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負け戦と孤独の果て 遠田潤子『冬雷』&『オブリヴィオン』を読む

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大阪で鷹匠として働く夏目代助の元に訃報が届く。12年前に行方不明になった幼い義弟・翔一郎が、遺体で発見されたと。孤児だった代助は、日本海沿いの魚ノ宮町の名家・千田家の跡継ぎとして引き取られた。初めての家族や、千田家と共に町を守る鷹櫛神社の巫女・真琴という恋人ができ、幸せに暮らしていた。しかし義弟の失踪が原因で、家族に拒絶され、真琴と引き裂かれ、町を出て行くことになったのだ。葬儀に出ようと町に戻った代助は、人々の冷たい仕打ちに耐えながら事件の真相を探るが。第1回未来屋小説大賞を受賞した、長編ミステリー。

 ある小さな海沿いの町で起こる悲劇。それは長年にわたって繰り返されている。その理由は伝統や風習によって個人の尊厳が破壊されているから。これを守らないと祟りが起こる、あのお偉いさんに睨まれたらこの町で生きていけぬなど、自由など存在しない世界に人々は暮らす。こういう設定の遠田潤子さんは強い。

 孤児であった少年が主人公で、町を牛耳る権力者の養子として迎えられて、物語はスタートする。縛られる家のしきたり、決して結ばれない人との恋、予想もしなかった弟の誕生。”いつだって負け戦”の彼の人生にどんな選択があったのか。激情と重厚の人間ドラマに翻弄される。久しぶりに読んだけど、さすがに遠田さんの作品だなとゾクゾクした。冬雷がもたらすのは災いか幸福か。

妻・唯を殺害した罪で服役後、37歳の吉川森二は他人との交流を拒み孤独に生きることを決めた。何より大切だった唯とその兄の圭介との絆は失われ、一人娘の冬香からも激しく糾弾される森二を、新たな試練が次々と見舞う。オブリヴィオン=忘却と赦し。赦されざる罪を犯した男に、救済は訪れるのか。闇の中でもがき生きる人間の痛みと希望を描く、傑作長編。

 単行本発刊時に読んでて、文庫化されて再読。文庫発売直後にサイン本を買ったのですが、1回読んでるからいつでもいいかと思って置いときましたが、『冬雷』に引き寄せられてこちらも一気に読みました。

 妻を殺めた男の喪失と再生。オブリヴィオンはアストル・ピアソラの曲から。誰しもが使ってしまうその一言が彼が抱えてしまった心のトラウマであり、崩壊を呼ぶ引き金となる。生まれながらに選べなかった人生があり、選ぶことができた人生もあり、背負わされてしまった人生があり、抱えていかなければいけない人生があり。

 常にこの世の終わりと対峙し、赦しも救いも求めず、何一つ忘れる事なく痛みを持って生きていく主人公。希望は一欠片しかない。それでも、人間は卑しくも優しい存在だ。空と繋がる奇跡、それは同時に絶望と不幸と繋がることであるのが、何とも重たい。仲間という場所が、観てて尊く思えました。

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