これが本当のわたしたち 本谷有希子『静かに、ねぇ、静かに』

 短・中編3作を収録した芥川賞受賞後第1作の文庫化。飛びぬけおもしろかったのが最初の「本当の旅」。SNSのいいねを羅針盤に生きる(作中ではインスタ)、現代人を風刺したもの。ちょっと前に観た映画にあった「現代人はアルゴリズムで物を買う」って台詞を思い出します。『いいね♪』中毒は誰しもの活力となっている。

 主な登場人物である男女3人(ハネケン[僕]、づっちん、ヤマコ)はアラフォーであり、みながする普通の生き方を蔑みながら、中年を超えてもなお自由を謳歌し続けている。今回も格安のマレーシア旅行で本当の僕たちとその場で得る感動をアップすべく、最強の3人での旅が始まるんだとワクテカが止まらない。

 友達に感謝、見える風景に感謝、生きてることに感謝と空虚なありがとうの連発。何十年放送されてても、何に感謝してるかわかんないオールスター感謝祭かとツッコミたくなる。3人そろえば最強!とか言って集合写真祭りでヒャッハー。映えの最高金賞を受賞するべく、SNSで本当の自分を作り上げている。その本当が正しいのかはさておいて。

 いいね!は彼らの最重要栄養素。今そこに自分がいること、その場で自分が感じていることが大事なんだ、そう思いながら、いいねのためにクリエイションし続ける。たとえどんな状況になったとしても。マインドとかヴァイブスとか普段から言葉として使ってるヤツらの危険さだったり、薄っぺらさだったりが際立つ。とはいえ本谷さんからすれば、本作を読んでる君たちも知らずに知らずにこうなんですよ、とせせら笑ってるのかもしれない。

 『本当の旅』の”本当”ってのがまず何なのよって言いたそうな。ラストシーンの切れ味。周りがポカーンとしようが、僕たち3人にはこれがある、こんな奇跡の一枚を世界に届けたいんだというポジティブさがあまりに痛快。武田砂鉄さんの解説もキレキレで笑えます。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

目次
閉じる