Mark McGuire ‐‐Review‐‐

The Emeraldsのギタリスト、Mark McGuireによるソロ・ワーク。マニュエル・ゲッチングの美しきミニマリズムの継承と具象化、スティーヴ・ライヒの精神を宿した作品群は実に美しい響きを持って聴き手に迫る。

レビュー作品

> Along The Way > Get Lost > Trouble Books & Mark McGuire > Young Person’s Guide to Mark Mcguire > Living With Your Self


Along The Way

Along The Way(2013)

  Emeraldsの解散後に行われた5月の来日公演ツアーで先行発売もされた約1年半ぶりとなるフルアルバム。その来日公演では、本作からの楽曲を多く披露していたが、これまでの作風と比べても少し様相が違う。マーク自身のパーソナルな詩情が一応の1stアルバム『Living With Yourself』よりも大きく反映されていて、4つのパートで壮大な旅の物語が展開されていく。もちろん、彼らしい涼やかで美しいギターやミニマリズムが核を担っているのだが、本作ではピアノ、シンセサイザー、パーカッション、マンドリン等の多彩な楽器を用いることで、移り行く季節・ノスタルジックな景色を情感豊かに表現。さらにスケールの大きな音世界が築かれている。楽器のひとつのようであったり、単純に歌という武器にまで昇華されたりしているマークの歌声もこれまでにない新鮮な感触を与えていて、自身の言葉を通しての訴求力も高められた。

 エレガントな電子音とギターの艶やかな連携に彼の茫洋とした声が重なる#3、独自のミニマリズムから弾きまくりのギター・ソロが非常に印象的な#7、ひたすらドリーミーなエレクトロニカを展開する#9と楽曲も粒揃い。多彩なギター・ワークを新しい方法論と結びつけながら自身の音楽性を拡張させていく術が、ここに表現されている。Emeraldsの解散もどこ吹く風。Mark McGuireはさらに音楽探究を続けていく。


Get Lost

Get Lost(2011)

   編集盤やコラボレーション作品のリリースが続いていたが、オリジナル・アルバムとしては『Living With Yourself』以来となる待望の新作。ここにきて新しい方向性を見出そうというのが意図的に見える作品で、遂に導入されたヴォーカル曲(#3,#5)や草原から届いてくるようなコーラスが乗ったり(#2)、軽やかで光沢のあるシンセが絶妙に絡み合って心地よく聴き手を包み込んでくる。多作で知られる彼だが、ギター・ミュージックを重んじながら、いつだってその海を越えていこうとする独自性の開拓を忘れていない。

 もちろん、マニュエル・ゲッチングからの影響が顕著なギター・ワークが軸となっていて、それがミニマリズムの中でセンチメンタルな情緒や優しい浮遊感を纏いながら昇華されていく点は流石。それが前述したように美しい音響との親和を果たし、唄ものを導入したことで艶やかな色彩の獲得とより感情的な響きを聴かせるようになっている。特に#1「Get Lost」におけるトリップ感を醸し出すサイケデリックなギターと柔らかなシンセの絡みは、これまでに無かった昂揚感をもたらしてくれている。それから滋味深いフォーキーな音色と共にセンチメンタルな歌声が溶け合って琴線をつつく#3「Alma」もまた惹かれてしまう曲。#5は#3の繰り返しになるが、中盤以降はEmeraldsをさらに推し進めたかのような予期せぬテクノチックな昂揚感をもたらしてくれる。そして、19分にも及ぶラストの#6「Firefly Constellations」はギターとシンセに独創的なレイヤーと共にチルアウトしていく佳曲。

 自身のパーソナルな面をギターに託した『Living With Yourself』からさらに踏み込んだ作品を創り上げてきたMark McGuire。Trouble Booksとのコラボでも触発されたのか、唄の力をも取り入れ始めた彼の感覚はますます研ぎ澄まされるばかり。転換期ともいえそうな本作でも流石といえる心地よい時間を提供してくれたといっていいだろう。ファンならずともチェックしてほしい作品だ。


Trouble Books & Mark McGuire

Trouble Books & Mark McGuire(2011)

   Mark McGuireと同じくオハイオ出身の3人組Trouble Booksとのコラボレーション作品。

 まず恥ずかしながらTrouble Booksって全然知らなかったんだけども、フォークトロニカ・バンドとしてかなり認知されている御様子で、感傷的でノスタルジックなサウンドが高く評価されている。しかし、本作の土台となっているのはマクガイアのギターの方で、お得意のマニュエル・ゲッチング風の美しいディレイ・ギターの反復による昂揚で聴き手を夢見心地に誘う。その上にTroble Booksが滋味深いフォークの味わいや哀感を持った優しい女性ヴォーカル、それに粒立ちの綺麗なシンセをもたらしていき、心の琴線に触れてくる。職人肌の2つの個が十分にお互いを引きたてながら、心地よいハーモニーを奏でているのが印象的だ。

 特に#4は美しきミニマリズムと女性ヴォーカルが儚げに揺れ動きながら聴き手の胸を打つ佳曲。また、#2や#3、#5辺りもノスタルジックな聴き心地と淡い色彩感、それにふわふわとした浮遊感が同居した楽曲で、しんみりと染みてくる。それにどこか素朴さや懐かしさを残し、いい意味でのゆるい脱力感と涼やかな聴感があるのもポイントといえるだろう。実験的な面ももちろん存在するし、立体的な音像からは凝っているという印象も受けるが、聴いているとのどかで懐かしい時間がゆったりと流れているような感覚に陥る。ポップというニュアンスも繊細な筆のタッチで描き出している所にも天晴れといいたい、見事なコラボーレションを果たした逸品だ。


youngpersons

Young Person’s Guide to Mark Mcguire(2011)

