【アルバム紹介】Nadja、ドローン/ドゥームの極北

 カナダはトロントで結成されたドローン/ドゥーム・デュオ。ソロ音楽家としても活動するエイダン・ベイカーと彼の妻であるベーシストのリア・バッカレフから成る。初期からコレクションしきれないほどの多作を発表しており、巨大な質量のノイズとアンエビンスを組み合わせた音像は世界で支持されている。

 またNadjaは2012年、2014年、2018年と来日ツアーを敢行(わたしはいずれも見にいっています)。2度招聘したVampilliaとは共作を発表する良好な関係を築きます。

 本記事は初期から2012年までの15作品について書いています。

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アルバム紹介

Touched(2003)

 1stフルアルバム。03年にリリースされた時はエイダン・ベイカー先生の単独作でしたが、彼の妻であるリア・バッカレフ加入後に発表した07年のリイシュー盤は2人体制で再レコーディングしたもの。1曲平均10分という尺、鼓膜に圧し掛かる冷たいギターノイズ、冷酷なマシーン・ドラム。いわゆるドローン・ドゥーム/メタルと呼ばれるものですが、プログラミングとギターによるノイズ音は凶器にも叙情的にもなることを示します。名曲#2「Stay Demons」収録。

メインアーティスト:Nadja
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Skin Turns to Glass(2003)

 2ndフルアルバム。こちらも07年にリイシュー。14分、18分、19分と3つの長編曲に加え新たにボーナストラックとして無題の28分にも及ぶ#4「Untitled」を追加収録。前作から基本的な変更はないですが、エレクトロの要素が混じったドローン・ドゥームが巨大な質量をともなって迫りくる。少しだけ柔らかな質感をもち、やや起伏のある展開やふわふわとした浮遊感がある。また表題曲#2では恐怖心を駆り立てたり、読経のようにも響く”声”が用いられている。

メインアーティスト:Nadja
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Corrasion(2003)

 3rdアルバム。こちらも07年にリイシューされており、その際は3曲が追加収録。ノイズ・ドローンのフルコースが堪能できる全7曲約79分となっています。本作はよりヘヴィでメタリックなアプローチを追求した作品とのこと。#1「Base Fluid」の動→静→動のアプローチ、#3「Corrasion」における絶望感の垂れ流し、#4「Amniotic」のブリザード化したGodflesh感など三半規管が強烈にやられる曲が揃う。

アーティスト:Nadja
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Bliss Torn From Emptiness(2008)

 5thアルバム。08年のリイシューされており、そちらは1曲約53分という長大な旅路(ただ、3つにトラック分けはされている)。密度の濃い暗闇を創り出すヘヴィなフィードバックギターとノイズの洪水。打ち付けるドラミングは無慈悲なほど強力で、意識を内へ内へと追い詰めていくように奏でられる暗黒ドローン・サウンド。まさにタイトル通り”Bliss Torn From Emptiness = 空虚から引き裂かれた至福”

メインアーティスト:Nadja
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Thaumogenesis(2007)

 7thフルアルバム。全1曲61分の長編ドローン・ドゥームであり、Nadjaの作品では最もストーリー性を感じさせる作品です。アンビエントに寄る静寂からズンズンというゆったりなリズムに乗って、大海のごときノイズの奔流が溢れ出す。まるで絶望に沈む世界と儚い幻想的な風景での2拠点生活のよう。凍てつくような寒さを表出するも、彼等の音楽からは不思議と陶酔感や温かみのようなものが感じられる。Nadjaの作品群では聴きやすい部類ですが、1曲60分ということもあり入門編には推しづらいかも。Daymare Recordingsから国内盤も発売。

Daymare Recordings
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Radiance of Shadows(2007)

 8thアルバム。全3曲ともに20分を超え、約79分収録。ジェイムズ・プロトキンによるマスタリング。原爆の父と言われるアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーが題材。容赦のないノイズとプログラミング音の融合を成したサウンドは重量感と迫力が桁違い。長尺の中でのんびりと展開しながら人間の深層心理をついてくる。最高傑作に挙げられることが多い傑作。

メインアーティスト:Nadja
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Desire in Uneasiness(2008)

 9thアルバム。全5曲約63分収録。10分未満の曲が2曲収録されており、『Touched』のような構成に近い。一番の特徴は、マシーンドラムではなく初めて人力によるドラムが入っていること。また狂気のごとき分厚いノイズは鳴りを潜め、よりシューゲイズに近くなりました。いくぶんか柔らな音色を響かせて、酩酊感はさらに強いものへ。蜃気楼の中をひたすら歩いているような幻想、美しいノイズの中で見る悠久の白昼夢。Nadjaの新境地。

メインアーティスト:Nadja
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The Bungled & The Botched(2008)

 10thアルバム。全2曲とも30分を数える約60分の内容。表題曲の#1「The Bungled & The Botched」はアコギとピアノによる静かな立ち上がりから、ドラムマシーンがリズムを肉付けし、セリフのサンプリングが散りばめられる。11分を過ぎた辺りから轟音化。あとはひたすらミニマルに展開して五感を制圧する。ラストは7分強のアンビエント・パートがこの第一章を締めくくる。#2「Absorbed In You」は2005年にMethadroneとのスプリット作に提供した楽曲の再録。こちらでは『Radiance of Shadows』に繋がっていきそうなアンビエント~超轟音ドローンを行き来する展開で無へと還る。

