七尾旅人 ‐‐Review‐‐

型にとらわれないスタイルで全国から支持を集める、シンガー・ソングライター。『billion voices』や『リトルサーカス』といった傑作を発表している。


billion voices

billion voices(2010)

 賛否両論を巻き起こした3枚組の力作「911fantasia」より3年ぶりとなる5枚目のフルアルバム。アコギを基調とした弾き語りをメインに据えつつも、発想力を生かした音遊び・ユーモア・アイデアがふんだんに入り浸れた奥の深い作品に仕上がっている。そのノスタルジックに爪弾かれるアコギの音色、艶やかさと枯れた感じの両面が活きた七尾の歌声が感性をくすぐるフォーク・スタイルが肝。それを丹念に選ばれた言葉の数々が綺麗な感情から重々しく痛々しい感情までを並列に並べながら、喜怒哀楽を表現して引き立てている。

 70年代のフォーク歌手を思わせる枯れたイメージからロックらしい勢いやソウルフルな熱など数多の表情をもつ声も彼の魅力に挙げられるだろう。また、ソウル・R&B、ヒップホップ、エレクトロといったジャンルを取り入れることで表面塗装と立体的な奥行きを広げていく自由度の高さも耳を引く。それらの集積が不思議な魅力へとつながっている。文学性の高い映画や小説を音楽で表現したかのような作風が七尾の持ち味だとは思うが、独自の着眼点とユーモアというスパイスが活きてるからこそ人々の耳も心も彼の虜になっていくのだろう。

 やけのはらと共演した「Rollin’ Rollin’」が既にアンセムとして名高いけど、滋味深い彼の柔らかな歌声と軽やかなフィーリングが噛み合った「どんどん季節は流れて」が本作では最も好み。エレクトロニカをふんだんに取り入れてモダンな作りが印象的な「検索少年」も心地よいし、誕生と祝福の歌のはずなのにどこまでも重々しく感性を突き動かす終曲「私の赤ちゃん」には恐ろしさすら感じる。彼に対してはKAIKOOで初体験したときに”ユーモアに溢れた職人”というイメージを持ったけど、本作もまた個性の塊だということを物語る14曲67分の雄弁な一枚で、彼の存在感はますます巨大に! 肩の力が抜けるような心地よさから悲しさの集積が胸を締め付ける曲まで、美と醜、痛と快、明と暗を巧みに引き締めたバランス感も素晴らしい作品だ。

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