Nadja ‐‐Review‐‐

カナダはトロントを拠点に数多の作品を送り出し続けるアンビエント・ドローン・ドゥーム男女デュオの極北、Nadja。ソロ音楽家・文筆家としても知られるAidan Baker(エイダン・ベイカー)とマルチ・インストゥルメンタリストのLeah Buckareff(リア・バッカレフ)は神秘かつ戦慄の音響を轟かせており、他の追随を全く許さない孤高の存在感を放っている。2012年には奇跡の初来日公演も敢行。そのサウンドには多くの人々が酔いしれた。

レビュー作品

> Dagdrom > Excision > the primitive world > Fool, Redeemer > Sky Burial > When I See the Sun Always Shines on TV > Numbness > The Bungled & The Botched > Desire in Uneasiness > Skin Turns to Glass > Bliss Torn From Emptiness > Radiance of Shadows > Thaumogenesis > Corrasion > Touched


Dagdrom

Dagdrom(2012)

   数々のEP~コラボ作、それにエイダン・ベイカー先生の快調すぎるソロ作連発など関連リリースは、わけわかんないぐらいに好調だが、オリジナル・アルバムとしては『Autopergamene』以来となる2年ぶりのフル・アルバム。マスタリングはジェイムズ・プロトキンが手がけている。

 来日時のインタビュー記事で、「次作は新章へ突入だ」という発言を目にしていたが、その言葉通りになったといえるだろう。本作の大きな特徴となるのが、”人力ドラム”の久々の採用である。しかも叩いてるのがジーザス・リザードのマック・マクネイリーというからさらに驚きは大きい(個人的には、『Head 』しか聴いたことないけど・・・)。Nadjaの音楽は基本的にドラム・マシーンを使っていることが多いわけだが、08年発表の『Desire in Uneasiness』で人力ドラムを採用していたことはあった(Jakob Thiesenという人)。だが、その時よりもずっしりとした質感と迫力を加味するマックのドラムが、これまでになかったロック的ダイナミズムを与えている。出足の#1「One Scene Alone」を聴いただけでも、感触の違いを確かめられるはずだ。

 そして轟くヘヴィなギター&ベース、重なっていく官能的なヴォーカル。各エレメントが見事なレベルで組み合い、白昼夢へと誘ってくる。Nadjaとマック・マクネイリーの好融合は、立体的な音像を打ち立てていく#2「Falling Out Of Your Head」、さらにヘヴィな感触を突き詰めて意識もろとも沈めにかかる#3「Dagdrom」でも如実に感じ取れるはず。ドローン・ドゥーム/アンビエント色は薄れ、予想以上にロックではある。けれどもストレートな昂揚感よりも、ジワジワと毒素が効いていき不思議な心地よさに支配される辺りは彼等らしい。納得のNadja新章だ。


Excision

Excision(2012)

   07年~09年までにリリースされたスプリット音源、コンピ参加曲等をまとめた2枚組コンピレーション作品。なかには入手が難しい音源も収録されており、DISC1,2ともに4曲で収録時間80分近く(合計2時間半超え)とかなりお得な内容となっている。しかもNadjaの代名詞ともいえる轟音エレクトロ・ドローン・ドゥームの詰め合わせなのがさらに嬉しいところ。

 でも、最初にこれを聴くと脳が溶けるかもしれない(苦笑)。どれも20分近い&超える容赦ない曲を取り揃え、致死量にも達しそうなほどの超轟音の垂れ流しだからだ。ドラム・マシーンの冷徹なビートの上を流れる全神経を襲う吹雪のようなサウンドは、『Corration』や『Radiance of Shadows』にも近い表情をみせる。Kodiakとのスプリットに収録されていた#6「Kitsune(fox Drone)」でのドローン・ノイズには、天国へも地獄へも召されること必至だ。美しくなだらかなメロディやアンビエントな感触も息づいており、ミニマルなつくりで徐々に徐々にノイズが巨大化を図っていく#1「Jornada Del Muerto」も非常に強力。コンピレーションではあるが、Nadjaの魅力と真価は十分すぎるほどパッケージングされており、ボリュームを大きくすればするほど、効果が得られるような作品ではあると思う。だが、ボリュームは抑え目でも荒涼とした趣が感じられるので、そんな楽しみ方もできる。


the primitive world

the primitive world(2012)

