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戸田真琴『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』感想

いつか、どこかに、私にしか愛することのできない誰かがいるかもしれない。
その時にちゃんと愛を始めてみたかった――

現役AV女優として活躍するかたわら、自らの言葉を綴ってきた戸田真琴。真実を捉えていて、それぞれの立場に寄りそい、読むひとの心に届く彼女の言葉には男女ともに多くのファンがいる。恋愛がすべてではないし、男女である前にひとりの人間同士だし、いつも器用に生きられなくたっていい、そうわかってはいるけれど、やり場のない感情を抱いてしまうとき。この本に記された言葉は、そんなあなたに見つけられるのを待っています。

 前著『あなたの孤独は美しい』に魅了されて本著を読む。結論から言うと、本著もとても良かったです。

 タイトルからすると恋愛本のように思ってしまいますが、そうではありません。女性であること、AV女優について、ミスiDの応募から選考まで、話題となった「SNSで死なないで」、バズった「シン・ゴジラ評」について、意外とちゃらんぽらんな自身についてなど様々なエッセイが収録されています。

 戸田真琴以前と戸田真琴になってからの自伝的要素が強かった前著から、こちらはより今の彼女が捉えた様々な事象についてや考えを書いている印象です。それと”です・ます調”から”である調”に変わっていますね。

 しかしながら両著に共通して言えるのは、戸田さんはいつも“孤独でいること”を肯定し、”あなたであること”を肯定し、”生きていてください”と肯定する。他者を慈しみ、なおかつ彼女自身も“私であり続けます”という決意が、正直な言葉と想いに表れている。だからこそ彼女の言葉に魅了されるのでしょう。

 今回は全5章のうち、特に気になった3章について書いていきたいと思います。

目次

第1章 いっそ限界まで値踏みされてしまいたかった

人が、消費されていく。代わりがいくらでもいるとでも言わんばかりに、目まぐるしく「世間」の登場人物は変わっていって、居なくなった人のことを誰も思い出さなくなる。それは、この世界では当たり前のようだった。(中略) 「女」という性質につきまとう良いことと悪いことだって、限界まで知ってみよう。目まぐるしいスピードで「女」を消費されるこの業界に立って、その中を生きる中で、それでも、消費されきってしまうよりも早くに、自分の肉から何かを生み出そう。

 主に女性であること、AV女優になるきっかけと今もその職に就いていることについて。前著と重なる部分もあれど、より深く女性であること、それに付随した消費について考察しています。女性ということだけで、“生きているだけで、無料で、消費されていく”という記述がありますが、消費という概念への彼女なりの覚悟と抵抗と闘争が見て取れる。

 2時間かけて書いた6000字のブログよりも露出の激しい写真の方が何倍も「いいね」がつく世界を生きることは、そう容易くはないとありますが、女性消費の社会をサバイブすること、しかも最も瞬間最大風速が鮮明なところで。できる限り俯瞰と客観視して観る自分からの冷静な言葉、主観と抑えきれない心の内から出てくる魂の叫び、その両方を用いてそんな世界で生きていくことを赤裸々に綴る。“私が知っている中で一番奥が深くセクシーなのは私の頭の中だった”という言葉が特に強烈に焼き付きます。

 後半にはミスiD 2018に応募したことについても書かれています。偽らない自分を出すため、これからの自由のため。とりわけ選考の話と選考員から寄せられたコメントについては、彼女自身が自分を再発見するような驚きがあったという。それぐらい普段の世界とは違うところで、本当の私自身を出すことに大きな意義があったようです。

第3章 私は私のままで、あなたはあなたのままで

細胞が腐って新しいものに押し出されていく、それを繰り返す人間というナマモノを、私たちは現在進行形でやっているのだということを、なるべく忘れないで生きていたいです。この瞬間に何かを手にしたような気がして、その空気を胸いっぱいに吸い込んで、吐き出す頃にはもうそれを失くしてしまっている。それがいい。それで、また新しくなりながら君と出会う。

 「SNSで死なないで」は本章に収録。併設するように「ツイッターから逃げ出して」を収録。この章と第2章は、前著「あなたの孤独は美しい」で書かれていたことと重複している点もある。厳しい母親の話、戸田真琴流の優しさ論、戸田さんが言葉で伝達する意味、SNSについて。

