Manuel Gottsching ‐‐Review‐‐

1952年生まれのドイツ出身のミュージシャン。ASH RA TEMPELでキャリアをスタートさせ、ジャーマン・プログレやクラウト・ロックの重鎮として存在感を示しているが、それに留まらずミニマル・ミュージック、テクノ、アンビエントなど多方面に大いなる影響を与えた存在である。特に1984年に発表した1曲59分にも及ぶ電子音宇宙紀行『E2-E4』は現在でも色あせることなく、その価値を高め続けている稀代の名盤だ。

レビュー作品

> Live At Mt.Fuji > E2-E4 > New Age of Earth > Inventions For Electric Guitar


Live At Mount Fuji

Live At Mt.Fuji(2007)

    2006年4月に富士山麓にて開催された野外音楽フェスティバル”PRISM”での音源を収録したLIVE作品。5曲72分にも及ぶ本作は、凄まじい多幸感と夢幻なるトリップ感に包まれる恐ろしいライヴ作品である。それは、その場に居合わせたらどうなることやらという感覚を植え付けるほどのもの心地よい開放感があるのだ。

 大名曲#1「Sunrain」から始まるエレクトロニクスとギターで綴られた心地よくも神々しい音世界に、意識が現実と夢の狭間で彷徨い歩く事になる。その「Sunrain」がまた30年前から進化していて、倍近く伸びた演奏時間と共に美しい旋律がさらにプラスされていて心地よいトリップ感が半端ない。個人的にはこの1曲だけでも本作の元は十分取れていると思うが、聴き進めていくうちに彼のボーダーレスな音楽紀行がさらに極まっていくことが理解できると思う。クラウトロック/ジャーマン・プログレを出自に、テクノ、イージーリスニング、アンビエント、ミニマル、フュージョン、エレクトロニカがエレメントとして集積し、さらにはトランス的な昂揚/恍惚までもが表現されている。それが野外な開放感と相まって、素敵な夜と化したのだろう。

 #3ではダブとかアフリカンっぽい躍動感あるリズムとサイケデリックなギターで魅せ、ラスト#5ではシンセ&ギターの反復による昂揚感が凄まじい。ライヴ盤であるにもかかわらず客席の声・拍手等が全て切られているのは逆に驚くが、音質は良く、さらにと生だからこその感情の揺れ動きがパッケージされている。どこまで計算されているかはわからんが、この精妙な構築とオーガニックな響きもまた素晴らしい。降り注ぐ叙情の音雫がもたらす愉楽、そして極楽の秀作。


E2 E4

E2-E4(1984)

   1984年にリリースされたクラウト・ロック、ミニマル、テクノ・ミュージックを密接につなぐ稀代の大名盤である(録音は1981年)。アシュ・ラ・テンペル時代の『Inventions For Electric Guitar』から脈々と続けられた反復の探究と美学は、ついにここで一つの極みに達した。

 1曲約58分のミニマル電子宇宙紀行。美しく繊細なシンセの音色とドラム・マシーンによる規則的なループが延々と続き、音をほんのわずかに変化させていきながら30分を越えた辺りでようやくマニュエル・ゲッチングの美しいギター・フレーズが散りばめられていく。その歌心ある豊穣なギター・サウンドが緻密かつ繊細にメロディをループに重ねながら、詩的で瞑想的な世界を開拓する。1時間にも及ぶその反復が全てではあるが、それらが有機的に結晶化されて繊細に煌めくサウンドスケープを創造し、永遠に持続するような快感とうっとりとするような恍惚感を約束。そこには静謐なアンビエントの心地よさもトランス的な昂揚感も含まれており、ジャーマン・プログレやクラウト・ロック云々という次元を超えて現代のテクノ・ミュージックの源流と評されるようにもなった。しかも、これを一発録りで実現していることにも驚くほかない。早すぎたハウス/テクノ・ミュージックと評されたりもするが、マニュエル・ゲッチングの創造性は神通力をも味方につけ、10年も20年も先を見据えた音楽を生み出してしまったのは事実であろう。

