Matt Elliott ‐‐Review‐‐

ブリストル音響派としても名を馳せるThe Third Eye Foundationを司るMatt Elliottの本名名義。絶望の淵から放たれる暗黒フォーク・ミュージックが人々の心に突き刺さる。


The Broken Man

The Broken Man(2012)

   一昨年にはThe Third Eye Foundationを復活させ、昨年5月にはまさかの初来日公演も行ったMatt Elliottの2012年初頭発表のソロ名義最新作。

 暗黒のシンガー・ソングライターとしての評価を確立した『Drinking Songs』『Failing Songs』『Howling Songs』という “絶望ソングス三部作”を通過しての本作は、これまでの東欧のフォーク・ミュージックからインスパイアされた手法はそのままである。しかしながら、虚無や絶望の淵から爪弾かれるアコースティック・ギター、アダルトな渋味も効かせたMatt Elliottの歌声がひどく内省的に響く。そんなフォーク/トラッド・ミュージックがソロ作品の軸であるが、他と違うのは驚くほどに負の情感を背負い込んでいること。聴いているとき、胸がとても痛くなり、押し潰されそうになることもしばしば。しかしながらTTEFで聴かせるオペラ聖歌やストリングスなども効果的に盛り込まれており(ライヴではリコーダーやピアニカも披露していた)、ブリストル音響派としての顔を覗かせながら、世界の果てに佇んでいるような感覚を植え付けていく。

 華麗にして崇高な趣すら持っているのに、恐ろしいほどの悲壮感をさらす#1「Oh How We Well」からその存在感を発揮。この曲では彼の音楽を担う歌とアコースティック・ギターで大半が構成されているが、常に隣り合わせの孤独・狂気・闇に蹂躙されそうになる。特に昨年のライヴでも披露していた#3「Dust Flesh and Bones」における赤黒い大地の極北から捧げられる祈りと解放の歌は絶品。こちらも流麗なアコギと歌声を基調にしているがストリングスや聖歌などが加わって悲しく壮大に開けていき、あらゆる音と感情が彼の声と共に昇華されていくクライマックスに胸を動かされてない人はいないと感じるほどだ。妹のMarielleも参加した#5ではピアノとストリングスが静寂の中を緊張感を持って駆け、ガラス細工のように脆くも儚い世界をこれでもかと表現。そこにはもちろん、Matt Elliottらしい哀しみが通底している。

 本作はこれまでの作品の中では最も繊細な印象を受けるし、パーソナルな情緒が表れているようにも感じられる。彼の底知れぬ闇に慄き、そしてそれをストイックに美点に昇華していく凄さ。まさに聴くこと自体が貴重な体験へとつながるであろう、深い情念に満ちた秀作だ。

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