Porcupine Tree ‐‐Review‐‐

1991年ぐらいから活動しているイギリスのプログレッシヴ・ロックバンド。よく陰鬱なPink Floydなどと表現されたりもする。そのキャリアの長さで既にベテランの域に突入しており発表している作品は14枚に及ぶ。だが、日本盤が発売されたのは2006年の「Deadwing」から。伝説となったUDO MUSIC FESTIVALに出演など日本でもじわじわと彼等の波が押し寄せてます。その実力はプログレ界の大御所であるKing Crimsonのロバート・フリップにも認められている。

レビュー作品

> The Incident > Nil Recurring > Fear of a Blank Planet > Deadwing > In Absentia


Incident

The Incident(2009)

    バンドの頭脳であるスティーヴン・ウィルソンが1月にソロ作品を発表したのに引き続き、本隊も出陣ということで2年ぶりとなる通算10枚目の作品。前作に続いてのコンセプトアルバムのようで、今回は2枚組仕様となっており、1枚目は14のパートから成る1曲55分という構成。DISC2ではそのコンセプトに合わなかった曲を4つ収録している(国内盤にはさらにボーナストラックを2曲収録)。

 豊かなキャリアに裏打ちされた先鋭たる描写力、様々なジャンルを橋渡しする澄まされた感性、音のひとつひとつを緻密に設計して巧みに操る知能、それを可能にする卓越した技術、そして創造力の上をいくかのような音楽性は本作でも健在だ。前作と比べれば、部屋の片隅で膝抱えて座っているような暗鬱とした雰囲気は止み、メタリックな重たいパートもスリムにそぎ落とされており、全体を通して厳かで流麗に展開していて、ナイーヴな詩情が生かされている印象。ウェットなメロディと浮遊感が立体的な奥行きと広がりを与え、全てのパートが密接に結びつく濃厚なサウンドは静謐なる爆発を何度も引き起こしていく。持ち味の深淵たる叙情性はなお一層醸成されており、70年代から引き継ぐプログレの幻想性と幽玄美、現代的オルタナ感を再構築して表現した空気感がじっくり味わえるといえるだろう。1分台の少インストから10分超の大曲まで、音楽的にも変化に富む14のパートは、様々な特徴で持って物語を結実させていき、55分かけて静かに昂揚を誘っていく。ましてやそれが深層心理をものの見事に突き、遥か彼方の異世界へと聴き手を誘うまでに劇的なのだから。

 本作においてイニシアチヴを取っているのはスティーヴン・ウィルソンの深みのある繊細な歌声のように思う。いつもよりナチュラルに胸に響いてくるから。だが、柔らかさと温かさを兼備するアコースティックな音色や空間にミステリアスな揺らぎをもたらすキーボード、自在に変化をつけるリズム隊の仕事も当然のように的確。複雑な展開を肝としつつも、この独特のハーモニーがもたらす昂揚感は格別。それに明快なキャッチーさが近作にないぐらい感じられるので入っていき易い内容でもあると思う。気付けば、悠々とした時のうねりみたいなものに引き込まれている。ただ、数曲で引きが弱いと感じられることもあり、作品が淡々と進行していくきらいがあるといえるかも。それでも明確な聴き所はないかもしれないが、暗鬱な波やメタリックな炎が上がるアクセントは効いているし、時間と共に徐々に磨きあがっていく気品ある世界はとても美しい。そして、そこに引き込まれずにはいられないのである。


Nil Recurring

Nil Recurring ~虚無循環~(2007)

   この作品は2007年に発売された傑作「Fear of a Blank Planet」のアウトテイク集といいますか、惜しくもアルバムに収録されなかった4曲と「Fear of a Blank Planet」のエディットバージョンを含めた5曲入りEP。海外ではライブ会場ネット通販による販売に限られており、日本だけ店頭販売が許可されている。

 楽曲自体も「Fear of a Blank Planet」の世界観を髣髴とさせる陰鬱さが支配し、脳内に虚無の2次元世界をクリエート。アルバムに入ってもおかしくないほど完成度も高い。タイトルトラックの#1は約6分のインストナンバーで、静寂の中で様々な音が蠢くような不気味さと暗闇の中をもがき苦しんでいるのを表現したかのように感じる爆撃のようなメタリックサウンドに驚かされる。ラスト1分の鬼気迫る感情の暴発は一種の凶器といえるほど心に突き刺さる。#2は「Sentimental」の原型でコーラスの部分はそのまま、もの悲しく儚げな感覚もそのままだが、一瞬の突風が吹き荒れる分だけ攻撃的。#3はプログレらしく複雑な展開の連続で、静と動の二つのラインの間を自由に行き来する。#4はエレクトロサウンドがアクセントとして効いていて、これまでの楽曲と違う印象を受けた。「Fear of a Blank Planet」を気に入った方なら、あの世界観の補足として聴いてみる必要があると思う。


Fear of a Blank Planet

Fear of a Blank Planet(2007)

    鬱プログレッシヴロックバンドとも評されるPorcupine Treeの通算9枚目の作品。本作から自分はPorcupin Treeを聴き出した。題名は和訳すると“空白の惑星への恐怖”という意味であり、ジャケの少年の陥るニートや引きこもりをテーマにしたトータルコンセプトアルバムである。しかも帯には “ニートの神話” なる叩き文句が加えられているのがある意味、凄い。