   EmeraldsのギタリストMark McGuireの2011年2枚組編集盤。これまで4年間でリリースしてきた限定部数のカセットやCD-Rから(一説には200枚とも噂されてる)、本人とEditions Megoのレーベル・オーナーPeter Rehberg(PITA)が厳選した2枚組20曲約145分という特大ボリュームは彼への入門にも最適だ。アートワークはSUNN O)))のオマリー先生が手掛けている。

 昨年リリースされた『Living With Yourself』や本隊・Emeraldsの音源を通してでも彼の才覚というのは十分に堪能させてもらっているが、この編集盤もまた彼の真髄に迫る事のできる好盤である。美しいディレイ・ギターがミニマルに反復しながら徐々に上昇していき、陶酔的な心地よさと静かな昂揚感を運ぶ。その様は、前年の作品同様にマニュエル・ゲッチング~アシュ・ラ・テンペル~スティーヴ・ライヒなどの影響を強く伺わせる。まるで清らかな小川の流れのようであり、空から瑞々しい光が拡散していくかのような感じの楽曲が並べられており、その音楽スタイルを昔から追及し続けて個を確立してきた。美しいフレーズ、ファズ、ドローンの色彩、ディレイ~リヴァーヴのかかった音色をひとつひとつ吟味しながら重ね合わせていき、空間的なふくらみの獲得や独特の浮遊感を醸す彼の楽曲は、必ず心地よい恍惚感を約束してくれる。

 とはいえ、本作では発掘音源からも収録されているということで懐の深さをも示す。サイケデリック/ドローン、ミニマルにアンビエントといった彼を語る上で確実にでるキーワードのみならず、アメリカーナやカントリー風味の曲調もあったり、アコースティック・ギターでノスタルジックな曲で涙腺を緩ませたりと多彩なアプローチとヴァラエティに富んだ楽曲群で応えている。ギター・ミュージックの無制限への追及があった事は容易に想像ができ、実験精神を重んじながらマーク・マクガイアという個性をいかに習熟・確立・覚醒してきたか、本作ではそれを確実に感じ取ることができるだろう。繰り返すが、今現在で最も聴かれるべきギタリストのひとり。彼の音楽が愉楽の境地にまで達するのは時間の問題だろう。


Living With Yourself

Living With Yourself(2010)

   Emeraldsのギタリスト、マーク・マクガイアの正規リリースとしては『Tidings / Amethyst Waves』に続いての第2弾(前作は未聴)。The Emeraldsではクラスターを思わせるアナログ・シンセの反復があらゆる森羅万象を乗り越えた小宇宙を築いていたが、こちらの方では当然のようにギターに焦点を充てながら音響、フォーク、ミニマル、ポストロック、アンビエント等を絶妙にコラージュした清らかな叙情世界が築かれている。思わず敬意を払いたくなるような柔らかくまろやかに絡み合う音響構築にうっとりとしてしまう。本作はこれまでに制作された楽曲の中から彼が気に入ったものをセレクトしているそうだが、家族をテーマにしたパーソナルな響きとマニュエル・ゲッチングの美しきミニマリズムの継承と具象化を成した見事な作品といえるだろう。核となっているのは、ディレイのかかったギターと穏やかなメランコリーと神聖なるリフレインに音響処理。それらがマーク・マッガイアの心に抱えたセンチメンタルな物語を織り上げていく。さらにはヴォイス・サンプリングやフォーク・ギターが日常的感覚に彩りを添え、崇高な作品をより身近なものへと変貌させている。心地よくも温かい、そんな感覚を見事に音で奏でているのだ。

 アコギの穏やかな旋律とサンプリングされた子どもの声が懐かしさをこみ上げる#1から充実の先手を打つ。次の瞬間からは、彼らしいミニマリズムを発揮したメロディアスなギターの応酬で一気に独特の温度を持った世界へと誘われる。中でも特に素晴らしいと感じたのは#3「Cliuds Rolling In」から#4「Brain Storm」にかけて。#3ではマニュエル・ゲッチングの名曲「Echo Waves」が思わず頭の中を駆け巡るディレイのかかったギターによるミニマリズムに先導され、続けての#4で透明感のある美しきフレーズがループしながら煌めいたパノラマを広げていく。反復がどこまでも鮮やかに感傷を掻き立てる、その流麗な構築の妙は絶品でこの2曲には思いもよらぬ昂ぶりを覚えてしまった。#8では親子の会話のサンプリングが懐かしい世界へ引き戻したかと思うと、中盤からはポストロッキンな轟音が炸裂する仕様で驚かせてくれる。こういったダイナミックなアプローチと振り幅を自在にみせてくれる辺りも巧く、ユーモアと破壊力も備えている印象を残す。全8曲の流れは実に素晴らしい。

 非常に前衛的ではあるのだが、そのギターの音色は深く瑞々しい響きと煌いた叙情を有しており、深い余韻がいつまでも心で響き続ける。James Blackshawと並んで今聴かれる才気あるギタリストの渾身の一作。人肌の温もりを持って明快に人々の記憶に語りかける本作は、ぜひとも自身の耳で確かめてみてほしい。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でGrumble Monsterをフォローしよう!