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やはり正常を揺るがしてくる 村田沙耶香『生命式』を読む

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 2009年~2018年までに発表した作品から全12編を本人がセレクトした短編集。”正常は発狂の一種”という美しい標語が輝く。みなに根付く常識・価値観の揺るがし。短いページ数でさらっと終わってしまう作品もあるけど、やはり一癖も二癖もある。死んだ人間が服の素材として当たり前に使われている「素敵な素材」、小学生の少女たちが隠れておじさんを飼う「ポチ」などそうでしょう。

 なかでも印象的なのは表題作「生命式」、本作の中では2018年夏に書かれて一番新しい「孵化」の2編。2013年初頭に発表された「生命式」は、それこそ後に発表される「殺人出産」→「消滅世界」に連なっていく奇抜なアイデアが炸裂している。死者を葬る場にて死んだ人の肉を食べながら、参列者の男女が相手を見つけて受精を行うという生命式。死から生を産む新しい儀式が当たり前のように行われる。もしかしたら、何かが違えばこれが当たり前だったかもしれない。移り変わる正常・異常を文学を通して炙る。

 僕としては「孵化」の方が衝撃的だった。主人公の女性は、所属する集団・コミュニティによってコロッと人格を変えて生きてきた。中学時代は委員長キャラ、高校は天然系、大学のサークルでは姫、バイト先では男勝り、就職したらミステリアス...。その5つを使い分けているなかで、自分に本当の性格がないことに気づく。平野啓一郎先生の分人主義に通ずることであるが、親・友人・恋人・SNSそれぞれで別人となる。現代に生きる人々ならありえることだとは思う。この物語は最後に自身の結婚式にどのキャラクターでいくのか?と友人と会議するんだけど、その結末がおもしろいです。これがまたぶっ飛んでいるなあと(笑)。

美しい言葉を吐いたあと汚い言葉を吐くと、『本音を言った』って騒ぐ人がほとんどよ。逆をやっても『嘘を吐くな、偽善者』って喚く。たぶん、そういう仕組みの方が安心するからじゃない? 綺麗なものが本質だと、落ち着かないのよ。(p263)

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