Minus The Bear ‐‐Review‐‐

2001年にワシントン州シアトルにて結成された5人組のオルタナ~インディー・ロックバンド。あのBotchを始めとして、メンバーのほとんどがハードコア畑の出身だが、そんな要素をもひた隠す繊細なメロディ、様々なジャンルから引っ張りだしてきたパーツの組み合わせたサウンドデザインが素晴らしい。2005年に発表した2ndアルバム「Menos El Oso」がスマッシュヒット。2007年には3rdアルバム「Planet Of Ice」をリリース(国内盤はDaymareから発売)し、翌年2月には3度目の来日公演も敢行した。2010年にはレーベルを移籍し、2年半ぶりとなる4thフルアルバム『Omni』を発表。IsisやMastodon、CURSIVEなどを手かげる売れっ子プロデューサー、マット・ベイルスは、このバンドに所属してキーボードを弾いていました。

レビュー作品

> Infinity Overhead > Omni > Acoustics > Planet of Ice > Menos El Oso > Highly Refined Pirates


Infinity Overhead

Infinity Overhead(2012)

   前作に続けてDangerbird Recordsからリリースとなった約2年ぶりの5thフルアルバム。元メンバーの売れっ子プロデューサー、マット・ベイルスと3rdアルバム以来、再びタッグを組んで制作された。

 そのマット・ベイルスと組んだこともあって、2nd~3rdアルバム辺りの空気感が感じられなくもないのだが、作風はニューウェイヴィな意匠が目立った4thからの継続といった感じだろうか。当然ながら、本作も安心と信頼のクオリティ。めちゃくちゃテクニカルなのに異様なほどオシャレな#4を聴いているとわかるが、キャッチーさに磨きをかけつつも、曲の捻り具合がますますおかしなことになっている。特に極彩色の音色を紡ぎだすギターが、様々なアイデアと卓越した技巧によってさらに冴え渡り、一癖も二癖もある楽曲群の核となっている。浮遊感あるキーボードによる心地よさ、ダンサブルな躍動感も健在。とはいえ、繊細にしてやや枯れた情緒を晒すヴォーカルと叙情的なメロディに重きを置いており、腰を据えてじっくりと味わえる。

 夏の薫りを運んでくるかのようなイントロから予測もつかない展開が脳を刺激する#2、ナイーヴなヴォーカリゼーションとメロディに惹かれる#3辺りを聴いてると、さすがの構築力。多彩なジャンルの要素を柔軟に混じり合させ、絶妙なバランスを保ちながら滑らかに組み立てていくセンスも相変わらずだ。それがユニークかつポップという作風に繋がっている。一方で、きらびやかな電子音とストリングスが鮮やかな演出を施す#6、テクニカルなギターフレーズとサキスフォンの絡みに驚かされる#9、終始攻めの姿勢を崩さないツインギターとスペーシーなキーボードで立体的に構築されていく野心的な#10などで曲調に幅を出すことにも成功している。

 一捻り加えて強烈に尖った部分がどの曲にもあるのに、ほぼ3~4分とコンパクトに、そしてここまでスタイリッシュにまとめあげる巧みさは、やっぱり他のバンドとは一線を画す。職人芸ともいえるマジカルなサウンドスケープは、彼等の魅力が十分すぎるほど詰まっている


Omni

Omni(2010)

   これまで慣れ親しんだSuicide SqueezeからDangerbirdにレーベル移籍して放つ2年半ぶりとなる4枚目。プロデューサーも元メンバーで現在めちゃくちゃ売れているマット・ベイルスから別の人物に変わっている。

 その影響からか、サウンドの方もグッと洗練されており、とてもポップにビルドアップ。ニューウェイヴ風のエキスを色濃く抽出して、ポストロックを斬新に唄ものの中に溶け込ませた、しなやかで柔軟な音世界はインディ・ポップ・ロックの理想的レベルにまで引き上げられた。ポスト・ハードコアの核は完全にポップの源泉へ。優しくソフトにデザインされたオーガニックなサウンドがとかく新鮮なのだ。

 タッピングを交えたテクニカルなギター、バリバリの変拍子といった彼等らしい仕掛けは随分と少なくなったものの、重心の低いリズムを中心としたミドル~スローな曲調で緻密に聴きやすさを追求。全体的に浸透しているクールで知的な感じは変わってないのだが、これまでよりもエレクトロリックな色合いが強まってて、鮮やかで華やかな装飾をみせるキーボード/シンセが思いのほか目立つ。それが新たな門出ということを強く印象付けるのは確か。そしてまた、色気のある唄メロの主張力を増したことでひどく感情に訴えかけるようにもなったし、ナチュラルにふれあう楽器陣からは宝石のようなメロディと流麗な浮遊感がもたらされており、持ち前の美的センスで現代的な洗練が成されたことを物語る。

 オルタナ/ハードコア/ポストロック/プログレ等が劇的に交じり合って、独特のうねりと質感を持っていた前作も凄く良かったが、本作におけるポップの中にユニークさと深遠さが垣間見れるつくりも評価されてしかるべきだろう。清涼感とエモさが入り混じった唄とシンセが艶やかに隆起する#1にはスムーズに引き込まれるし、ひんやりとした心地よさがある#7も女性Voを導入して全体の風通しをよくしている佳曲。#2、#4、#6辺りも歌心に溢れていて、聴けば聴くほど味が出る。スケールは矮小化してしまったが、インテリジェンスで豊潤な音世界にポップという明確なものが落とし込まれた本作、変態を重ねるブルックリン勢に対して、鮮やかに意義を唱えるかのようなインディ・ロックの魅力があると思います。


