pasteur ‐‐Review‐‐

京都発のプログレ系インストゥルメンタル・ロックバンド。フルート/サンプラー、ギター×2、ベース、ドラムという編成で幽玄かつ幾何学な世界を描くそのサウンドは、豊かなデザイン性と彩色を誇っている。初の全国流通盤となる3rd EPを2010年9月に、そして1stフルアルバムを2011年7月にそれぞれリリースした。

レビュー作品

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5/0wΣave(スロウ ウェイヴ)

5/0wΣave(2011)

   昨年発表のEP『cella aldebaran』でそこそこの数のマニアの話題をさらった京都初のプログレ系インストゥルメンタル5人組の1stフルアルバム。リリースはユニオン傘下という事に変わりないが、spectacles recordsからオマー・ロドリゲスやHellaなどを手掛けているDaymareの兄弟レーベルのSleepwellより。

 音楽性に関しては、前作の延長戦上にあるものといって差し支えない。往年のプログレへの憧憬を形にし、昨今のポストロック/マスロックとの親和・共振を図り、さらに電子音をまぶして有機的な浮遊感を生むことで無二たる個性を放っている。そして、本作は”夢遊病”をコンセプトに据えたとのこと。その点を細かく理詰めしながら作品を膨らませている。といっても核となっているのが30分にも迫るプログレ大曲の#3にあたり、以前のバンドの名刺代わりとなる看板曲「Sleep Walker」という曲を解体と再構築することで本作の根幹を造形した模様。先が全く読めない展開がさらに複雑さを増して繰り拡げられることで、聴き手の置き去りにされた感は前作以上になっていると思う。変拍子を用いつつもしなやかさと強靭さを併せ持つリズム隊を先導役にして、ツインギターが様々なフックを盛り込みつつ楽曲を塗り分けていき、シンセやサンプラーもまたそれに呼応して、美しい揺らぎと深みをもたらして奥行きと立体感をプラス。奥ゆかしい叙情性を振りまくフルートもまた前作以上に堂に入っている。見事なアンサンブルから積み重なり、尖鋭的な音世界が緊張感をみなぎらせながら広がっていく。

 前述したように本作はクラシック音源#2から繋がっていく#3「noctambulist」がそびえ立つ大木のようにしっかりと根を張っている。豊かな起伏で随所に盛り上げ所を多数用意した30分近い大曲。個人の持つ能力を極限まで引き出して繰り広げられる、目まぐるしくスリリングな展開で翻弄していく。このあまりの難解さには、こちらも説明する言葉を見つけるのに悩むほどで、プログレ/マスロック/ポストロック等が細やかに編み込まれて、弾きだされる怪奇的世界の深みに驚きを隠せない。それ故に本作のマニアック度を決定づけているともいえるだろう。また、スペーシーな電子音とバンド演奏が柔らかなトリップ感をもたらしていく#4は、バンドが新たに開眼したことを物語っている。

 ただ少し物足りなさを感じるのは、彼等の秘めたる力がまだまだこんなものではないという想いがあるからだろう。もちろん、本作を聴く限りその複雑なサウンドは聴き手を迷宮に迷いこませてくれるし、その出口は人によっては快感であったり、恍惚であったり、混乱のままであったりと色々な感情が渦巻き、同時に千紫万紅の風景が広がっている。そんな本作はプログレ系インストバンドによる4分45分の挑戦状。卓越した技術と微細にこだわった構成力、そして閃きが合致した面白い作品に仕上がっているのは間違いない。


cella aldebaran ケルラ アルデバラン

cella aldebaran(2010)

   京都発のプログレ系インストゥルメンタル・ロックバンド、pasteur(パスツール)の初の全国流通となる3rd EP。発売元はDISC UNION内部の新レーベルであるspectacles recordsより(ちなみにレーベル第一弾アーティストである)。

 知性と衝動の合体、複雑に入り組んだ物語の連続がこちらの感覚を上塗りするかのようである。めくるめく音の迷宮に幻惑され、昂揚へと至らされる。日本インスト界に差す新たな光ともいえるのではないだろうか。マスロックばりの鋭角的でスリリングな金属音の乱舞が耳をヒリヒリと差し、荘厳かつ美しいエレクトロニクス/サンプリング音が空間に幻想的な揺らぎをもたらし、儚げでメランコリックなメロが心を撫でるプログレ色の強いインスト・ロックが彼等の矜持。それは、まるで万華鏡のように複雑で美しいデザインを築き上げている。フルートを使用しているということで、今は亡き存在の内核の波辺りのプログレを想像していたら、これがものの見事に予想が外れてしまった。パスツールは現代のポストロック/マスロックの系譜に連なれどエレクトロニカやジャズといったエッセンスを吸い上げ、プログレ譲りの複雑な変拍子を交えた構築の妙と高い演奏スキルによってスリリングで怪奇的な音世界を実現。それでも天地がひっくり返る様な転調に次ぐ転調をこなす中で、音のひとつひとつが体に染み込み、その軌跡が鮮やかに感じられる特徴がある。柔らかに煌めく電子音が差し色として使用され、さらにはフルートが奥ゆかしい叙情をしのばせて和の情緒を重んじている所も彼等のサウンドに花を添えているといえるだろう。また、華々しく荘厳に連鎖する音からは、広がりと深みを如実に感じさせる。

 アグレッシヴに怪奇炎を上げるギターと抜群の安定感を誇るリズム隊の火花散るアンサンブルが狂嵐となっていく#2「quad systema」、変幻自在の人力グルーヴに有機的なエレクトロニクスが織り込まれてハッとするほどの美しさと昂揚を投げかける#3「zahala zzahala」。約5分に及ぶ電子海峡を潜り抜けてからはポストロックとプログレが衝突するような展開を経て、フルートの艶やかな調べを合図に一気にクライマックスへと突入していく#4「cella」と優れた佳曲ばかりが目白押し。クリムゾンばりの構築力にアレアのようなジャズ系ロックの即興性、さらにはバトルスの尖鋭性とユーモアが見え隠れする楽曲群からは、バンド自身の広さ・深さを改めて再認識することだろう。どれだけ引き出しが多いのかと。EPでありながら5曲収録で約31分という内容は、知性と衝動が密に調和した結果、多様な要素を昇華した幽玄かつ幾何学的な世界を築き上げている。凄まじい。既にミニアルバムを来年にリリースすることを予定しており、期待は高まるばかり。

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