50人の人生の断片を通して チョン・セラン『フィフティ・ピープル』を読む

痛くて、おかしくて、悲しくて、愛しい。50人のドラマが、あやとりのように絡まり合う。韓国文学をリードする若手作家による、めくるめく連作短編小説集。ものがたりの楽しさに満ちた、韓国小説の新シリーズ創刊!

 韓国にて2016年刊行。日本では斎藤真理子さん訳で2018年に発刊されたチョン・セランさんの一作。とある大学病院を軸にした短編集。明確な主人公はいなく、50人(正確にいうと51人)の誰もが主役で誰もが脇役。登場人物は老若男女さまざまで、その人生もさまざま。踏まえて、人間は全て等しい存在というのが作者の根底にあると思われる。各人が細々と繋がっていたり、繋がっていなかったりするけれども、これだけの人数が登場する小説はさすがに初めて読みました。

 ひとりひとりの話はだいたい5~10ページぐらい。その短編の連なりとなりますが、フィフティ・ピープルなんでページ数にして462を数える。正直、言うと読み流してしまう感じになってしまった。それでも、契約社員だった図書館司書を8年間勤めたが正規職員になれなかったハンナ、お掃除術を延々と語るコン・ウニョン、「弟にフォークで目の下を突かれたのは先週のことだった」という始まりから弟との関係に悩むカン・ハニョンの話が印象的でした。人々の心の機微が実に鮮明に描かれています。

 訳者・斎藤真理子さんによるあとがきが非常に丁寧でわかりやすい。そして、ひとつひとつの物語の背景が解説される。2014年のセウォル号沈没事件や2016年の江南通り魔殺人事件、加湿器殺菌剤事件など。著者が不条理や倫理、悲劇などを救い上げながら一級品の短編として仕上げているのが伺えます。あなたに寄り添う登場人物がきっとこの著書の中にいる。

ある作品の創り手とその消費者は世界じゅうに散らばっているが、それは特別に結ばれた関係で、肌合いの似通った人々である(p437)

この世が崩れ落ちてしまわないように包んでいてくれるのは、何気なくすれ違う人々を繋ぐ、ゆるやかで透明な網だと思います(p467 著者あとがきより)

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