Acoustics

Acoustics(2008)

   LPまたは配信のみで流通しているタイトル通りの作品。冒頭の#1のみが新曲で後は既存の3作品からのアコースティック/アンプラグドバージョンが6曲収録されている(全7曲)。宇宙空間を漂うような有機性やオルタナ・プログレッシヴの感性をポップスと交じり合わせて稀有な音楽性を示しているMinus The Bearだが、今回はアコースティック作品ということで、アコギの枯れた感じとピアノの繊細なアプローチで丁寧な丸みと哀愁を際立たせている印象。ゆったりと落ち着いた雰囲気と牧歌的な感じが風通しよく、またその上で艶やかで淡いヴォーカルの色香が漂っているのが非常に心地よい。持ち前のダイナミズムや躍動感は本作ではもちろん感じられないけれど、温かみや包容力がじわっと伝わってくるところはときめきの対象だろう。名曲「Pachuca Sunrise」はもちろんだが、「Nights」や「Buryling Luck」辺りがここまでしなやかなフォルムで構築されているのはかなり驚き。まあ、元々の楽曲が優れまくっているってのもあるのですが(笑)。きっと大草原の中でそよ風を浴びながら、こんな音楽を聴けたら最高だろうなあとなんとなく思います。相変わらず琴線に触れる音楽を造るのがお上手だこと。


プラネット・オブ・アイス

Planet of Ice(2007)

   氷河期が地球を飲み込んでいく様が描かれている感じの美しいジャケ写が購買意欲をそそるMinus The Bearの2年ぶりの3rdアルバム。基本的に前作の延長線上にある作品である。しかしながら中毒性とクセが強くなった音に好意を抱かずにはいられない。幾重にも重なる音のレイヤードやダイナミックに躍動する粒子、有機的に氾濫する音のシャワーが降り注ぎ、エレクトロカと融合しての近未来を思わせるダンサブルなサウンドの形成に成功。人間の神経と対話するように絡みつくかのようなギターは印象r的で、眩いばかりに煌く音の洪水に大地は地殻変動を迫られる。それでいて、これだけポップに作品を仕上げているのがまた凄い。風の歌声が聴こえるようなアップチューン#1から宇宙に輝く星空のような美しい音が浮遊する#2、カタルシスを覚えるギターパートが空間にイオンを発して広がっていく#3、氷河が地球を飲み込んでいく前半から後半は覚醒を起こす地球を表現しただろう約8分の#10などの曲が好み。芳醇で上質のワインの味わい深い濃厚なサウンド。タイトル通り氷河期のように地球規模で轟くニューミュージックが詰まっている作品です。


Menos el Oso

Menos El Oso(2005)

   シアトルにて結成されたハードコア畑を通過してきたポストロックバンドの2作目(タイトルはバンド名のスペイン語表記から)。ハードコア畑出身だというのにそのサウンドスケープからは全くそんなものは感じられない。静謐なメロディの響き、それが水面に広がる音の波紋のようにゆっくりと響いてくる。まるでせせらぎのようにだ。鮮やかに彩を添えるギターの音色は美しくも儚い旋律を奏でる。ポップかつ綺麗なメロディ、しかしながらそのギターフレーズには我々に刻印を刻み付けるような確かな魔力も持ち合わせている。対照的に、ヴォーカルはソフトでナイーヴ。流麗さを巧みに演出しながら、歌とメロディはバンドの強みになっている。。オープニングから静かに醸しだされた幻想の世界が表現され、#6でその感動はピークに達する。そこから少しアクティブな展開も魅せるが、全体の雰囲気は統一感があり水晶のような煌びやかな輝きを放っている。音と音の隙間からもこぼれてくる優しさが心地よく、余韻にひたれるような音がまた見事。聴いているうちにこの世界に吸い込まれる感覚を覚え、音とシンクロしていくような錯覚すら起こしてしまい、まだ見ぬ異次元への意識の遊泳を余儀なくされた作品だ。


Highly Refined Pirates

Highly Refined Pirates(2002)

   あれ、このバンドって殺戮激烈ハードコアバンドのBotchのメンバーがいるんじゃなかったっけ?それがどうしてでしょうこのMinus The Bearは驚くぐらい爽やかなロックで人々を魅了してくれる存在。幾重にも重なるギターが中心でありながら、空間を自由に行き来するエレクトロニカと躍動感あるダンスミュージックを取り込み、エモやオルタナ要素も含んだポストロックといえる音楽性。上辺だけ聴けばキャッチーかつポップと捉えられるけれど、変拍子やタッピングを入れて知性・技術ともに半端じゃないところを淡々と聴かせている。キーボードやギターがスペーシーに広がりを持たせている辺り、1stから特徴を出しているかな。アルバム全体の構成に関して言えば、全14曲を収録していながらところどころに小インストを挟み、各楽曲との間を大事にしている。どの楽曲にしても各所で叙情的で儚いフレーズがちりばめられており、メロディが染み込んでくる。ファンのみならず人々をひきつけるには十分な名曲#3、リズミカルに躍動する#8などが本作でもお気に入り。変態だけども叡智が光る逸品かと思います。

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