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敗戦処理の日々の中で見つける人生の主題 岡本学『アウア・エイジ』を読む

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163回芥川賞候補作。40代を少し過ぎ、敗戦処理の気配が漂う先の人生と自身で卑下するほどに、生き飽きてしまった私(主人公)。目標も希望も見出せず、ただ余生を過ごしてるだけのような日々。今後も何も起きないし、起こす気力もない。年齢を重ねすぎてしまったがゆえ、またおそらく人生の中間地点を過ぎてしまったことで悟っただろう自分への諦め。

そんな彼のもとへ、かつてアルバイトとしていた映画館(飯田橋ギンレイホールをモデルとしたらしい)から、20年ぶりに封書が届いたのを機に訪れてみることに。約1年ほどの勤務だったが、蘇る懐かしい日々。そこから当時に思いを寄せていた女性・ミスミとの思い出を辿っていく(既に亡くなっているために回想のみの登場)。と同時に彼女が残した塔が写った謎の写真を探る。現在と20年前の映画館バイト時代を交互に行き交いながら進む、ミステリー的な要素を含む純文学。

謎は読み進めるごとに、少しずつ紐解け、最後には全てが結びつく。彼女の死についても、写真の塔についても、そこに書かれている”our age”という言葉についても。けれども、謎解きのスリリングさやすっきり感よりも、主人公が放つ諦念や哀愁の方に揺さぶられる。冴えない人間はこんなもんですよ、と諦めからきた虚しさばかりが悪い意味で充実。

サラリーマン10年の後、大学教員として収まった私。漂う人生終盤感。それが急にスイッチ入って写真の真実を知ろうとするとは。好きだったけど恋人関係にならなかった相手は、必要以上に美化してしまうからなのか。とはいえ、ミスミが生きていたとしても、彼女と結ばれることは無かったと結論づけるほかない物語の流れがある。その報われなさと儚さが、本作を貫く何とも言えない哀愁と諦観に繋がっているように思います。思うのは大崎善生さんの「パイロットフィッシュ」と同じ匂いがする作品だということ。まあ、こちらの『アウア・エイジ』の方が遥かに上品な作品ではありますが。

無気力な日々を送っていた主人公が、謎解きのあとに自身の主題を得る。”使命としての伝達”。それは誰しもが考えていかなければいけないことかもしれない。自分としては登場人物のひとりが言う「欲との距離感」の方が興味深い。

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