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価値観の衝突、わたしとあなたの違い 朝井リョウ『ままならないから私とあなた』を読む

 「レンタル世界(60頁ほど)」と「ままならないから私とあなた(220頁ほど)」の2編を収録。どちらの作品にも言えるのが、考え方や価値観は人それぞれであり、不可侵のものであること。合理的と人間的(非合理的)を対立させて書いてますけど、それらの主張がストンと入ってくる。人間関係と価値観の衝突、わたしとあなたの違い。朝井さんの作品ではトップクラスに好きな作品。

 「レンタル世界」においては、体育会系にありがちな本物の信頼関係による結びつき、それにお互いのことなんでも知ってて当たり前、これこそが絆だと信じて疑わない主人公がいます。しかしながら、人間レンタル業で働く女の子と出会い、やり取りしていく中で、真っ向から価値観をぶっ壊される。53頁以降の展開は、マジでグサグサきますよ。他人に押し付けられる自分の正しさなんて無いわけで。ましてや自分が相手の考え方・価値観を変えてやるなんてのは傲慢以外の何物でもない。僕としては「レンタル世界」の方が好きですね。

全部さらけ出し合えば本物の信頼関係が結べるとか、そういうのもうやめたら?(p58)

 表題作「ままならないから私とあなた」は徹底的に合理的で効率性重視の薫、無駄なことにこそ人間味が宿ると思っている雪子が対立する。とにかく時短や生産性の重視で便利なものはなんでも使うこと、対してのアナログ的なことにこそ味があるという考え方。これは今でも変わらずに両者は存在するし、どちらが正しいというわけではない。人間の生き方であり、選び方であると思う。けれども、雪子の「ままならないことがあるから、皆別々の人間でいられる」という言葉に心地よさを覚えたりします。Basd Ball Bearの小出さんの解説が秀逸。ということで文庫版をおススメします。

自分に都合のいいことだけはちゃっかり受け入れてるくせに、自分を脅かしそうな新しい何かが出てくると、人間のあたたかみが~とか、人間として大切な何かを信じたい~とかいって逃げる。(中略)変化していく社会に理解がある顔して自分だけは自分のままでいたいんだよ。ずるいよそんなの、何なんだよマジで(P268)。

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