Grails ‐‐Review‐‐

アメリカ・オレゴン州から深淵なる音楽を創造し続ける4人組。暗闇の底部を漂うドローン、時に戦慄さえ覚える幻惑的なサイケ、中近東風の異国情緒が薫る不穏なインストゥルメンタル。

レビュー作品

> Chalice Hymnal > Black Tar Prophecies Vol’s 4, 5 & 6 > Deep Politics > Doomsdayer’s Holiday > Take Refuge in Clean Living > Burning Off Impurities > Burden of Hope


Chalice Hymnal

Chalice hymnal(2017)

 約6年ぶりとなる6thアルバム。その合間にはLilacs & Champagneという課外活動を行っていたりしましたが(Omの活動もあると思いますが)、Grailsの特異性はそのままです。Maseratiを思わせるビートとミニマリズムを追求した#2「Pelham」みたいな変化球の踊れる曲を含んではいますが、深遠という言葉を用いたくなるほどに濃霧と幻想にまみれた音世界が広がっています。

 本作では20世紀の映画音楽やサイケミュージック、クラウトロックの影響を公言していますが、表題曲#1「Chalice hymnal」のように淡々としつつも厳かな音の連なりが意識を深く取り込みます。アコギやストリングスで表現する風景の満ち欠け、電子音が添える明暗、アンサンブルの円熟によって隅々まで行き渡るサイケデリックな質感。まさしくGrailsです。地の底の蠢きのごとくヘヴィな揺さぶりがある#4「New Prague」、静かな儀式音楽#6「Tough Guy」が不穏さを煽りますが、らしさがにじみ出た#5「Deeper Politics」や#8「Deep Snow Ⅱ」と作品を美しく神秘的に彩ります。

 その中でも、10分をかけてChalice Hymnalという物語を締めくくる#11「After The Funeral」は印象的。アガサ・クリスティの同名小説に由来していると思いますが、ストリングスを案内役にスローモーションで流れる世界の最果てを写し出しているかのようです。サウンド・トラックのように添い遂げるタイプの作風であっても、他にはない渋さと深みで聴き手の心の奥まで入ってこれる凄み。絶対的な軸がバンドとしてあり、時の流れに左右されない。むしろ5年、10年と経過時間ごとに味が変わるワインのように、彼等の作品は変化が楽しめるはずです。

Grails – Chalice Hymnal
Artist: Grails Track: Chalice Hymnal Album: Chalice Hymnal Purchase:

Grails - Chalice Hymnal


Black Tar Prophecies Vols. 4, 5, & 6

Black Tar Prophecies Vols. 4, 5, & 6(2013)

 定期的にリリースを続けるBlack Tar Propheciesシリーズの4と5に、新たに6を加えた編集盤(7年前に、1と2と3をカップリングした編集盤が発売されている)。彼等の特色である魔境を覗くような暗黒サイケデリア、ミステリアスな風情、摩訶不思議な異国情緒を感じさせる深遠なる音響は健在です。その上でこのシリーズは、よりディープで古めかしく渋い印象はあれど、全編に渡って深い哀愁を帯びている。

 濃厚ともいえるサイケデリックな装いに、アコギやピアノ、メロトロンなどが緊張感を持って鳴り響き、シンセやサンプラー等による幻惑術も加勢。ひどく重たく妖しく、それでいて透明感のある美しさも兼ね備えており、前作『Deep Politics』から引き継がれている古色然としたモノクロ映画を見ている様な感覚もあり。重たい闇に取り込まれていく#2「Self-Hypnosis」、エレガントなピアノを中心に上品な叙情性に彩られた#5「Up All Night」、時空が歪む重厚なサウンドを基盤にしてオリエンタルなフレーズが浮かび上がる#10「Corridors Of Power III」等を中心とした全12曲。Grailsは、現代のインスト・バンドとして特異な存在として歩みを続けています。

Grails – Self-Hypnosis
Artist: Grails Track: Self-Hypnosis Album: Black Tar Prophecies Vol's 4, 5 & 6 Order CD/LP:

Grails - Self-Hypnosis


Deep Politics

Deep Politics(2011)

