言語と歴史 李琴峰『彼岸花が咲く島』を読む

【第165回芥川賞受賞作】記憶を失くした少女・宇実が流れ着いたのは、ノロと呼ばれる指導者が統治し、男女が違う言葉を学ぶ島だった。宇実は島の少女・游娜と少年・拓慈と、この島の深い歴史に導かれていき−。不思議な世界、読む愉楽に満ちた中編小説。

 著者の作品は『ポラリスが降り注ぐ夜』『星月夜(ほしつきよる)』と読んでいます。どちらも女性のLGBTQを題材に取り扱ったもの。とりわけ前者は、新宿2丁目の女性専用バー「ポラリス」を舞台に、日中台の国境を越えて様々なセクシャル・マイノリティを持つ女性7人の物語が描かれており、2020年でも屈指の作品としてわたしは気に入ってます。

 本作は、これまでとは作風が違います。現代ではなくおそらく未来のことであり、ある架空の彼岸花が咲く島を舞台にして書かれたもの(与那国島がモデルというのを散見する)。記憶を無くした少女がある島に流れ着く。流れ付いた島では共通言語として[ニホン語]が使われているが、島を統治する女性たち”ノロ”だけが使うことを許される[女語]が存在する。一方で宇実が話せるのは、[ひのもとことば]と呼ばれるもの。その三つの言語は、共通しているところもあれば相違もあり、本作は、言葉を巡る・探る部分が肝となっています。

 流れ着いた少女・宇実、島民である少女・游娜と少年・拓慈の3人が主要人物となりますが、ノロの総領事である大ノロがキーパーソンとして要所を締める。鎖国状態の理想郷の島で、独特の風習や言葉に新鮮さをおぼえながら、宇実は島に残る条件となったノロを目指して生活を送っていく。その中で、島はなぜ女性たちによって統治されているのか、家族という形態がないのか。鮮やかに咲き誇る彼岸花の意味は。146頁からその全貌が明かされます。

 著者自身が日中台の言葉を用い、また異国の風習の中で生きている。そういった気づきや経験がこれまでの作品にも大きく反映されていました。宇実が言葉も文化もわからなかったこの島で成長・溶け込んでいく姿は、それこそ李琴峰さんに重なります。そして、人類最大の財産である歴史に倣うことの重要性、以前から書かれているフェミニズム・多様性・男性優位社会への違和は、より強い主張となって表れています。今の社会問題に対しての理想郷を描き出してはいますが、ラスト付近ではそれに対して”このままで良いのか”という葛藤も描かれています。

 本著には、洗骨儀式というのが登場します。わたしは2年前に照屋年之(ゴリ)監督による映画『洗骨』を観ているのですが、沖縄・栗国島に伝わる死者の弔い方のひとつで、今でも風習として存在している。また、幾度か登場する調べてみると”ニライカナイ”という言葉もまた、沖縄特有の信仰に深く関係する言葉ということですし。意図的にこの地を作者が選んでいる気はしています。

 それにしても”彼岸花”と聞くと、DIR EN GREYの名バラード「VANITAS」を添えたくなる。

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