【アルバム紹介】Holy Other、妖しく幻想的な音響

 イギリスの電子音楽プロデューサーDavid Ainleyによる名義Holy Other。Tri Angleの至宝としてデビューし、ウィッチハウスの波を代表する存在と10年代前半に評されました。1stアルバム『Held』で一躍人気を博しましたが、その後は謎の沈黙。2021年に9年ぶりとなる2ndアルバム『Lieve』がリリースされました。

 本記事では『With U』『Held』の2作品について書いています。

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アルバム紹介

With U(2011)

 1stEP。全5曲約22分収録。暗欝で茫洋としたサウンドに意識が自然と吸い込まれる。

 太くうねるベースラインを軸にゆっくりと進み、シンセが主張してはリヴァーブのかかったヴォーカル&サンプリングがミステリアスに鳴り響くのが大きな特徴。

 静謐の中で音数を絞って空間を上手く生かしており、暗く煙たい音の意匠が目立つ。James Blake以降の歌もの系ポスト・ダブステップを暗闇の中で醸成したのが印象的。

 まどろむという感覚はこちらの方が上で、現実と夢との狭間で揺れ動く感覚が強いです。

 チルウェイヴとダブステップの組み合わせなどと評されてもいるようで、確かに#4を聴く限りでは優しいシンセと儚いサンプリングからは、その方面へ触手を伸ばしている事も理解できます。

 また作品の端々からはゴシック、トリップホップといった単語も浮かぶ。しかし、より煙たく、暗い。そして妖しく幻想的。

 硬質なビートの上でゴシック的なサンプリング・ヴォイスが幽玄の森へと誘う様な#1はそれこそオープニングとしてこの上ないし、深いリヴァーブが意識をより吸い寄せる#2にも迷わず拍手を送りたくなります。

 5曲ながらダークな音楽好きを揺り動かす要素は揃っている。

held(2012)

 1stフルアルバム。全9曲35分収録。リリースは前作に引き続いてTri Angle。音楽的にもEPからの継続・強化路線のポスト・ダブステップ~ウィッチハウスの要素を強く感じさせます。

 重心の低いビートに深いリヴァーヴが視界を歪め、艶のあるR&Bっぽい歌とあどけない少女の声のヴォイス・サンプリングが軽やかに揺らめいて、海の底へ底へと徐々に引きずり込む。

 エレガントなシンセも散りばめられ、果てはゴシックな陰性の妖しさや幻想的なアンビエントも内包。それらがゆっくりと昂揚させ、甘い毒となってジトジトと効いてくる。

 オープニングの#1「(W)here」から煙たくもミステリアスな音像がここではないどこかへと連れて行かれます。

 きらびやかな音色と小さな子どもの声がサンプリングされた#2「Tense Past」みたいにメロディからして馴染みやすい曲も含めている。

 それでも漂う寂寥感や孤独感が彼の作品が放つ陰の要素を強くしており、#5「U Now」辺りは特にダークなムードを醸し出しています。

 なかでも#4「Love Some1」や#8「Held」でつくりあげる儚くも耽美な音世界は、特にHoly Otherの個性が発揮されているかと。Balam Acabと並んでTri Angleではチェックしておくべきアーティスト。

Lieve(2021)

 9年ぶりの2ndフルアルバム。

お読みいただきありがとうございました!
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