 こんな作品が当然のように当時は見向きもされず、メディアからも酷評されていたそうだが、その後にアメリカ人DJのLarry Levanによって広められて評価が大きく転換している。まさしくミニマル・ミュージックがもたらす魔法であり、究極。制作されてからもうすぐで30年経つのだが、ジャンルをも時空をも越えて人々を恍惚へと陥れる歴史的な作品なのである。


New Age of Earth

New Age Of Earth(1976)

   Ashraと名義を改めて発表された第7作目。前作の『Inventions~』がエレクトリック・ギターの多重録音で奏でた天上であったが、本作ではシンセサイザー/シーケンサーを中心に据えており、それが奏でる快楽的な心地よさと煌びやかな美しさに彩られた音世界が無限に拡がっていく。温かいシンセサイザーの音色に誘われ、眼を瞑って聴いているとそこに浮かび上がるのは桃源郷だ。代名詞とされる#1「Sunrain」の至高の美しさは、何十年経とうとも色あせる事はない。光のシャワーとも評される降り注ぐような美しいシンセサイザーの反復が奏でるこの曲は、安らぎと昂揚が同居。この昇天の音楽は30年という時をも駆け抜けて、現代にも多大な影響を及ぼしている事は言うまでも無い。もちろんその他の楽曲も粒ぞろいで、天空を浮遊するアンビエント#2「Ocean of Tenderness」、ミニマル&スペーシーな音空間に美しい音色が瞬き続ける#3「Deep Distance」と続き、そして精妙に紡がれる21分超の大作#4「Nightdust」では瞑想の世界へ誘いながらもラストのギターが覚醒をもたらしてくれる。癒しと多幸感に満ちた稀有な音楽。マニュエル・ゲッチングが前作から一気にこの境地に達したのは驚く他ない。クラウトロックらしい尖鋭性を湛えながらも、ここまで温かく優しい音響を繰り広げた本作もまた、彼のキャリアを語る上では欠かせない傑作である。


Inventions For Electric Guitar

Inventions For Electric Guitar(1975)

   Ash Ra Tempelが解体され、一人残されたマニュエル・ゲッチングが創り上げた1975年発表の6作目。実質ソロともいえる作品のため、名義もマニュエル・ゲッチングの名が大きくクレジットされている。

 そんな本作はタイトルにもある通りにエレクトリック・ギターが核となった作品で、エレキの多重録音のみで構成されたもの。ギターとエフェクター、4チャンネル・レコーダーのみで創り上げられた驚異の世界は、後に発表する一大傑作『E2-E4』への架け橋といえるものになっている。繊細なギターが精巧に重なり合いながら、ハッと息を呑むような美しい煌めきと心地よく揺らめくような浮遊感を持った見事なサウンドスケープを生成。シンセサイザーに接近する綺麗な音色もエフェクターを使ってギターで表現、その反復の美学は全てがギター主導によるものであることに驚きを隠せない。この作品でもたらされる美しい酩酊感、ナチュラルな恍惚感はゲッチング先生が音楽の領域を新たに広げたことの恩恵である。本作は余りに優しく幽玄で、独特のスペース感覚も湛えている。幾重にも重なるギターが緻密に役割をこなしながら精巧に結晶化され圧巻の音絵巻を綴る17分超の#1「Echo Waves」、一転してシンセサイザーが静かに木霊するかのような静のベクトルへと抑性されたギターが趣を残しながら響く#2「Quasarsphere」、20分をかけて天空へと登りつめていくようなループが絶頂へと導く#3「Pluralis」、どれもが素晴らしい。そして、この音楽にメロディアスや泣きといった要素がしっかり収斂している所も評価を高めている所以だろう。彼の構築する音楽は当然ながら、素晴らしいギター弾きであることを思い知らされるはず。

 本作はマニュエル・ゲッチングが21歳にして起こしたタイトル通りの『エレクトリック・ギターによる発明』そのものであり、クラウト・ロック/ミニマル/アンビエント/テクノまでを駆ける美しい時間を築いた凄まじい作品なのである。メタモルフォーゼ2010において体感した本作品の完全再現は、人生で何度も味わえることのない至福の恍惚感に陥ったのであった。

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