盤(7年前に、1と2と3をカップリングした編集盤が発売されている)。彼等の特色である魔境を覗くような暗黒サイケデリア、ミステリアスな風情、摩訶不思議な異国情緒を感じさせる深遠なる音響は健在だ。その上でこのシリーズは、よりディープで古めかしく渋い印象はあれど、全編に渡って深い哀愁を帯びている。緻密なアンサンブルと練り上げた構成を根幹にして、聴き手をまだ見ぬ最果ての地へと連れていく。濃厚ともいえるサイケデリックな装いに、アコギやピアノ、メロトロンなどが緊張感を持って鳴り響き、シンセやサンプラー等による幻惑術も加わる。ひどく重たく妖しく、それでいて透明感のある美しさも兼ね備えており、前作『Deep Politics』から引き継がれている古色然としたモノクロ映画を見ている様な感覚もあり。重たい闇に取り込まれていく#2「Self-Hypnosis」、エレガントなピアノを中心に上品な叙情性に彩られた#5「Up All Night」、時空が歪む重厚なサウンドを基盤にしてオリエンタルなフレーズが浮かび上がる#10「Corridors Of Power III」等を中心とした全12曲。Grailsは、現代のインスト・バンドとして特異な存在として歩みを続けている。


Deep Politics

Deep Politics(2011)

   前作『Doomsdayer’s Holiday』より約2年半ぶりとなる7thフルアルバム。リリースは前作同様にTemporary Residenceから。新たにストリングスの作曲家を迎え入れて制作されたという本作は、丹念に奏でられる音色ひとつひとつが深く、曲の持つ映像性や物語性の高さがさらに引き出された内容。それと同時にバンドとしての懐の深さや引き出しの多さを肌で感じ、さらには多角的なアプローチによって壮大な音絵巻を精巧に綴っている。

 聴くのは『Take Refuge』以来となる(本稿執筆当時)のだが、濃い霧の中から差しこんでくる古びたギターの音に始まって、ストリングスとアコギが奇妙な輝きをもたらしながらリズム隊が柔らかくも強固に世界観を浮かび上がらせていく#1「Future Primitive」から凄さを実感。妖しくダークな感性とオリエンタルな艶めきを有しながら、音の選び方や意匠に工夫を凝らす事で計り知れない世界の奥行きや刹那の緊張感をもたらしている。これまでもオルタナティヴやポストロックといった表現以上の拡がりと深さを内包した独自の造形物を組み立ててきたわけだが、70年代のプログレやクラシック、ジャズに現代音楽まで数多くの要素が理想的な形で楽曲に寄与されている印象を受ける。

 特に#4ではポストクラシカル風のピアノとストリングスが悲壮な旋律を奏でながら、徐々に力強さを増していくアンサンブルに全身が熱せられていく様が圧巻だ。#5にしてもピアノとストリングスの静謐な調べが特徴的で作曲家を起用しての本気度が伺える。また詩情たっぷりの楽器陣のハーモニーが闇の宴を開催する#7やアコギの音色を松明代わりにして希望へと案内していく#8も味わい深い。通しで聴いていると太古の景色から中世の廃墟のような建造物、現代の都会の夜まで本当に様々な場所に手招きされ連れて行かれる感じ。さらには重厚かつ柔らかいフィーリングを常に持ち、かつここぞのダイナミズムにも優れている。ひとつとして同じ曲はないと思いこませるほどの楽曲の多彩さも驚くほどだし、深い陶酔感に溺れると同時に浄化作用まで働かせるこの感覚も凄い。

 個人的にはEarthがシーンに復帰して以降に奏でている音楽の先をこのGrailsが奏でているような気さえしている。かくも残酷でありながらも幻想的な美しさを見事に醸し出すこの巧緻な構成は彼等の成せる魔術という他ない。豊穣な音の結晶体による不思議な濃密さと詩情たっぷりの物語性は深淵たる異界への扉となりうるはず、間違いなく今年の重要盤である。


Doomsdayer's Holiday

Doomsdayer’s Holiday(2008)

   Earth, SUNN O)))のプロデューサーのRandall Dunnが手がけた半年ぶりとなる6thアルバム。荒廃した闇の深度を掘り下げていくかのような作品で、一度足を踏み入られれば最後。かくも怪しく美しい世界に身も心も堕ちていく。独特の暗さと重さを内包した怪奇質のインストは、ポストロックからフリージャズ、プログレ、サイケ/ドローンまでの力を内包し、暗闇と幻想の中で神秘的に鳴り響く異形の産物となっている。ギター、ベース、ドラムというコアにアコギや民族楽器やサンプリング等の多楽器が生み出す昂揚感と陶酔感、そして選び抜かれた音が結合して描き出す風景は、前作以上に摩訶不思議なエネルギーを伴っており、ここぞで完璧な冴えをみせるアンサンブルもインパクトが大きい。非日常的な世界へと確実に誘うインストゥルメンタルの儀式、その手腕は見事としか言いようがない。初めて彼等の作品を聴いた人に、”こんな音楽は聴いた事が無い”という感覚を強く浮かびあがらせることだろう。

