様々な形や想いを通した『愛』の短編集 きのこ帝国『愛のゆくえ』

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メジャー・デビュー・アルバム『猫とアレルギー』から1年。配信シングル「クライベイビー」「夏の影」「愛のゆくえ」(映画 『湯を沸かすほどの熱い愛』主題歌)を含む、メジャー・セカンド・アルバム。“東京”から“クロノスタシス”に歩みを進めたように、また一歩新たな扉を開けた、新境地の楽曲が並ぶ傑作。2016年11月リリース。

 約1年ぶりとなる4thフルアルバム。メジャー発売となった3rdアルバム『猫とアレルギー』は、賛否両論というよりは否の意見が上回ってた印象があります。明るくてポップ過ぎ、メジャー故の大衆迎合だとか。まあ、確かに内容からはわからなくもなく、僕もカタログの中で1番好きになれない作品でした。というか佐藤さん、パーカーからドレスアップしすぎだろと(笑)。

 わかりやすいポップ化進行ですが、本作では”深行”って字を当てはめたいところですね。これまでの作品で試みてきた諸要素(R&Bのリズムアプローチであったり、シューゲイズ要素の復興であったり)がとても上手く結びついている印象。リズムはアップテンポの曲を無くし、ゆったりとした曲だけにしぼって近作における歌ものとしての側面を強めています。「“愛のゆくえ”をめぐる、9つの物語から成る短編集」というテーマで作品は制作。手書きの手紙によるやり取りの親密さを感じさせ、君/あなたへの想いを曲が進むに連れて直接的な表現で綴ります。

 柔らかく伸びやかな佐藤さんの歌声は、影と憂いを与えつつも優しい。楽器隊は歌を引き立てるように隙間を活かしたつくり。とはいえ、前述したように轟音のアプローチが効いていル曲もあり、映画主題歌に起用された#1『愛のゆくえ』、締めくくりとなる#9「クライベイビー」の甘美な音の洪水に僕はやっぱり惹かれます(歌詞の視点が対象的なのも良い)。そして、レゲエ/ダブの要素まで盛り込んだ#5「夏の影」もまた新鮮な響き。様々な形や想いを通した『愛』の短編集。全ての道がここに通じていたという集大成の作品であり、きのこ帝国の作品群で最も深みを感じさせる作品に仕上がっています。

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