Jim O’Rourke ‐‐Review‐‐

アメリカのポストロック/実験音楽家。ガスター・デル・ソルやルース・ファーといったバンドへの参加に加え、『Eureka』という傑作を生み出している。日本文化への造詣も深い。


Visitor

The Visitor(2009)

 オリジナルとしては、01年発表の「Insignificance」以来、8年ぶりとなるニューアルバム。3年の時を経て完成させたという本作は、1曲38分のインストゥルメンタルの大作に仕上がっている。しかもギター、ドラム、ピアノを始めとした楽器全部、アレンジやミックスに至るまで全てを彼が一人で行っているらしい。また、編集することなく全てをリアルタイムで演奏した作品でもあるらしい。

 同じインスト作の『バッド・タイミング』の続編的な意味合いもあるという本作は、まず静かなアコギから幕が開く。ここからもう既に包容力が違う。心地よい響きの前に安らかな気持ちが体全体に広がるのだ。包み込むような温もりのある柔らかいサウンドを主体に、ピアノやベース、ドラム、鈴、数種の管弦楽器(十を雄に超える楽器を操っている)が優しく波打ちながら結合していき、音・イメージの双方を聴き手の中でゆっくりと膨らませていく。風景を変えるように、また創造力を掻き立てるように緩急のついた数々のパートを繋ぎ合わせて、なだらかに壮大なストーリーを汲み上げる。

 身を締めるような静謐、多幸感に満ちた躍動が押し寄せる序盤、どっぷりとその世界に浸かっていたはずなのに、いつのまにか彼方からやってきた別の波が違う世界へとさらっていく。気付くと湖畔から漏れてくるような数々の綺麗な音色が優雅に戯れながら紡ぎだす、カントリー・ミュージックとポストロックをミックスしたかのような中盤へ。このオーガニックな躍動感、熱を帯びたうねりの前に昂揚を隠すことができなくなる。眼の覚めるような時間が終わるとまたしても静の境界へ入り、ピアノの厳かで静謐な響きがグッと緊張感を高めていく。そして、包容力に富んだ恍惚のクライマックスへ。至福の波に全ての神経は釘付けになり、最後の静寂ではもう言葉は出てこない。いつまでもこの世界に身を委ねていたくなってしまうのだ。

 胸の内を全て満たすかのような38分間、それは圧倒的というほか無い。1トラック38分という大作志向で聴き手を離すような厳しさを感じるのだが、それ以上に磨き抜かれた福音でもって全ての人に救いや希望をもたらすかのような懐の深さも感じることができる。卓越した構築力、熟成された音の流れ、透徹とした美しさ、息を呑む壮大なパノラマ・・・etc。ジャンルを越えた説得力を持つ本作で、ジム・オルークの凄さを再確認したのだった。

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