 荘厳でメタリックなギターリフによる凄まじいパワーでグイグイと引っ張っていくオープニングナンバー#1で少し全体の構成を聴き誤ったが、こうして全体を改めて聴いてその陰鬱さと厭世感が合わさった藍色の闇とも言うべきものに支配されていくのがわかった。別次元のカオスが存在するような不気味さがあり、水面に波紋のように広がる美しい高次のメロディを持ちながらも、どこか果てしない漆黒への逃避を思わせる。非常に内省的かつ独創的な空気感を醸しだしており、聴く者を引きずり込む魔力を持つアルバムである、それは間違いない。前作に比べてもそのコンセプトが成す求心力や訴求力といったものが強く、音や感情がリアルに迫ってくるのも印象深い。

 静寂と激音とのバランスの妙、空間を醸成していくように奥行き深く曲を構築する美しさはさすがと言える。特筆すべき楽曲は約18分に及ぶこれからの彼等の代表曲になるだろう#3。美しいメロウフレーズのリフレインから爆炎のように燃え広がるサウンド、ラストはユートピアを思わせる優しいメロディにカタルシスを覚えずにはいられない至高の1曲。リアルに大胆に迫るこの世界観に脱帽、幽玄の波と異次元へのトリップはCDの停止ボタンを押すまで終焉を迎えない。


Deadwing

Deadwing(2005)

   2005年発表の8thアルバム。この作品から初めて国内盤が発売されたことで、ここ日本でも知名度を飛躍的に上げたことが記憶に新しい。そんな本作品は、前作から引き継いだメタリックなダイナミズムと深いメランコリーの両軸を生かしつつ、よりメジャー感が伴っている印象を受ける。

 緩急や変拍子を生かした入り組んだ展開に、10分を雄に越える曲などはさも当然のように存在するのだが、ヴォーカルと楽器陣による独特の美しいハーモニーや浮遊感がスッと耳に染み渡り、その世界の中へ手招きされてしまう。いやそれこそ彼等の持つ魔力なのであろうが、貫禄と崇高さみたいなものが曲から滲み出ているのに、一般層にも浸透しそうなキャッチーさも共存させているのは凄い。前作よりも確実に間口を広げている。それでいて彼等の世界観を顕示する音の情報量やそれぞれの楽曲が持つ豊かな表情は不変だ。ヘヴィな質感を持ったギターが雄叫びを上げ、タイトなリズム隊が自在に緩急を操りながら、スケール感を広げるキーボードと味のある歌メロで汲みあがっていく思慮深い孤高の世界は全く揺らいでいない。

 #1「Deadwing」ではヘヴィなドライヴ感を随所に配しながら、底をたゆたう幽玄なメロディが10分を越える壮大な物語を汲み上げていくし、#3「Lazarus」では幻想性に富んだ余りにも美しいバラードに否応なしに涙。最長12分にも及ぶ#5では、音楽知能の高さを伺わせる密な構成力に度肝を抜かれ、その後も流麗で美しさが引き立った曲からプログレッシヴな展開を生かした曲まで多彩な曲調でもって世界を彩っている。これこそ、音の表現者たる真髄。本作も前作に負けず劣らずの素晴らしい逸品だと思う。

 ジャンルを越えた奥深さを包括すると共に、どこまで広がっていくロックの新次元。全てを見透かしたかのような彼等の音に触れるたび、自分自身も開かれていくような感覚を覚えること必至である。やはり彼等からは離れられそうに無い。


In Absentia

In Absentia(2002)

    2002年発表の7thアルバム。ヘヴィ・サイケ・オルタナ・プログレなど様々な要素をいとも巧みに駆使し、独自の美学に溢れた音楽を構築する彼等。これ以前の作品はまだチェックできていないが、本作はメタリックな質感を伴った強度のあるサウンドに、繊細な柔らかみと透徹とした美が絡み合い、闇をも透かす鮮烈な世界が人の心を掴んで離さない逸品であると思う。

 ヘヴィなギターリフとリズムが紅蓮の炎をあげる一方で、メロディアスな歌メロや抑制された楽器陣の甘美なハーモニーが#1から巧みに引き込まれ、ノスタルジックな温かみのあるアコースティックなアプローチが光る#2、幽玄めいた境界へと浮遊する#3で完全に彼等の領域へと没頭。暗鬱とした表情と冷たさも温かさも含んだスタイリッシュな音像がラストに至るまで不思議な魅力を放っている。エッジの立ったギターがもたらす昂揚感、空間を優しく撫でるキーボードの繊細な響き、スティーヴン・ウィルソンの覚める様な歌声、重厚さと繊細さを滑らかに行き交う構成。それらを自在に操る密な構築力と導き出す頭脳はさすがと唸るほかない。楽曲の明確な表情を細部まで徹底的に描き、全体を通して滑らかな起伏をつけ、高密度な情報量を作品に宿している。だからこそ、何度も聴いて再び僕らは発見を欲するのだろう。むろん、70年代のプログレに通ずるような繊細な深みや叙情性を感じる部分も多いが、重量感が伴ったことでのコントラストの劇的さは突出しているようにも感じられる。

 Opethにも影響を受けたというそのヘヴィさは#9で顕著だが、内側を抉るような鬱さと相まって破壊性に長けているし、それでいて#2や#10に表現されているナイーヴな詩情も実に優しく耳を通り、胸に響く。そんな本作は過去最高の重さを獲得しながらも、洗練されたドラマ性と独特の深みを増した彼等の代表作の一つである。

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