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死を前にした時の適切な距離感 山崎ナオコーラ『美しい距離』を読む

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 連れ添って15年以上になる同い年の40代夫婦。子どもはいなくとも円満な生活を送っていたが、40を少し過ぎたところで妻が癌に侵される。月日の経過とともに弱っていく妻、それを見守る夫の目線で描いていくのが本作。

 今そこで現在進行中の大病を取り扱っていても、決して重さを感じさせない内容。余命宣告を受けているために確実な終わりへと続く日々の中、自身の感受性に苛立ちながらも、”どう寄り添っていく”のが正しいのかを思慮して夫は看病をし続ける。適切な距離感を感じ考えながら。しかし、他者が不用意な善意で作り上げる身勝手&無責任な理由探し、親切の押し売りに辟易してしまう。やはり人との関係性は難しい。それに病院関係者との付き合い方もなかなか大変なものだ。

 作中、妻は死まで到達してしまうことになる。それでも感受性、外野の理由探し、延命治療等の矢を思考に突き刺しながら淡々と綴っているからか、深くまで悲しみを覚える感じではない。軽やかな2人のやり取りが死よりも生を浮かび上がらせ、今を焼きつける。配偶者だから自分が彼女を独占できるわけではない。妻が生きている時だって、亡くなってからだって、関係性は続く。2人を常に適切な美しい距離にしようと、この夫なら考え続けることでしょう。

死の瞬間を、大事な時間のように捉えたくない。死の瞬間なんて重要視していない、それのために見舞いに来ているのではない、今のこの瞬間のために見舞っているのだ(p137)

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