 「ツイッターから逃げ出して」を読んでいろいろと思う。たったひとりのあなたに届けと祈りながら書きつつも、その近しさに違和感を抱き、SNSが恐怖の対象に少しずつなっていき・・・。彼女はやめてみて自分の毎日を大事に生きるということに集中できるようになったという。

 今はスマホのアプリ上に復活していますが、僕も今年はインスタを除くSNS系アプロをアンインストールして過ごしてみました。『スマホ脳』や『デジタル・ミニマリスト』、『時間術大全――人生が本当に変わる「87の時間ワザ」』の影響を受けてのこと。スクリーンタイムの制限もしてますが、”無限の泉”と評されるコンテンツにいかに抗うかは、現代人の至上命題だと感じます。でも、実践してみると案外こんなもんかっていう風にはなります。

第4章 映画も音楽もなくても世界は美しかった、それでも

映画でも音楽でも、芸術というものは、自分の感性を掘り下げてくれるような存在だと思っているけれど、音楽に関してはとくに、生きる時間を彩るBGMというか、友達のような、相棒のような気持ちを抱いている

私は映画が好きなんじゃない。映画に移り込む孤独が好きなのだ。私は映画のことを巧妙な言葉でレビューするのが上手いんじゃない。映画のことを映し鏡にして自分の孤独や悲しみを見ているだけなのだ。

 読んでいて第4章が一番染ました。それは、音楽や映画に同じように没頭してきた人間だからでしょうか。映画を真剣に見出したのは30歳過ぎてからなんですけど。音楽は本当にいろいろ聴いてきたし、そういうところでも働いていました。何よりもこのブログの変遷は、僕の音楽的趣向の変化によってとことん変わっていきましたね。

 音楽や本や映画にふれること。それは僕は”自分との対話”みたいに思っています。自分を見つめ直し、新たな自分を発見する。戸田さんは、”自分の感性を掘り下げてくれる存在”と仰っていますが、共感しますね。合わせて”自分にとっておもしろいものとつまらないものの両方を知ることで、自分という人間の輪郭が見えてくる“という記述も。めんどくさく感じる人は多いでしょうけど、作品を通して余計な事(とは思ってないけど)を考え、自分を見ていく作業って必要だと感じます。

 僕はライヴやフェスや映画はほぼひとりで観に行きます(唯一、DIR EN GREYのライヴは中学時代の友人と行く)。友達がほぼいないっていうのもありますが(苦笑)、体感してすぐに言い合うというか共有しあうというのが苦手。あまり意味のないことを言ってる気がするので。だからこのブログで書くのがちょうど良いというか。その一手間が体験を自分の中に残るものになっていくような感じがある。

最後に

 僕が読んでて一番驚いたのが、第5章に書いてあった以下のこと。

文章をたくさん書くイメージから読書家だと思われがちだけれど、集中力がないので本を読むのがとても苦手で、年間に1冊読むか読まないかといったレベルだし

 え、本当に?と思えるぐらいに信じられなかったことです。何百冊読むかではない。気持ちを言語化して放っていく。丁寧な表現でただひとりのあなたに向かって放っていく。それは本当に難しい。

 個に潜り込んで思索すること、言葉にして落とし込むこと、実際に表現すること。それを繰り返してきた戸田さんだから優しく美しい言葉として、人々の心に残るのか。戸田さんの文章を読んでいると、もっと自分の中に潜り込んで自分を見つけていかなければならないという想いに駆られる。

 彼女の文章を追っていきたい、そう本著を読んで強く思いました。

 死にたい夜と、この世界を照らす光に魂を捧げる朝を、繰り返すこと—つまり歪なままただ生きていくことさえ、私に出来る唯一の愛のやり方だと知った。

前著『あなたの孤独は美しい』に関しては以下で書いています。戸田さんの2冊、オススメです。

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自分で在り続けるために 戸田真琴『あなたの孤独は美しい』感想 戸田真琴未満から戸田真琴になって現在に至るまでの歴史を通して感じた/考えた、彼女による孤独の哲学であり、孤独を賛歌するエッセイについての感想。

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