   2012年に初来日ツアーで共演することとなったNadjaと日本は関西のブルータル・オーケストラVampilliaのコラボレーション作品。”異形+異形”がここに組み合わさる。全身を浄化し、脳髄を揺さぶり続けるNadjaの壮大な轟音を基軸に進み、Vampilliaが耽美・狂気・悲哀・歓喜といったあらゆる情緒を織り込んでいく。どちらかといえばVampilliaは控えめな印象で、Nadjaの気宇壮大な作風を大きくふくらますように助力している感じか。といっても彼等が持ち込むピアノやデスヴォイスといった様々なエレメントがNadjaにとっては新しい色彩と感情をもたらしている。

 らしからぬピアノ・インストゥルメンタルが始まりを告げる短尺の#1「shining」に意表を突かれるが、先行公開された#2「northen lights」から当然のように非日常へ。幕開けの枯れたアコースティック・ギターから小奇麗なピアノが流麗に鳴り響き、轟音ギターが岩石のようにズドーンと頭上に圧し掛かる。この曲ではそのギターとピアノがお互いの存在感を高める様に共鳴しているのが印象的だ。そしてハイライトとなるのが#3「icelight」で前半は非情なまでの轟音ギターが延々と垂れ流され、三半規管が崩壊。そこにVampilliaのデスヴォイスが乗せられ、人間の内に眠る狂性を呼び覚ましていく。しかしながら、15分手前ぐらいでピアノが絡みだしてしなやかに展開してほぐれていって耽美に締めくくるのが不思議な感じがする。本作ではこの#2,#3が特に抜けている印象。#4ではアンビエント方面に手をつけて引き延ばされたキーボードの音色が不気味になり続けるが、一回だけ破壊的な音圧が襲ってくる辺りはらしい。#5は#1と同じような感覚のピアノの小インストで、これを持ってこのコラボレーション作品は締めくくられる。

 正直言うともう少しVampilliaが暴れても良かった気はするが、結果的にこれがベターな感じなのかなとも思う。NadjaとVampilliaが手を組んだだからこその圧倒的な音圧の向こう側の体感。


Fool Redeemer

Fool Redeemer(2011)

   同じトロントを拠点に活動し、何度も共演の経験があるPicastroとのスプリット・アルバム。曲によっては共同作業もあり、セミ・コラボレート作品と表現しているサイトもあるぐらい。とはいえ、アナログA面がPicastroでB面がNadjaと形式上はなっている。

 まずは先手のピカストロであるが、チェロ奏者を含む厳かな演奏からは暗く内省的なフォーク~現代音楽までを行き来。哀切が零れおちるしっとりとした歌声に、どこか懐かしくも物悲しさをもしのばせたアコギが奏でられ、緊張感あるストリングスが折り重なる。それでいてなぜか希望ではなく絶望へとヴィジョンを拡げていく。Kayo Dot~Grailsまでが交錯するミステリアス世界、ただならぬ不穏さ、退廃的なムード。そんな暗いフォーク・サウンドに心が巨大な雲にさえぎられ、暗欝さに拍車をかけていく。これには堕ちていく人は落ちていく事だろう。また、#2の最初の部分は雅楽か?と思わせてくれたり、現代音楽的なアプローチもあったりでエクスペリメンタルな姿勢は崩してない。そしてNadjaが待ち構える#5に突入していくわけだが(多分、この曲はコラボしてる)、まずはPicastroがそのままらしいサウンドを展開。6分を過ぎた辺りからNadjaのノイズが徐々に空間を圧し始め、13分頃から出力を上げて一気に時空を歪ませる。しかしながらかすかに聴こえてくるエイダンの歌が妙に感傷的。Nadja好きからしたらこの全5曲約44分は、控えめすぎてちょっと不満に思う部分もあると思うが、このふたつの独創性ははっきりと感じられる内容のはずだ。


Sky Burial

Sky Burial(2010)

