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ドウチョウの恐怖と代償 吉村萬壱『ボラード病』を読む

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B県海塚市は、過去の災厄から蘇りつつある復興の町。皆が心を一つに強く結び合って「海塚讃歌」を歌い、新鮮な地元の魚や野菜を食べ、港の清掃活動に励み、同級生が次々と死んでいく―。集団心理の歪み、蔓延る同調圧力の不穏さを、少女の回想でつづり、読む者を震撼させたディストピア小説の傑作。

 大きな災害から復興の最中である海塚市。そこに引っ越してきたある小学校高学年の女子を語り手に、この不穏な街について描かれる。集団心理、同調圧力に翻弄され、その連帯の象徴である街の名を連呼する「海塚賛歌」が人々の心の拠り所。奇跡の復興へと進む美しい街は、自分が街の生命体の一部と感じるほどの住民の”結び合い”で成り立っている。

 その事に違和感のあった女の子も、海塚に溶け込むことでドウチョウしていく事になる。ゆえに歪んで見えていたものが、ある日急にきれいに見えるようになる。それでも、この街にドウチョウできない人間は病気認定で排除されていく。学校の友達や先生、そのほかいろいろ。そんな中で最終章で描かれる狂気と正常とは? 本当の世界とはなんだろうか。世界とは何かをきっかけにひっくり返る。正しさなんてすぐに変わる。

人間の意識というのは、実に不思議なものです。周りの人間の言動次第で、見えるものも見えなくなってしまうのです。自分の目で見て三角のものでも、周りの人間が一人残らずそれを丸だと主張すれば、それは丸なのです(p178)

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