怒りと劣等感の世界に入り浸る 尾崎世界観『祐介・字慰』を読む

¥660 (2021/07/04 09:22時点 | Amazon調べ)

「俺は俺を殴ってやろうと思ったけれど、どう殴っていいのかがわからない。」スーパーでアルバイトをしながらいつかのスポットライトを夢見る売れないバンドマン。恋をした相手はピンサロ嬢。どうでもいいセックスや些細な暴力。逆走の果てに見つけたものは――。人気ロックバンド「クリープハイプ」のフロントマン尾崎世界観、渾身の初小説。「祐介」の世界からスピンオフした「字慰」は、著者最新の書き下ろし作品です。解説は『コンビニ人間』が世界的高評価の芥川賞作家、村田沙耶香さん。

 クリープハイプ・尾崎世界観さんの『祐介・字慰』。自伝的とは謳うものの違う気はしている。20歳ぐらいの売れないバンドマンの物語。”ハッピーエンド? クソくらえっ!!”っていうぐらいに怒りと劣等感の世界に入り浸ります。懸ける想いとは裏腹に、音楽で生きていくことの辛さがこれでもかと伝わる。

 7バンド出るライヴハウスの企画で、すし詰めの楽屋と比べてほとんどお客がいないフロアの対比だったり。高いノルマをライヴハウスに払ってライヴをしている自分たちに比べ、劇場出演1回500円もらえる芸人を死ぬほどうらやましく思ったり。ライブハウスで1回のライブをすること。その金銭的負担がどれぐらいキツイのかがこれだけでわかると思います。

 「未来を射抜く希望の音」等の音楽雑誌の安いキャッチコピーすらつかない自分たちの音楽に絶望したり。ひたすらの怒りと皮肉、むき出しの焦燥感、他人とやり取りはしていても絶望なまでに感じる虚無と孤独。懸命にもがいているけど、どこにも希望なんて無くて、結局どこにいけば、どうすればわからなくなっていく感じが強い。帯に救いって書いてあるけど、「救わない物語」という印象。僕は好きですね。

しょうもない仕事で稼いだお金をコツコツ貯めて、現実から逃げるために登山家みたいな格好でフェスの会場にテント張って、そのテントでたまたま聴こえた歌をひどいね、このフェスも終わりだとか言って、選民意識で沸かしたコーヒー淹れてすすってるようなヤツラ(p100)」

 ここの表現好きですね(笑)。「選民意識のコーヒー」ってボサノバ調の曲として後ほど出てくる。文庫化にあたって「字慰」を書きおろし。解説が村田沙耶香さん。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

目次
閉じる