Hiroshi Watanabe a.k.a. Kaito ‐‐Review‐‐

世界を舞台に活躍を続けている日本人クリエイター。ドイツの名門レーベル”KOMPAKT”に所属する日本人アーティスト”Kaito”を始め、”QUADRA”、”TREAD”といった様々な名義で活動して人気を博している。


sync positive

Sync Positive(2011)

 本名名義”Hiroshi Watanabe”としては実に4年ぶりとなる2ndアルバム。彼の作品はKaito名義で09年に発表した『Trust』のみ聴いたことあるんだけど、その作品では重く太いベースラインと美しいうわものの響きが、穏やかな昂揚感とうっとりとするような恍惚感の両方で埋め尽くしてくれたのをよく覚えている。Konpaktから出ている事も頷ける、実に見事な作品であった。思わず息を呑むほどの綺麗なメロディとハーモニーが結びつきながら、清冽とした壮麗なる世界を広げていく様は、これまで己の技巧を徹底的に磨いてきたからこその職人技といっても差し支えないはず。

 本作ではそのKAITOの路線を守りつつも、本名名義で発表することでの挑戦が見られる作風。もちろん、センチメンタルなサウンドスケープを通して、無重力にでもなったような心地よさと夢見心地の快感を味あわせてくれる事に変わりはない。しかし、ビートはより強く重く鳴り響き、幻想的なシンセが降り注ぐシャワーのように凛とした美しさを振り撒いている。それらの反復と緩やかなストーリー展開によってじわじわと空間に拡がり、音が身体の中に浸透していく。ミニマル、アンビエント、トランス、ハウスといった要素を滑らかに結びつけ、優しさと切なさに満ち溢れたサウンドを造形。その上でフロア寄りの力強い躍動感もしっかりと演出しているのが印象的だ。また、#1ではピアノの麗しい調べがロマンティックさに拍車をかけ、初の試みとなった女性ヴォーカルによる唄もの#10がまた染み入るような味を出している。心も体も揺さぶられる事は間違いないはず。透明な叙情性、メロウな煌き、程良い疾走感によって、澄んだ青空へと浮かび上がっていくかのような心地よい開放感を演出するのは世界でも有数の腕前だろう。哀愁を静かに感じさせる序盤から徐々に視界がパッと開けていく鮮やかな快感に長けた#9が個人的には本作で随一の素晴らしさだと思う。

 全10曲で約70分と長丁場であるものの、タイトル通りのポジティヴなフィーリングと彼の流麗な手捌きが色鮮やかで親しみのある魅力と大きな包容力を示すことで、心をずっとときめかせてくれる。また、聴けば聴くほどに浄化されていく感覚も味わえる。まさに本作は感動の源泉、ワタナベ氏が創り上げる完成された世界はかくも温かく美しい。そして、人々が前向きに生きていく事を優しく肯定する力に満ちた作品である。

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