   2010年8月リリース作品。CD、LP共に1000枚限定の模様です。約19分の2曲を収めた約38分の内容で、Nadjaとしてはやや控えめなボリュームといえるかも。それでもってトレードマークの轟音も控えめだが、アトモスフェリックな音響から重厚なドローンまでを自在に操る辺りは、らしい仕上がり。#1「Jaguar」は、不穏な鐘の音と薄く引き延ばされた電子音が鳴り響き(フィールド・レコーディングされた音もはいってる気がする)、途中からは脳味噌を掻き回すヘヴィ・ドローンが延々。13分辺りからの異様に黒くて重いギターが何度も押し寄せてくるような感じにはかなり驚かされた。個人的にかなり惹かれたのは#2「Sky Burial」の方。ドラムマシーンとヘヴィなベースラインの上をメロウな旋律やフィードバック・ノイズが覆いかぶさり、結晶化していく。特筆すべきはAidan Bakerがこれまでよりも遥かにメロディックな音色を奏でている事だろうか。魂の解放へと導いていくかのような彼のギターを中心に流麗な美しさが際立っている。19分と尺は長いが、Nadjaの新たな側面を垣間見た曲といってもいいだろう。個人的にも本作は、多作な彼等の中では入りやすい作品であると感じたので、入門編にももってこいの作品だと思う。


Pyramids with Nadja

Pyramids With Nadja(2009)

   アメリカ・テキサスの正体不明のバンド、Pyramidsとのコラボ作品。Pyramidsは一応、音はチェックしているけどアンビエントとかドローンとかポストロックとかブラックメタルとか色々なモン放り込んでくるけど、ねらいどころをはっきりさせずに芸術(っぽいもの)を作り上げる感じかな。

 本作では幽玄なアンビエント~ドローンを中心に織り上げていく形で、そこにNadjaも加勢して立体的に音を拡げていく。揺らぐフィードバック、空気を塗り替えるノイズ・ギターに囁くようなヴォーカルが乗って背筋を凍りつかせる。鍵盤の音色も綺麗だが冷え切っていて、効果音もほんのりとゴシック~神秘的に作品を彩っている印象を受けた。アンビエントの静けさから~ドゥームの圧し掛かる様な音圧まで行き来し、さらにはブラックメタルが持ち込まれてNadjaではありえなかったツービートの疾走があらゆるものを突っ切っていく。故に、これまでにはなかったNadjaコラボレーションの形が示されているように思う。全4曲で50分。最初の2曲ではノイジーではあるが美麗さの方に重きが置かれているような感じで灰色の霧にまみれていき、後半2曲でブラックメタルを交えて神秘と悪夢が無慈悲に交錯。特にラスト曲からはWolves In The Throne Roomの薫りすら漂う。


When I See the Sun Always Shines on TV

When I See the Sun Always Shines on TV(2009)

   Nadja初となるカヴァーアルバム。2人をアニメチックにデザインしたジャケットが印象的な全8曲入りの本作は、マイブラからスレイヤーまでの激音の極みをNadja流に咀嚼した見事な内容となっている。まずは挨拶代わりに速度を落として気だるさを増したマイブラ「Only Shallow」を叩きつけ、よりアンビエント・ドローンが研ぎ澄まされていくCODEINやSWANSのカヴァーに雪崩れ込む。先人たちの旨味をしっかりと残しつつもナジャ節は健在で、うまい具合に統制されたシューゲイズ・ドローンに当然のように頭が蕩けます。そんな恍惚とした感覚は次の脳天を圧する重みが加わったスレイヤー「Dead Skin Mask」(確かに速度はかなり遅いが、この暗黒ぶりはあのスレイヤーで間違いありません)で一気に覚醒。10分も続く五感を破綻させる轟音と暗黒的旋律は脅威の衝撃といわざるを得ない。ラストのCureの「Faith」も10分以上にわたって聴覚異常を促すトチ狂った壊れっぷり。というわけでルーツを知らなくてもリスペクトをした上で彼等流に咀嚼されているので、物凄い楽しめる内容です。無論、納得のメンツが揃ったカヴァー集だけに中身は一体どうなっているのか?という疑問符だらけの人にも衝撃という言葉でもって応えてくれる作品であります。でも、シューゲイズ・ドローンが強烈になりすぎていて、なんじゃこりゃあ!?という意見も少なからず出てくるでしょうけども。しかしながら、わたくしはゆっくりと頭を触れるスレイヤーが新鮮でたまりませんでした。


Numbness

Numbness(2009)

