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耽溺する神秘的音世界 Alcest『Souvenirs d’un autre monde』

 傑作と評される2007年発表の1stアルバム。2005年に発売したEPでは出身であるブラックメタルの狂気も聴けましたが、本作には皆無。ポストロック、シューゲイザー、アコースティック等のジャンルが融解して生み出される極上のハーモニー、そしてJesuに迫る多幸感と優しいメロディが降り注ぎます。ブラックメタルを出自にしたというのは聴いている限りでは全く連想できず。それほどロマンティックな音色が紡がれています。教会を燃やすなんてとんでもない(笑)。

 シューゲイザーやアコースティックの音色を中心に、柔らかなクリーンヴォイスがそよぎます。全6曲は心地良いテンポの曲で占め、いずれの曲もセンチメンタリズムが通底。さらには生命の誕生を祝福するような壮麗さがあり、ジャケットのようなエメルラルド・グリーンが広がる、そんな印象も受けます。フレンチ・ポップス辺りの影響もあるのか、聴きやすさと上品さも。

 轟音フィードバックギターの炸裂と哀愁のバランスが絶品の#1、続く表題曲#2は彼等を語る上では欠かせない名曲のひとつ。永遠の愛と幻想世界を表現したという#5は、美麗な女性ヴォーカルとロマンチシズムに溢れたサウンドが強く胸を打ちます。神秘的なメロディが一面に煌びやかな星を落とすような#6はあまりの美しさに酔いしれる。しかしながら、どこか物憂げで哀愁をほんのりと漂わせているのはこれまでの自身の音楽の影響でしょうか。まあ、それがいい塩梅となっていますけどね。

 心休まる優しい音、降り注ぐ柔らかく清らかな光、夢の中にいるような温かい時間。自身の幼少の頃の神秘的体験を音楽でどこまでも美しく彩っていく彼の真骨頂を聴かせたような1stアルバムです。僕はこの作品に出会って、音楽の幅を広げられたなあと改めて実感しています。

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