『君は永遠にそいつらより若い』の読了と鑑賞

身長175センチ、22歳、処女。いや、「女の童貞」と呼んでほしい――。就職が決まった大学四年生のだるい日常。その底に潜む、うっすらとした、だが、すぐそこにある悪意。そしてかすかな希望……? 芥川賞受賞作家の鮮烈なデビュー作。

 芥川賞作家・津村記久子さんのデビュー作。津村さんの作品はこれまでに5冊ほど読んでいます(オススメなのはエッセイの『二度寝とは、遠くにありて想うもの』ですね)。映画鑑賞に際して予習を兼ねて読み、映画鑑賞。それからもう1回読み直しました。

 物語は、主人公であるホリガイさん(演:佐久間由衣)の一人称小説で、映画版では少しだけ青春群像劇風の見せ方。大学4年生で地元への凱旋就職が既に決まっており、残るは卒論と3~4カ月の学生生活。終わってしまう大学生を惜しむ感じもなく、惰性で過ごしている。処女(作品だとさらに女の童貞、ポチョムキンと表現している)であること以外は、概ね”良”判定といえる女性がホリガイさんです。175cmもある身長はさほどコンプレックスではないみたい。彼女がひょんなことで出会ったイノギさん(演:奈緒)を通して、自己を掘り下げていく。

 シスターフッドものという感じは強くなく、恋愛が主軸ではない。男らしさと女らしさの問いかけはあるし、未経験ゆえの葛藤と焦燥を持ったり、生まれ持った身体によるジレンマがあり、それを踏まえた性と生を考えさせる部分はある。とはいえ等身大の大学生を描いているからか、何気ない日常のありがたみを強く感じさせます。

 そう思わせるのはイノギさんが不条理に抱えてしまった痛みであり、ホリガイさんや吉崎君が唐突に遭遇した身近な人・ホミネ君の死。理由なんて無く、人は何かに巻き込まれてしまうことがある。

 小説自体は15年前に書かれたものですが、そのアウトプットにしろ、現代でのアウトプットという形をとった映画版にしろ、若者が抱く悩みや不安が大きく変わるわけではなく、テクノロジーが進化しようとそのまま地続きで今に通ずることです。それに純文学的な自己と他者、死への扱いがある。終盤に出てくる「人間って、朝起きて歯磨くみたいに死んじゃうんだぜ」というセリフはかなり強烈でした。

 ホリガイさんは過去に受けた不条理の暴力、そして性経験値のない女として”わたしは欠落している部分がある”というマインドに支配されています。映画ではお調子者感がありましたが、堕ちた表情で本音をさらけ出すときのギャップが凄くて。児童福祉司という職に就くわけですが、”普通の人が経験できることをできていない、こんな私に他人に介入する資格はあるのか”という大きな悩みを抱えていることが、物語の進行とともに浮かび上がる。

 その職に就くきっかけは、高校生の頃にニュースで見たある幼児行方不明事件なのですが、遠くにある痛みを自分事のように感じ、私にも何かできないかと駆り立てられる。常に他者に対して想像力と優しさを働かさせるも、ホリガイさんは自己肯定感が低い。映画冒頭にて「お前の他者への無知は死んでるのと同じだ」と枝豆投げつけながら言われますが、悩みと無力感を抱き続けている。

 そんな彼女がイノギさんの痛みを知り、自分事のように向き合う。吉崎君の苦しみを知り、自分も悩む。ホミネ君の焦燥を知り、自分にできることを探す。ゆえに自分の殻をぶち破る終盤の飛躍があります。他者を知ろうとする、他人を思いやることは傲慢なのか。孤立感や無関心が広がっていく現代に向けての想いがあり、誰かは誰かの救いに必ずなっていると伝えている。

 映画版では、イノギさんを通して見つける”新しい自分”というのが立体的な形で表出しているように感じられました。そして小説には書かれてなかったホリガイさんの児童福祉司として勤務する姿が、ホンの少しだけ描かれている。これが追加されたことで、悩みながらも一歩でも半歩でも生きて前に進んでいくことの尊さがにじむ。

 「君は永遠にそいつらより若い」はホリガイさんがあの子に向けた言葉でありますが、と同時にホミネくんのことも含んでいると思う。死んでしまったらずっと同じ年齢で止まってしまうから。そんな本作は、”他者に寄り添うこと”、”生きる”というメッセージを温かく投げかけている。

最後に小説と映画との主な違いを最後に載せておきます。

  • 舞台が関西→関東
  • 小説では肝となっているイヤな奴・河北がほぼ出てこない(最初の居酒屋でうんちく垂れて枝豆投げつけた奴がそうだと思われるが)
  • バイト先の後輩の名前がヤスオカ → ヤスダ に変わっている
  • バイト先の同い年の主任・八木君は、管理職のオジサンに設定変更
  • 津村さん特有の音楽好きエッセンスは引き継いでいない(吉崎君がハスカー・ドゥのトレーナーを着てたり、これだけのお金があれば輸入盤が買えるという描写が小説にはある)
  • 卒論のテーマが変わっている。

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