   『Thaumogenesis』に引き続いて、まさかまさかの国内盤第二弾は、日本独自企画編集盤。コンピレーションや7インチなどの曲を集め、未発表曲も入った全6曲がその内訳となっております。

 暗く澱んだドローンに美しき音の粉がその空間をゆらゆらと舞い、いと壮大なギター・ノイズがじわじわと全身に襲い掛かるこの衝撃はもはやどこをとってもNadja節全開。轟然と景色を揺らし続けるド迫力の超大轟音シューゲイズ・ドローンの前には内臓が捩れ、前頭葉が吹っ飛びそう。えげつない感覚と美意識の高さがうまく交錯しあっているのはやっぱりそそられる。ただ、”レアな歌ものトラックも収録”という口説き文句もあったが、呟くように歌う曲は別に対してNadjaの作品にはこれまであった類のもので珍しくも無かったのがちょっとがっかり。でもその妖しい歌モノを潜り抜けた先にある苛烈なヘヴィネスとノイズの前に平伏す#5、打ち立てられる美しい轟音海の前に20分強、精神の淵を彷徨い、溺死する#6「Numb」での締めくくりはあちらの世界へ軽ーく飛んでいけます。また、寄せ集め作品ながら、しっかりとした流れを感じさせる辺りも巧い。日本盤ということで初めて彼等を耳にする人も多そうだが、ここまで強烈で超絶なインパクトを植えつけるのをあえてリリースするのも凄い。頭の中が割れていく疑似体験はこの作品でどうぞ。


ザ・バングルド・アンド・ザ・ボッチド

The Bungled & The Botched(2008)

   2008年リリース作。オリジナル盤は500枚限定で長らく入手困難となっていたが、2012年にデジパックで再発された。約30分の2曲を揃えた59分59秒は、これぞNadjaといえるもので天にも昇る轟音カタルシスを存分に味わえる代物。表題曲の#1「The Bungled & The Botched」は哀愁のアコースティックギターとひんやりとしたピアノによる静かな立ち上がりから、ドラムマシーンがリズムを肉付けしていきセリフのサンプリングが散りばめられていく。そして11分を過ぎた辺りから一気に恐ろしいまでの轟音が爆発。あとはひたすらミニマルに展開し、尋常ではない音圧が鼓膜から五感を制圧。ラストは7分強のアンビエント・パートが静謐にこの第一章を締めくくる。#2「Absorbed In You」は2005年にMethadroneとのスプリット作に提供した楽曲の再録。こちらでは『Radiance of Shadows』に繋がっていきそうなアンビエント~超轟音ドローンを行き来する張り詰めた緊張感ある展開で無意識の世界へ。脳内がシュワシュワになるほどのノイジーなサウンドからアトモスフェリックで流麗な表情も見せる静謐を盛り込み、終局にて再び轟音のピークが訪れる様は凄まじい。必聴です。


Desire in Uneasiness

Desire in Uneasiness(2008)

   2008年に入っても嫌がらせのように過去作の再録バージョンの乱発でリスナーの財布に全然優しくないNadjaのもう何枚目かも正確にわからない完全新作(調べても全然わかりません)。真っ赤なジャケットにポップなイラストが入っているのが印象的な今作は5曲で約62分、10分未満の曲も2曲収録されており去年再発されたTouchedのような構成になっている。

 聴いてみて感じたことは氷の刃が何度も牙をむいて突き刺さってくるような、狂気的ノイズは鳴りを潜めたこと。聴き様によっては不穏な雰囲気になったとも取れるが、よりシューゲイズに近くなったNadjaの音楽はふくよかなラインを描き、柔らな音色を響かせて、さらに酩酊感の強いものとなっている。ゆっくりと溶け合う有機的なサウンドはこの上なく美しくて優しい。もちろん、脳味噌をぶっとばすような超重量級の轟音は健在なのだが、今作はあくまでもじっくりと聴く作品というように感じた。最も驚きなのは機械的なドラムではなく、ちゃんとしたドラムが入っていること。これによりどことなく冷たい印象だった楽曲にも人間味が出ており、変化の所以はこういうところにあるのかも。とはいうものの今作は底知れぬ奥深さを感じさせ、5曲全てが繋がっているようなコンセプチュアルな要素も感じられる。

