YAMAAN ‐‐Review‐‐

アーティスト集団TempleATSに所属する奇才トラックメイカー。ナノルナモナイ、CHIYORI、JUSWANNAなどの作品にトラックを提供してきた人物で、音楽関係者からも高い評価を受けている。2011年1月に日本の移り変わる12カ月の情景を12曲で繊細に描ききった傑作の1stアルバム『12 SEASONAL MUSIC』を発表した。


12 Seasonal Music

12 SEASONAL MUSIC(2011)

   降神も所属するアーティスト集団TempleATSから音楽家YAMAAN(ヤマーン)が放つ1stアルバム。本作は日本の12か月を全12曲で表現した見事なまでのコンセプト作品で、永遠に巡り続ける日々を、またそれに付随して様々に色づき移り変わっていく季節をひとつひとつの繊細な音色で奏でた秀作であると断言したい。消えていく儚さ、生まれゆく神秘、そして生命の成長。そういった自然の摂理を豊かな創造力と日本人に根差した和の感性で表現している所、情景描写力がとても素晴らしい。

 ダウンテンポと表現できそうな音楽であるが、ブレイクビーツ~エレクトロニカ~ダブ~テクノ等を自由に横断しながら、息を呑む美しいサウンドトラックが構築されている。軸になっているのは季節ごとの空気・息吹をしっかりと感じ取り、それを柔らかくも生彩に富む筆のタッチ/ビートで描いたインストゥルメンタル。音の一つ一つの交わりや叙情性を意識しながら、儚くも映像的なサウンドスケープを刻々と描き出していく。時には#3のようにディレイのかかった幽玄なシタールが入ったり、#4では静謐な琴の調べ、#10では哀愁あるピアニカが鳴り響いたりと様々な意匠を施しながらどの楽曲に深い陰影と色彩感を与えているのも特徴的。季節の蠢動を映し出す絶妙さもさることながら、人の意識・感覚に溶け込んでいくような柔らかな音、幻想的な美しさを醸し出す無駄のない知的な楽曲の構成も光る。またナノルナモナイ(降神)のラップやCHIYORIの力強くも鮮やかなコーラスが入る曲もあって、ダビーな音響処理と相まって感性の奥深くまで覚める様な感覚を味あわせてくれるのだ。

 そして、このビートの向こう側にはあらゆる人の面影も垣間見れる。エイフェックス・ツインの『Selected Ambient Works』にある透徹とした透明感に叙情性、近年で言えばBurialの不穏な影の感情を引き摺って築き上げる立体空間、果てはMoodymann辺りのデトロイト・テクノまで様々なビートが集約されているように個人的には思う。しかしながら、それを引き合いに出しながら、和の心、いうならば”わびさび”を意識して楽曲をデザインしていく所にYAMAANの良さが出ている。ダビーな上を梅雨を意識して雨音のサンプリングにピアノの美しい旋律が駆ける#6や繊細なアコギのフレーズが郷愁を誘う#8、夕暮れの街並みに哀愁あるピアニカの音色が差す#10などは特にその影響が顕著。麗かな陽気に包まれる春、力を増す太陽が煌く夏、木々が美しく色づいていく秋、粉雪の舞う冬といった四季の美しさの表現。加えて、雨音のサンプリングで梅雨を示したり、夏の盛りを表現する海や花火の音など風物詩となるものを導入したり、蝉と鈴虫の鳴き声を入れて夏から秋の移り変わりを丁寧に表現することで季節感をより深めている。そして、それが楽曲のメロディアスさと立体感を強く浮かび上がらせているように個人的には感じた。特に的確なビートの上に美しい魔法がかけられていく#11「Recollection」の美しさは表現に苦しむほどである。

 かつて音楽と景色がここまで交錯する作品が今まであったろうか? 本作を聴いているとそういった疑念さえ浮かぶほど見事な作品。清廉な音のグラデーションによる最大限の映像喚起、これこそが、”心の中に締まっておきたい音風景”である。画家・山中宣明氏による12枚の絵画を収録した丹念なアートブックレットもまた作品に彩りと深みを与えているのも素晴らしい。おそらく、僕個人の2011年ベストアルバムにも上位で名を連ねることになるだろう逸品。何年先も聴き続けたい音が詰まっている。

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