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真実は全て美しい 『ある画家の数奇な運命』鑑賞

 鑑賞時間が長いと言われている『TENET』よりもさらに長い3時間9分の本作は、僕が劇場で観た作品では過去最長です。ドイツの現代アート巨匠、ゲルハルト・リヒターの若かりし日々(幼少時代~30代前半あたり)をモデルにしており、映画化の条件として名前を変え(本作の主人公の名はクルト)、何が真実で何が真実でないかを明かさないこととなっている。

 リヒター氏の作品は、SONIC YOUTHの『DAYDREAM NATION』のジャケットに使用されていることでも知られる。88歳の今でも現存する最高峰の芸術家。

 前半は、ナチ政権下のドイツを描き出す。美しき叔母・エリザベト(叔母といっても20歳ぐらい)の影響で芸術に目覚めたクルト少年。だが、第2次世界大戦下の過酷な日常があり、優生思想に基づいた断種・安楽死、戦後の東西分裂、東ドイツの社会主義等の背景が描かれている。精神疾患と診断された叔母を断種によって失い、美術学校に入学した直後には父が自殺。過酷な運命に彼は翻弄された。その中で冒頭のエリザベトによる全裸ピアノの強烈インパクト、「真実は全て美しい」という言葉は、クルト少年にとって生きていく上での主題となる。

 後半は、ベルリンの壁ができる前に東ドイツから西ドイツに移住し、自身が生み出す芸術・作品に思い悩み、創り出していくことについて。東ドイツにいたころは、社会主義規範の政治によって芸術が規定されていて、クルト自身の大きな疑問になっていた。個人の芸術などなく、ピカソですら否定し、労働者を鼓舞するものが正解とされていた。

 ところが西にくるとガラッと変わり、オリジナリティの追求、お前の作品とはなんだ?というのをとにかく問われる。自由であるが故の苦悩。絵画は死んだみたいなことを周りに言われ、教授から全否定される中で、クルトは芸術家として目覚め、形成されていく。後に彼は個展を開き、そこで記者会見をするが、自分の作品の真実については語らず。その真実は鑑賞した者に委ねられる

 3時間を超える作品と言えど、日本の朝ドラ的であり、大河ドラマ的であったりで内容は明瞭な形だし、入ってきやすい。芸術とは何か?という命題に対しても向き合っていた。自分は美術に全く詳しくないが、非常に見応えがあり。この時代を描いた作品、次は『キーパー ある兵士の奇跡』を観たいと思ってます。

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