東京を拠点に活動する国産アトモスフェリック・スラッジ/ポストメタル4人組。バンド名の由来は、”ユキ”という彼女にフラレタ友人への嫌がらせから。ISIS~Pelican~envy~EXPLOSIONS IN THE SKYといったスラッジ、ポストメタル/ポストロックを自在に横断する濃密な作品を創り上げている。これまでに2枚のデモ音源とAnriettaとのスプリット作品をリリース。
レビュー作品
> Lakshmi > 2nd Demo
Lakshmi(2010)
粋な事に12月25日のクリスマスに発表された、東京のポストロック5人組Anriettaと同じく東京のアトモスフェリック・スラッジ/ポストメタル5人組jukiのスプリット・アルバム。Anriettaが2曲約11分、jukiが2曲約26分で合計4曲約37分も収められていて、EP以上のボリュームが本作の全容だ。印象的な個性と輝きを放つ2バンドの大いなる可能性を凝縮している。
先行のAnriettaのレビューはこちらのページにて。そして、昨年発表の2曲入りの2nd Demo以来、約1年ぶりの新音源となるのが後攻のjuki。美醜、硬軟のコントラストと静・動の豊かな起伏で練り上げられた楽曲は、堂々とした音の拡がりと劇的に高まったドラマ性を有して聴き手の五感に迫ってくる。そんな長尺な2曲(#3「Carved」が約9分、#4「Linear」が約17分)を収録。鬼神のような低音スクリーム、地に裂け目をもたらすかのようなリズムが赤黒く重たい牽引力を担っているが、前作よりもツインギターがアトモスフェリックと表現できそうな空間性を伴っているのが特徴的。滑らかな弧を描くメロディや穏やかな美を振りまくアルペジオの調べを中心とした柔らかな音使いがとても耳に残る。
例えるならPelicanとMouth of The ArcitectとExplosions In The Skyの合成獣といった所で、クリーンな音因子を大胆すぎるくらいに取り入れて”キレイ目スラッジ”と表現できそうな領域にまで踏み込んでいる様子。大らかで有機的に昇華されたそのサウンドは、洗練されたともいえそうだが、静と動が共鳴してひとつになっていくことで力強さと美しさを呼びよせている。そして、丁寧な展開をみせながらも悲痛な情感とキツいヘヴィネスを吐き出すヴォーカル、猛然と景色を塗り替える破壊力ある轟音が荒涼とした音像に収斂していく。手洗い轟音の大津波による歓迎から静と動の大きな落差を武器に壮大な音絵巻を綴る9分超の#3(個人的にはこちらの方が好き)、ゆったりと紡がれる叙情的な音風景からやがては天地を逆さにするような巨大な渦に巻き込まれ、再びメロディアスなフレーズを駆使して柔らかなムードを強めながら完結していく17分を越える#4はその証明。やや冗長的ではあるが2曲共に前作と同様、並いるポストメタルの重鎮たちに殴りこみをかける力を持っている。
両バンド共に感心するのは曲の展開とそれに伴った高い物語性で、感情の蠢きが寸分もなく巧く表出している印象。少しかけ離れた音楽性ではあるが、音の共通項や意識の面で共鳴・親和している部分は多い。ポストロック~ハードコア~スラッジと行き来する音像の中で、若者が心血を注いで鳴らす音色には未来を形どって行く頼もしさがあり、これから先への大きな期待を抱かす良質なスプリット作であると個人的には思う。なお、本作はDISK UNION及びSTM Onlineにて入手できる。
2nd Demo(2009)
国産若手スラッジ/ポストメタル5人組juki(ユキ)の2ndデモ(2曲約25分)。彼等が見せ付ける世界は、ISISやPELICANやenvy…etcといったスラッジ/ポストメタル/ポストロックの先鋭たちへの憧憬をそのまま音にパッケージしたものであるといって差し支えないだろう。
基本的には全編英詩を感情的に叫び続け、ミドル~スロウテンポでスラッジの大海を重たく突き進む感じ。潤いのあるアルペジオやポストロック風の浮遊感が絡むところもポイントとしてあげていいだろう。だが、現実を引き裂く激重と退廃の黒いうねり、曇天から光が差し込む美麗なメロディを操りながら描写する、濃密で広大な音絵巻が聴き手を圧倒する。そして、光と闇をダイナミックに往来しながら果てない情念を駆り立てていく。猛る情念が込められた叫びは精神の内奥を揺さぶり、激重のギターとリズムは轟然と地を揺らしながら荒涼とした風景を映し出し、絶望の深淵から希望が差す天界へと登りつめていくドラマティックな展開は強く感情に訴えを起こす。神経を突き刺し、心を軋ませ、肉体を蝕む狂おしい激音の波動。常に瀕死の世界に足を踏み入れているようで、聴き終わった後には温かな余韻とカタルシスといったものも不思議と感じられる。
物寂しいグロッケンの裏からいきなりPelicanを彷彿とさせる津波のような轟音が問答無用で襲い掛かる#1″sight that will be”。神秘的な静の部分を基調とした展開を維持しつつも、憎悪や悲しみが胸の中で爆音の雄叫びを突如としてあげ、絶望の色を強めていくこの曲は、終盤にかけて爆発する混沌がとかく凄まじい。そして、さらに圧巻なのが14分超にも及ぶ#2″the story between the 12th & 13th stair”だ(myspaceにてフル試聴可能)。Mouth of the Architect辺りの深遠な暗黒スラッジで精神撹乱していく前半の印象が強烈であるが、8分過ぎからEITS辺りを想起させる切なげなアルペジオが端正に連なりながら、宇宙までも羽ばたいていけるかのようなクライマックスの飛翔感を演出する後半の展開も圧巻だ。起伏や明暗の移り変わりも繊細に構築されており、1曲通してグッと引き込まれっぱなし。天と地、絶望と希望、生と死をリンクする14分間は早くもバンドのピークではないかと思える出来栄え。この壮絶で美しいヘヴィネスに個人的にはかなり酔いしれてしまった。
国産のこういったスラッジ/ポストメタル系バンドってこれまでいなかった(あくまで個人的に聴いた範囲だが)と思うので新鮮だった。また、音源を聴いて何度も思ったが、僕が好きなバンドのエキスを巧みに凝縮してしまっているのがこのjukiというバンドだと感じている。先人達からの影響の強さは否定しないが、彼等が刻む音楽に一切の迷いはない。そして、この混沌としたサウンドに乗り移る意志の強さと可能性に期待は膨らむ。
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