   約2年半ぶりとなる5thフルアルバム。リリースは前作同様にTemporary Residenceから。新たにストリングスの作曲家を迎え入れて制作されましたが、丹念に奏でられる音色ひとつひとつが深く、曲の持つ映像性や物語性の高さがさらに引き出された内容です。濃い霧の中から差しこんでくる古びたギターの音に始まって、ストリングスとアコギが奇妙な輝きをもたらしながらリズム隊が柔らかくも強固に世界観を浮かび上がらせていく#1「Future Primitive」から本作の凄さを実感します。

 妖しくダークな感性とオリエンタルな艶めきを有しながら、音の選び方や意匠に工夫を凝らす事で作品の奥行きや刹那の緊張感をもたらしている。これまでもオルタナティヴやポストロックといった表現以上の拡がりと深さを内包してましたが、70年代のプログレやクラシック、ジャズに現代音楽、サウンドトラックまで数多くの要素が理想的な形で楽曲に寄与されています。

 特に#4ではポストクラシカル風のピアノとストリングスが悲壮な旋律を奏でながら、徐々に力強さを増していくアンサンブルに全身が熱せられていく。#5にしてもピアノとストリングスの静謐な調べが特徴的であり、作曲家を起用しての本気度が伺えます。また詩情たっぷりの楽器陣のハーモニーが闇の宴を開催する#7、アコギの音色を松明代わりにして希望へと導く#8も味わい深い。

 通しで聴いていると太古の景色から中世の廃墟のような建造物、現代の都会の夜まで本当に様々な場所に手招きされ連れて行かれる感じ。重厚でありつつ柔らかいフィーリングを常に持ち、ここぞのダイナミズムも発揮。ひとつとして同じ曲はないと思いこませるほどの楽曲の多彩さも驚くほどだし、深い陶酔感に溺れる。と同時に浄化作用まで働かせるこの感覚も凄い。

 かくも残酷でありながらも幻想的な美しさを見事に醸し出せるのは、彼等の成せる魔術という他ない。再始動した近年のEarthのその先の音色・風景を奏でているような気さえします。幻夢の中で揺れる音の交わりによる詩情たっぷりの物語。Grailsの音楽は異界への扉となるものであり、間違いなく今年の重要盤。

Grails – Deep Politics
Grails – Deep Politics Album: Deep Politics (2011) www.myspace.com/grailsongs

Grails - Deep Politics


Doomsdayer's Holiday

Doomsdayer’s Holiday(2008)

   Earth, SUNN O)))のプロデューサーのRandall Dunnが手がけた4thアルバム。荒廃した闇の深度を掘り下げていくかのような作品で、一度足を踏み入られれば最後。かくも怪しく美しい世界に身も心も堕ちていきます。独特の暗さと重さを内包した怪奇質のインストは、ポストロックからフリージャズ、プログレ、サイケ/ドローンまでの力を内包し、暗闇と幻想の中で神秘的に鳴り響く異形の産物。アコギや民族楽器やサンプリング等の多楽器が生み出す昂揚感と陶酔感はさることながら、ここぞで完璧な冴えをみせるアンサンブルもインパクトが大きい。非日常的な世界へと確実に誘うインストゥルメンタルの儀式という印象です。

 不気味な空気が充満する中で、ひどく重たく妖しい気配を伴ったゆったりと推進する#1に始まり、民族楽器の高らかな旋律に牽引されてヘヴィなサウンドが寄せては返す#2、もはや独特としかえない黒に近い灰色の煙が立ち込めるかのようなアンサンブルで神秘と暗黒の狭間を駆け巡る#5。どの曲もずるずると彼等が生み出す異界に引き込みます。整理されている用でどこか混沌としていて、さらにはジメっとしたダウナー感も本作では強い。また、#4ではフリージャズのようなアプローチが垣間見える。そして、最後に鈍い光に包まれていくかのような柔和なアプローチとウェットな質感が素晴らしい#7で解放へ。全7曲それぞれが違う景色を描き出してますが、そのように錯覚させる黒魔術たる手腕に脱帽します。『Take Refuge』からさらに深まった音楽性を示した全7曲38分、陶酔感が満載。

Grails "Doomsdayer's Holiday" Commercial
Doomsdayer's Holiday 2008 © Temporary Residence Ltd.

