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美しさへの拘泥 遠野遥『改良』を読む

 芥川賞を受賞した2作目『破局』を読み終え、遡ってこちらです。若い(設定は20歳ぐらい)男性が極度に美しさを追い求めていくもので、テーマとしては本著の方が興味深い。自分としては完全に本作の方が好みです。

 女装することで見出すもう一つの自分。瞳、髪、顔全体、全身、服装と細部に至るまでしっかりと作り上げていくことで磨かれていく美。それでも完璧はないが、女装して外に出かけられるようになるぐらい、自分の中で美への精度は上がっていく。そうかと思えば恋愛対象は女性であって、LGBT等の要素はない。デリヘルをわりと頻繁に呼んでおり、性欲は決まってカオリという女性に慰められる。美しさを磨くのは自分のため。磨き上げることで新たにつくられる自分。

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 主人公が貫く美しさへのこだわりは他者に対して特に強まる。女性に対して美のジャッジは余計に厳しい。顔のバランスや全身のフォルムなどを隈なくチェックして、心の中で強めにダメ出し。美しさは、何ものにも変え難い物差しになっている。さらに言えば美しさへの気配りが足りてない人間に関してはそれこそ蔑視するプライドさえ持っている。

 僕は音楽への目覚めがヴィジュアル系と呼ばれるものからスタートしている関係で(1998年のヴィジュアル系全盛期と呼ばれた時代からです)、男性が美を追い求めていく意識には理解があると思っている。男性だろうが、女性だろうが、美しいものへの憧れというのはあるでしょう。自分の求める姿へ自分を近づける努力、それは年を重ねようが変わらない。

 本作は、最終的には転調としてもたらされる暴力が崩壊を呼ぶ。ラストは展開が一気に加速するのでなかなかにスリリングだし、痛みをも伴う。トイレの便座が下がってないことへの憤り、主人公の精微な観察眼など『破局』に引き継がれるている部分も見受けられます。いや、しかし、遠野さんが櫻井敦司さんのご子息だったとは・・・だからの改良なのかと思う部分もあります。

そもそも、私はどうして美しくなりたいのだろうか。人間の価値は、当然美しさだけでは決まらない。大事なものは、ほかにもたくさんあるはずだ。強さ、優しさ、健康、財産、地位、友達・・・。しかし、どれも美しさの前では霞ように思えてならなかった。(p41)

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