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5mに巨大化する妻との暮らし 吉村萬壱『臣女』を読む

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夫の浮気を知った妻は身体が巨大化していった。絶望感と罪悪感に苛まれながら、夫は異形のものと化していく妻を世間の目から隠して懸命に介護する。しかし、大量の食料を必要とし、大量の排泄を続ける妻の存在はいつしか隠しきれなくなり、夫はひとつの決断を迫られることに——。恋愛小説に風穴を空ける作品との評を得、満票にて第22回島清恋愛文学賞を受賞した怪作が待望の文庫化!

「そなたの浮気の代償として、妻を大きくしてしんぜよう」

 ということで妻・奈緒美はある日を境にどんどんと巨大化していく。NBAの最長選手なんかをはるかに超えて、5mという新人類へ。そんな妻を家で匿い介護する非常勤講師兼小説家の夫。日々、記録する身長と排泄物のサイズ。どんな姿になろうと、食べて出すという生き物の基本は変わらない。糞尿まみれになりながらも、奈緒美が綺麗になっていると思い、彼は必死に世話をする。皮肉にもこういう状況が愛を再認識させるのか、それとも自身の行為に対する贖罪なのか。時折、挟まれる結婚前の奈緒美とのやり取りがまた切なくて。

 本作では浮気が妻の異形化の原因ではないかとされているが、正確な要因は書かれていない。しかし、その成長記はリアリティがあり、希望のない生を生き続けなければならない2人の頑張りが、妙に胸に迫る。巨大妻を絶対に隠し続けることなんてできるわけないのに、夫は必死に必死にがんばるのみ。

 ただ、あまりにも不快な臭いというのは人間は我慢できないもの。近所の住人からついには通報される。「あんた異臭の家の人間じゃないか(p238)」と150kmの速球で核心をつく。確かに読んでると読者からしても作品からなんだか臭ってくる感じがするし。臭いや音には人間、どうしても敏感になるじゃないですか。それを感じ取れるっていうこと自体、作品の凄みだと思います。とにかく強烈な世界観と新たな愛のカタチがなんだか癖になる。そんな作品です。

「これから」とは未来を指す言葉である。その未来が家の中に居られなくなるほど巨大化する事だとすれば、そのような未来に向けて「頑張る」とは何を意味するのか。これ以上に空虚で無責任な言葉はない。しかもその言葉に奈緒美を同意させ、ある筈のない希望を強要したのではないか(p177)

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