 不気味な空気が充満する中で、ひどく重たく妖しい気配を伴ったゆったりと推進する#1に始まり、民族楽器の高らかな旋律に牽引されてヘヴィなサウンドが寄せては返す#2、もはや独特としかえない黒に近い灰色の煙が立ち込めるかのようなアンサンブルで神秘と暗黒の狭間を駆け巡る#5、とどの曲もずるずると彼等が生み出す異界に引き込んでいく。整理されている用でどこか混沌としていて、さらにはじめっとしたダウナー感も本作では強いように感じる。また、#4ではフリージャズのようなアプローチが垣間見えるなど、単純なインスト・ポストロックとは確実に一線を画す内容。どこかのお寺でお香を焚いて悟りの儀式でも繰り広げているかのような不穏さが特徴的な#6もまた特異な空気感の形成に大いに貢献している。そして、最後に鈍い光に包まれていくかのような柔和なサウンドアプローチとウェットな質感が素晴らしい#7で開放へ。本作でも収録された7曲全てが違う景色を描き出し、そこから闇に包まれた異界へと徐々に推進していくのが凄い。そして、そのように錯覚させる魔力めいたものを音に巧みに配合している事もだ。『Take Refuge』からさらに深まった音楽性を示した全7曲38分、未知の刺激と陶酔感が満載。


Take Refuge in Clean Living (Dig)

Take Refuge in Clean Living(2008)

   Omの新ドラマーが在籍しているGrailsの5枚目の作品。これがまた漆黒の中を這いずる独特の深み、如何ともしがたいぐらいの妖しくも美しい世界観を存分に堪能できる1枚に仕上がっている。サイケデリックな波の上をオルガンや様々な弦楽器などを駆使して神聖な雰囲気をかもし出し、オリエンタルな旋律が深遠なる魅力を放つ。艶かしく情景が移り変わっていく様を体験できる5曲約32分は短いながらも非常に濃密な時の経過を悠然と物語っている。サイケ・ドローンの闇を滲ませたサウンドが軸だとは思うが、豊かな表現力と滑らかなメロディを浮遊させて神秘的かつ荘厳な音の空間を創り上げている。あまりにも懐の深い音楽であり、他のインストバンドにはないオリジナリティと魅力を兼ね備えているといえるだろう。誰も踏み入ることができなかった聖域にたどり着いてしまった感すらある。迫力の重低音の上を優雅な民族音楽が絡むことで鮮やかな躍動感を生む#1は、森の奥底で行われる妖精たちの宴を想起させる名曲といえるし、翳りや憂いを帯びながらも妖しく悠然と音が流れていく#4は本作の白眉だと思う。妖しき音の蠢きに溺れてみたい方には是非ともオススメしたい秀逸な作品。美しき闇の秘音を知ることができるでしょうから・・・。


Burning Off Impurities

Burning Off Impurities(2007)

   オレゴン州ポートランドのインストゥルメンタル・バンドの4作目。本作はMONOのHuman Highway Recordsから直輸入盤という形で国内流通していた。

 暗闇の底部を漂うドローン、時に戦慄さえ覚える幻惑的なサイケ、中近東風の異国情緒が薫る不穏なインストゥルメンタルという仕様を変わらずにそのまま突き詰めているというのが第一印象。その上でポストロック的な明解なカタルシスを本作では抽出していて、未知なる昂揚感に突き動かされていく。猛々しいドラミングに妖しく美しいメロディを乗せ、アコギやバンジョーといった楽器をも使用しながらの複雑なアンサンブルが荒廃した景色を描き出す。この陰にこもりがちな空間造形の巧さが脅威的である。各楽器のハーモニーは豊潤ではあるのだが、やはり重たく暗いフィーリングを備えていて、独特の耽美性も楽曲の隙間から洩れてきているのが印象的だ。このアブストラクトな雰囲気やドローンの彫刻の絶妙さ、不思議なオリエンタリズム等は彼等でしか成しえない技。多彩な趣向を盛り込みながら、異質な空間へと引き摺り込むこの引力の凄さが彼等の強みでもある。

 中近東風の雰囲気を晒す序盤から重厚なギターとリズムが景色を一変させる#1に始まり、複雑なアンサンブルでもってして民族色の強いオリエンタル・サイケを体現する#8まで強烈な個性を堪能しつづけることができるだろう。特に、妖しくエキゾチックな風情とポストロックの上昇アプローチが見事に噛み合った#3「Silk Rd」は凄まじい興奮を禁じえない傑出した曲に仕上がっている。作品からは古色然とした空気から神秘的な薫りまで漂わせており、新たな領域に踏み込み続けては特異な持ち味にしていくGrailsの進化/深化はこれからも続いていく。


Burden of Hope

Burden of Hope(2003)

   03年にNeurot Recordingsからリリースされた1stアルバム。彼等の作品は新しい方から遡って聴いてるのだけど、初期から一貫したフィーリングを持っており、この頃から独特の音響構築を持ってして、風景を丹念に奏でていた事がわかる内容だ。暗く深い物語を奏でるインストゥルメンタルというのも共通。常に闇と隣り合わせのダウナーな雰囲気を持っているのだが、ポストロックというよりも現代音楽的な要素が強く、重い空気が充満している。

 創初期の目玉であったヴァイオリンの暗い旋律、そして暗欝たるギターの音色が光を遮り、荒廃した景色へと導いていく。エミール・アモスの力強く荒々しいドラミングもそれに加勢し、世界の最果てにでも取り残された様な雰囲気を助長する。それでいて、耽美な色彩や温かいメロディが零れおちてくることもあり、そのアンサンブルの妙はこの頃から驚異の磁場を発揮しているのがわかる内容。不穏なサイケ、荘厳なクラシック、深いドローンといった味も加味されており、自身のサウンドをさらに深化させる。クラシック調の荘厳なるヴァイオリンの調べを導入部にして、ポストロック的なディストーション・ギターの暴発へと繋がっていく#3、物悲しくも麗しいピアノの旋律をバックに有機的な物語が開けていく#4、救いようのない悲しみの海から美しいクライマックスへと突入する#9などで闇と美が奇妙に重なり合う瞬間を造形。聴き手の掌握と覚醒、それを見事に成し遂げてしまう本作は、他のバンドとは一線を画すような独特の風景を奏でる事を既に証明してみせたデビュー作である。

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