メインアーティスト:Nadja
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Numbness(2009)

 日本独自企画によるレアトラック集。リリースはHappy PrinceはLetting Up Despite Great FaultsやGod Is An Astronautなどのアーティストを手掛けたレーベルでした。本作はコンピレーションや7インチなどの曲を集め、未発表曲も入った全6曲で構成。前頭葉が吹っ飛びそうなノイズと美意識の高さを感じられる楽曲が出そろうが、当時のコピーには”レアな歌ものトラックも収録”という言葉が添えられる。とはいえ本作の白眉は、押し寄せる轟音海の前に20分強にもわたって溺死する#6「Numb」。寄せ集め作品ながらしっかりとした流れを感じ、初心者にもオススメできる作品です。

メインアーティスト:Nadja
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When I See the Sun Always Shines on TV(2009)

 カバー・アルバム。My Bloody Valentine、Codeine、Swans、Slayer、A-ha、Elliott Smith、The Kids In The Hall、The Cureの8アーティストをカバーした全8曲収録。あいさつ代わりに速度を落として気だるさを増したマイブラ「Only Shallow」を叩きつけ、アンビエント・ドローンが研ぎ澄まされていくCodeineやSwansのカヴァーに雪崩れ込む。先人たちの旨味をしっかりと残しつつもNadja節は健在。美意識によって統制されたシューゲイズ・ドローンに当然のように頭がトロけます。Slayer「Dead Skin Mask」は原曲よりも倍の時間にアレンジされていて新鮮。

メインアーティスト:Nadja
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Pyramids With Nadja(2009)

 Hydra Headからデビュー作を発表したエクスペリメンタル系バンド、Pyramidsとのコラボ作品。全4曲約50分収録。幽玄なアンビエント~ドローンを中心に織り上げていく形で、そこにNadjaも加勢して立体的に音をひろげていく。揺らぐフィードバック、空気を塗り替えるノイズ・ギターにささやき系ヴォーカルが乗って背筋を凍りつかせる。前半2曲ではノイジーではあるが美麗さの方に重きが置かれているような感じで灰色の霧にまみれていき、後半2曲でブラックメタルを交えて神秘と悪夢が無慈悲に交錯。特にラスト曲からはWolves In The Throne Roomの薫りすら漂う。

Hydra Head
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Sky Burial(2010)

 Southern LordからリリースされたEP。全2曲約38分収録。#1「Jaguar」は不穏な鐘の音と薄く引き延ばされた電子音、途中からは脳味噌を掻き回すヘヴィ・ドローンが延々。#2「Sky Burial」は2012年1月来日時に東京公演で演奏された1曲(わたしも見に行きました)。ドラムマシーンとヘヴィなベースラインの上をメロウな旋律やフィードバック・ノイズが覆いかぶさり、結晶化していく。特筆すべきはAidan Bakerがこれまでよりも遥かにメロディックな音色を奏でていること。魂の解放へと導いていくかのような彼のギターを中心に流麗さが際立つ。

Latitudes
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Fool Redeemer(2011)

  かつては同じトロントを拠点に活動して、何度も共演の経験があるPicastroとのスプリット・アルバム。曲によっては共同作業もあり、セミ・コラボレート作品と表現してもいいかもしれません。アナログだとA面がPicastroでB面がNadja。先手のPicastroはチェロ奏者を含む厳かな演奏から、暗く内省的なフォーク~現代音楽までを行き来。後手のNadjaはノイズによる空間制圧は13分頃から出力を上げて一気に時空を歪ませるが、かすかに聴こえてくるエイダン・ベイカー先生の歌が妙に感傷的。2者の独創性ははっきりと感じられる内容です。

メインアーティスト:Picastro & Nadja
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Excision(2012)

  07年~09年までにリリースされたスプリット音源、コンピ参加曲等をまとめた2枚組コンピレーション作品。どれも20分近いor超える曲を取り揃え、致死量にも達しそうなほどの超轟音の垂れ流し。ドラム・マシーンの冷徹なビートの上を流れる全神経を襲う吹雪のようなサウンドは、『Corration』や『Radiance of Shadows』にも近い表情をみせます。Kodiakとのスプリットに収録されていた「Kitsune(fox Drone)」でのドローン・ノイズは天国か地獄への片道切符。Nadjaの代名詞ともいえるエレクトロ・ドローン・ドゥームの詰め合わせを堪能したい方にオススメ。

メインアーティスト:Nadja
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Dagdrom(2012)

 2年ぶりとなるフルアルバムは、Daymare Recordingsから国内盤がリリースされました。久々の人力ドラムを採用しており、叩いているのはジーザス・リザードのマック・マクネイリー。過去に人力ドラムだった『Desire in Uneasiness』よりもずっしりとした質感と迫力を感じられ、これまでになかったロックのダイナミズムがある。そのドラムに加えて持ち味のヘヴィなギター&ベース、官能的なヴォーカルが見事なレベルで重なっています。予想以上にロック寄りですがストレートな昂揚感よりも、ジワジワと毒素が効いていって不思議な心地よさに浸れる辺りはNadjaらしい。

メインアーティスト:Nadja
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プレイリスト

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