 蜃気楼の中をひたすら歩いているような幻想、美しいノイズの泉の中で見る悠久の白昼夢。Nadjaの新境地ともいえるこの作品は、哲学と美学の結晶といえるだろう。


Skin Turns to Glass

Skin Turns to Glass(2008)

 今作もこれまた同様に過去に出した作品の新装版。14分、18分、19分と3つの長編曲に加え新たにボーナストラックとして無題の28分にも及ぶ楽曲が追加収録されている。

 相変わらず大それた変化のないエレクトロニカ・ドローン・ドゥームなんだけれども、オリエンタルなニュアンスを感じさせるエレクトロニカや恐怖心を駆り立てる艶かしくも奇怪なヴォーカルにちょっとした印象の違いを受けた。少し柔らかな質感をもち、起伏のある展開、ふわふわとした浮遊感も心地よい。油断していると空間を埋め尽くしていく冷徹なノイズに否応なしに圧迫されるが、幻想的でメランコリックな世界に浸れることは間違いない。不思議と心が惹かれてしまう。漆黒の空に走る無数の光の粒が連なって恍惚への道を創り出す長編抒情詩#1~#3で満足すること無かれ。ラストの曲では約26分ほど深い眠りについていた猛獣が、残りの2分で目を覚ましたかの如く荒れ狂い、破壊していくデンジャラスな世界に意識がぶっ飛びます。断片的にこの部分だけを切り取ればNadjaが一番の激しさを見せた瞬間といえるだろう。頭が壊れそうなぐらいの異世界は今作でも健在なのです。


Bliss Torn From Emptiness

Bliss Torn From Emptiness(2008)

   これまた過去にCD-R限定で出した作品の新装版。3つのトラックに別れてはいるものの全てが同一直線状に存在し、全てが繋がっているかのような長編作品だ。密度の濃い暗闇を創り出す超絶ヘヴィなフィードバックギターとノイズの洪水、そして打ち付けるドラミングが無慈悲なほど強力。意識を内へ内へと追い詰めていくように奏でられる暗黒ドローンサウンド。極寒の中にいるような冷たさ、また圧倒するような闇が襲い掛かってくる恐怖感。ノイズの一つ一つまでもが突き刺さってくるぐらい強烈。もはや正気で聴いていることなんて不可能に近い。もちろん、叙事的に奏でられる幻想的なサウンドも#2の後半で顔を出すけれども、今作はやっぱり空間を押し潰すかのように 繰り出される痛烈無比なサウンドの破壊力が凄まじい。特に#3の10分過ぎた辺りからの天壌無窮・圧殺サイケドローンには感覚を失い、意識が宙空へと消えていく・・・。まさにタイトル通り 『Bliss Torn From Emptiness = 空虚からの至福』


Radiance of Shadows

Radiance of Shadows(2007)

   ISISやTim Heckerなどとも共演したカナダの男女によるアンビエント・ドローン・ドゥームユニットの何作目かはわからないが、新作。まずこの美しいジャケットに惹かれる。だけど楽曲はとんでもなくて、全3曲がどれもが軽く20分越え(23分半、27分半、29分)でトータル79分51秒とCD収録時間ほぼ目いっぱい使用。美しいジャケットにだまされてジャケ買いするととんでもないことになります(そもそも普通の所では売ってないけど)

 狂気を孕んだホワイトノイズが大洪水を起こし、無機質な空間を創り上げていく。ゆっくりと心身の自由を奪っていくかのような音の氾濫、それは破壊と再生を繰り返す幽玄な音。しばらくそれに浸っていると酩酊感を帯びてきて、最後にはなぜだか感動を覚えてる。茫洋とした異世界を歩いているような彼等の音楽からは、対岸にある光と闇の終端を一度に垣間見ることもできる。狂気的なノイズとシューゲイズの要素も思わせるエレクトロニカの融合を図り、幾重も重ねられたサウンドは重量感と迫力が凄まじく、ドゥーム、プログレ的な展開をしながらも人間の深層心理の核心をついてくる。革新的でもあるエクスペリメント・ミュージック。聴いている(音を浴びていると表現した方がいいか)と、人間という存在、ひいては生命体そのもの・・・いや、この現世そのものを無に変えていってしまうような音のようにも思えてくる。全てを無へ変化させていく3つの長編叙情詩。それは破滅への戦慄でもあるし、至福をもたらす福音でもある。これぞNadjaの至高の芸術。まだ誰も見たことの無い世界をNadjaはこれからも創り上げるだろう、これはロックの新たな可能性を全身で浴びることの出来る作品だ。