Grails "Doomsdayer's Holiday" Commercial


Take Refuge in Clean Living

Take Refuge in Clean Living(2008)

   5曲入りミニ・アルバム。Omのドラマーが在籍ということで興味を持ち、本作がGrailsで初めて聴いた作品です。これがまた漆黒の中を這いずる独特の深み、如何ともしがたいぐらいの妖しくも美しい世界観を存分に堪能できもの。

 サイケデリックな波の上をオルガンや様々な弦楽器などを駆使し、そのオリエンタルな旋律が深遠なる魅力を放ちます。艶かしく情景が移り変わっていく様を体験できる5曲約32分は、短いながらも非常に濃密な時の経過を悠然と物語る。迫力の重低音の上を優雅な民族音楽が絡むことで鮮やかな躍動感を生む#1は、森の奥底で行われる妖精たちの宴を想起させますし、翳りや憂いを帯びながらも妖しく悠然と音が流れていく#4は本作の白眉だと思います。サイケ・ドローンの闇を滲ませたサウンドが軸だと感じますが、その懐の深さには驚かされ、他のバンドにはない個性が魅力的に感じました。

GRAILS – TAKE REFUGE

GRAILS - TAKE REFUGE


Burning Off Impurities

Burning Off Impurities(2007)

   約3年ぶりとなる3作目。本作はMONOのHuman Highway Recordsから直輸入盤という形で国内流通していました。

 暗闇の底部を漂うドローン、時に戦慄さえ覚える幻惑的なサイケ、中近東風の異国情緒が薫る不穏なインストゥルメンタル、という仕様を変わらずにそのまま突き詰めているというのが第一印象。その上でポストロック的な明解なカタルシスを本作では抽出していて、未知なる昂揚感に突き動かされます。猛々しいドラミングに妖しく美しいメロディを乗せ、アコギやバンジョーといった楽器をも使用しながらの複雑なアンサンブルが荒廃した景色を描き出す。この陰にこもりがちな空間造形の巧さが脅威的です。

 各楽器のハーモニーは豊潤ではあるのだが、やはり重たく暗いフィーリングを備えていて、独特の耽美性も楽曲の隙間から洩れてきます。アブストラクトな雰囲気やドローンの彫刻の絶妙さ、不思議なオリエンタリズム等は彼等でしか成しえない技。多彩な趣向を盛り込みながら、異質な空間へと引き摺り込むこの引力の凄さが彼等の強み。

 中近東風の雰囲気を晒す序盤から重厚なギターとリズムが景色を一変させる#1に始まり、複雑なアンサンブルでもってして民族色の強いオリエンタル・サイケを体現する#8までじっくりと彼等の音世界を堪能できます。特に、妖しくエキゾチックな風情とポストロックの上昇アプローチが見事に噛み合った#3「Silk Rd」はお見事。

Grails & Silver Apples | NYC @ Knitting Factory | Nov 22 2008 | Silk Road
Live collaboration of Grails and Silver Apples at the Knitting Factory in New York City on November 22, 2008.

Grails & Silver Apples | NYC @ Knitting Factory | Nov 22 2008 | Silk Road


Burden of Hope

The Burden of Hope(2003)

   03年にNeurot Recordingsからリリースされた1stアルバム。彼等の作品は新しい方から遡って聴いてますが、初期から一貫したフィーリングを持っていて風景を丹念に奏でていた事がわかる内容です。常に闇と隣り合わせのダウナーな雰囲気を醸し出しており、ポストロックというよりも現代音楽的な要素が強い。

 創初期の目玉であったヴァイオリンの暗い旋律、そして暗欝たるギターの音色が光を遮り、荒廃した景色へと導きます。エミール・アモスの力強く荒々しいドラミングもそれに加勢し、世界の最果てにでも取り残された様な雰囲気を助長。それでいて、耽美な色彩や温かいメロディが零れおちてくることもあり、そのアンサンブルの妙は特異な空気感を紡いでいる。

 クラシック調の荘厳なるヴァイオリンの調べを導入部にして、ポストロック的なディストーション・ギターの暴発へと繋がっていく#3、物悲しくも麗しいピアノの旋律をバックに有機的な物語が開けていく#4、救いようのない悲しみの海から美しいクライマックスへと突入する#9などで闇と美が奇妙に重なり合う瞬間を造形。聴き手の掌握と覚醒、それを見事に成し遂げてしまう本作は、他のバンドとは一線を画すような特異性を持つことを証明しています。

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