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嘘と依存で彩る自分色 『猿楽町で会いましょう』鑑賞

駆け出しのフォトグラファー小山田(金子大地)は、撮影で読者モデルの田中ユカ(石川瑠華)と出会う。コケティッシュでピュアなユカに惹かれ、彼女を被写体に次々と作品を撮り始める小山田。そして二人は付き合い始め、猿楽町で撮った作品はコンテストで受賞し周囲に認められ始める。しかし、元カレの存在を知った小山田は次第にユカの言動を疑いはじめ…。ハッピーなボーイ・ミーツ・ガールが一転、シニカルなクライマックスに向けて疾走する。

 ちょうど1年の延期を経ての公開。ポスター見る限り、爽やかな印象を持つ。けれどもその曖昧な距離感は縮まったのか、離れていったのか。ありきたりなラヴストーリーであるけれど(男女の出会いと別れ)、登場人物たちの欲と本能を丸腰でぶつけられることになる。さらに搾取の構造(芸能プロダクションと女性)。そういったことはあるにせよ、最終的に観て思ったのは、「何者かになれたのか、なれなかったのか」ということです。そして、「自分を持つ」ということの問いかけが本作にはあると思う

 作品は以下のようなチャプター分けがされ、視点の変化と流れにより整理されていてわかりやすい。

  1. 2019年6月~2019年7月 小山田の視点で描くユカとの出会いと恋人関係になった直後まで。
  2. 2018年3月~2019年7月 ユカの視点で描く上京から小山田との同棲まで
  3. 2018年8月以降 2人は一体どうなったのか。

 映画の登場人物も鑑賞者も田中ユカに振り回され続ける。この前に観た『茜色に焼かれる』は田中良子だったけど、本作でまた田中に惑わされるのかと。チャプター1では大天使の彼女。男性全員の心を掴むあの天真爛漫さと可愛さがある。ところがチャプター2ではひたすらに彼女の裏と闇を描く。漠然とした憧れだけで芸能界を夢見て新潟から上京し、タレントスクールの特待生の意味を間違えて授業料80万強を支払えず、グレーな男性向けマッサージ店でアルバイトを始め・・・。

 チャプター1の終わり掛けでもわかる通りに、ユカを被写体にした写真で賞を取り、人生が好転していく小山田。ついこないだまで雑貨や大人のオモチャを撮っていたのに、仕事として人を撮影できるようになり、表紙の撮影や若手有名女優などに撮影を依頼されたりと着実にステップアップをしていく。自分という色が見つかり、自分が何者かということを徐々に自覚していく様が見て取れた。本作の登場人物の中ではまともな部類の人ですが(嫌な人間ばかり出てくるので)、彼も出会って初日のユカを家に連れ込んで襲うような人間ではあるんだけども。

 反対に壊れていったのがユカであり、駆け出しの読者モデル兼女優の仕事は増えているように見えるが、決して満たされない。他人に依存することでしか自分を保てなかったユカ。数々の男たちから言われた言葉をトレースして自分のことのように話すユカ。夢のため、生きるためにと嘘をつき続け、他人への依存を続けた先にあったものは何なのか。終盤、自分ってどんな人ですかとインタビュワーに尋ねられ、困惑するユカを観て、自分はどんな人間かと自問自答した人も多いと思います。

 彼女の写真で始まって、彼女の写真で終わる。あの決別シーンは激情の応酬だが、賞を獲っていろいろな撮影を通しても、小山田はユカを撮ることが自分の力が最大限に引きだされることを自覚していたのかなと思う。だからこそあのクライマックスのやり取りが激しく、切ない。

 「タバコ苦手なんですよね、お父さんがヘビースモーカーで」と繰り返されたタバコ嫌いの理由が終盤に明かされる。しかし、奇しくも因縁のように本作で彼女と関係を持つ男たちは全員タバコを吸っているのです。ここがまた本作の嫌らしい示唆のひとつだったように思いました。

 ちなみに劇中で着用しているTシャツがまた印象的。映画『Night on the Planet』(僕は未鑑賞)は。Aphex TwinやSublime、あとで調べたらPUNPEEさんのTシャツも。ユカはTecnicsのロゴTシャツをオーバーサイズで着こなしてるのが、すごく良かった。

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