ソーモジェネシス/ソーモレイディアンス

Thaumogenesis(2007)

   時が経つに連れて失われていく現実感、反対に生まれてくる恍惚感。一瞬の予断も許さない繊細緻密な音空間に緊張感が増し、全身が震える。一体ここはどこなんだろう?現実であって現実ではない・・・そんな矛盾した考えが脳裏を掠める。

 本作は悠然と続く幻想的なアンビエントと景色を絶望に満ちた漆黒へと変化させる超重量級の轟音によって、今まで誰も成しえなかった驚愕の幽玄世界を創造する全1曲61分のエクスペリメンタル長編抒情詩。静寂が辺り一面を支配したかと思うと、次の瞬間には大地を震撼させるほど衝撃的なノイズ音が濁流となって襲い掛かる。このようにエネルギーの爆発と収斂が延々と繰り返され、異次元空間に意識を放り出されるのである。絶望に沈む世界と淡い光が包み込む穏やかな世界が複雑に交錯して言葉を失うような美しくも儚い幻想的な光景が目の前に広がる。まさに光と闇が入り混じる奇跡のカタルシス。刻々と刻まれる時間と共に天空に聳え立つ悠久の楽園へと気づかぬうちに身体が導かれていく。61分という時間を経て、終焉に辿りついた時には激しい幻覚作用によってもたらされた神秘の瞬間に立ち会うことができる。

 Nadjaが叡智を最大限に解き放ち、生み出した奇跡的な作品。


Corrasion

Corrasion(2007)

   2003年にCD-R200枚限定で発表4曲いり3rdアルバムを、Touchedと同様に2007年に再構築した新装版。今作は内容はもちろんのこと楽曲も3曲追加収録されている模様で完全に生まれ変わった「Corrasion」といっていいだろう。

 荘厳美麗なサイケ・アンビエント・ドローンミュージック。方向性はこれまでとほとんど変わっていないだろう。蟻地獄ならぬNadja地獄が今作でも完璧なまでに創り上げられている。つかんだ獲物は逃さないと言わんばかりの轟音ノイズの地獄絵巻。細胞一つ一つが暗黒色に染められ、麻痺を起こし腐食して死滅していく。意識が遠のいていく感覚、嵌ってしまったら病み付きになって止まらない音楽だ。粉々に押し潰していくかのような圧迫感のあるサウンドだけれども、幻想的でメランコリックでもある。破壊と再生を繰り返し、夢現(ゆめうつつ)の状態へ陥れられ、闇世界に誰よりも早く辿り付ける事だろう。絶望の震源はここなのかもしれない・・・。このとてつもないサウンドがNadjaの矜持。凄いとしか言いようがない。


Touched

Touched(2007)

   カナダのドローン・ドゥーム夫婦ユニットの2002年発表の1stアルバムを再録し、2007年に発売した新装盤。これを発表当時は男性ソロによる音源だったが、今回はデュオによる録音だそうで内容も変わっているとか。

 まるで絶望の闇の中を美しい光が何度も切り裂くかのようだ。彼等の音楽は聴き手に対して全く易しくない。重厚なギターノイズが絶えず押し寄せ、容赦ない轟音をぶっ放し、幽寂でささやくようなヴォーカル、緻密に輪郭を創り上げるプログラミングサウンドが異様な雰囲気を醸し出す。寂寞とした空間が闇に渦巻いた狂気で染められていく。絶望の旅路にでも放り出されてしまったかのようにひたすら終着点の見えない暗黒の海が広がっています。大体の曲が10分越えていて、ひたすら凄まじい音圧でリスナーを屈服させようとしてくる。だけれどもこの容赦の無いノイズの怒涛の波がどこかメランコリックで叙事的にも感じたりする。頑なに絶対零度、血の通っていないようなサウンドを貫きながら、たまに人間の温かみを感じさせてくれるのがこのバンドの強みか。特に幻想的な世界を奏でる#2が今作では格別の味わい。この曲を聴いていると夢と現実の区別がつかなくなるようなそんな気分になる。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でGrumble Monsterをフォローしよう!