【アルバム紹介】MORRIE、余りにロマンティックな音楽

 DEAD END/Creature Creatureの核であるヴォーカリスト。他を寄せ付けない孤高のカリスマとして、多くのフォロワーを生んだ存在。本記事ではベストアルバム『Ectoplasm』、2010年代以降に発表された3作品『HARD CORE REVERIE』『光る荒野』『Ballad D』を紹介しています。

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Ectoplasm(2005)

 2005年にリリースした初のベスト盤。1990年代前半に発表された1st『ignorance』、2nd『ロマンティックな、余りにロマンティックな』、3rd『影の饗宴』という全3作品(いずれも廃盤)から選曲されたもので、さらにVHSのみ収録の「パニックの芽」も加わった全15曲が収められています。ちなみにライナー・ノーツは、BUCK-TICKの櫻井氏が担当。

 ソロ作品ということでDEAD ENDから引き継がれている部分はあるにせよ、MORRIE御大の表現者としての魅力を突き詰めたような作品です。サウンドは激しいものではないですが、細かく流動を続けるも歌に意識がいくようなつくり。歌唱もDEAD END初期の様に刺々しいものではなく、『ZERO』期に豊かさと余裕を加えたイメージでしょうか。ロウ~ミドル辺りの声を中心にしていてファルセットはあまり用いていない。

 しかし、ヴォーカルの加工はあるし、打ち込みやサックス等の装飾が施されているし、初めて聴いた時はとても大きな驚きがありました。ジャズやファンクの要素、さらにAOR的な感触もあり。DEAD ENDの頃からのロック/メタル・サウンドからは想像もつかないものとなっています。

 演奏陣には元Swansのロリ・モシマンやジョン・ゾーン、四人囃子の森園氏などが参加。ゆえにこれまでと違った形へ着地しているのは必然かもしれません。本作だと『ロマンティックな、余りにロマンティックな』に収録されている楽曲(#5~#10)が特に印象的。彼の特徴的な歌唱や哲学的な詩と重なる事で、消化の難しい不可解な音の群れとなり、聴き手の内面の深く深くへ忍び込んでくる。

 表現として非常にバラエティに富んでいて、なおかつ独特の緊張感を肌で感じる内容。改めてMORRIE御大の懐の深さと脳内宇宙の無限さを思い知ります

HARD CORE REVERIE(2014)

 約20年ぶりとなる4thアルバム。全11曲約65分収録。青木ロビン氏を除くdownyの面々、SUGIZO氏(LUNA SEA、X JAPAN)、ササブチヒロシ氏、秦野猛行氏、yukarie氏、FIRE氏、妻であるHeather Paauweさんが作品に参加しています。

 殺戮の雪を降らせる五十路の超人がソロとして再び降臨。ソロ作品はDEAD ENDやCreature Creatureとの距離を取る前衛性を発揮。過去作ではAOR、プログレ、インダストリアル、フリージャズ、現代音楽等の用語が飛び交いましたが、それらが凝縮して自然な形で出し入れされていました。

 本作もその流れに倣う。アヴァンギャルドな作風によって異界は流転しますが、ややロックへの揺り戻しを感じさせる内容。downy3/4と共に身悶えるようなトチ狂ったハードコアを掻き鳴らす#1「Prologue:Go Under」、ひらひらと桜吹雪が舞うような#2「春狂え」と序盤を飾り、雪月花やジョルジョ・デ・キリコの「不安にさせるミューズ­」にインスパイアされて制作したという曲も登場。

 聴いていると以前と比べてファルセットの多用が目立ちますが、幻想的なクリーン・トーン、そしてフリーキーに炸裂するサックスやストリングスが複雑に絡み合い、化学反応を起こしています。小規模なオーケストラとして成り立ち、多彩な形でもって翻弄する御大の音楽からは、Kayo Dotとの親和性を感じるところ

 時として陰負の感情を焼き付けることもありますが、鋭く牙を剥くよりも不思議と包容力を持った救いの音楽として成り立っている印象は強い。張り詰めた緊張感の中で喜劇と悲劇が繰り返されるような大曲#9「Unchaind」、アルバム最長となる9分強#11「Killing Me Beautiful」といった終盤では、官能的な美しさに耽溺します。

 MORRIE御大の紡ぐ哲学的な詩や艷やかで麗しい歌唱を核にし、実力派演奏陣と共に彩っていく全11曲は奇異の芸術。想像力を羽ばたかせてロマンティックな、余りにロマンティックな音楽を生み出しています。

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光る曠野(2019)

 5thアルバム。全11曲約61分収録。メインの演奏陣はギターに黒木真司氏(Z.O.A.)、ベースにFIRE氏、ドラムに絵野匡史氏。ゲストとして清春さん、咲人さん、Borisが参加。表題曲#5「光る曠野(こうや)」は、粕谷栄市氏の2004年に発表した『鄙唄』の中にある「歌」という詩を曲にしたもの。それがアルバムの軸となりタイトルにも冠することに。

 御大のソロ作品はお決まり無しのアヴァンギャルドな作風ですが、本作はサックスやストリングスを使用せず。バンドらしいソリッドなサウンドが目立ちます。復活以降のDEAD ENDやCreature Creatureに寄った低域の蠢きと流麗さが両立したメタル/ハードロック調が躍動。#2「Danger Game」や#4「Angelic Night」を聴いた時は、ギターリフからしてソロでこういう曲をやるのかという驚きの方が大きかったもの。

 体感的にはシンプルでストレートというのが過去作と比べると顕著に感じます。アコースティックの詩的な響きからエレキの華麗な反抗、時折のブルースの情緒が沁み、フュージョン的な変異もある。そして闇ではなく光へ属性変化していることが大きな特徴か。表題曲#5を聴くと深い虚無が光によって満たされていく。添えられるギターソロがもたらす感情の昂ぶり、MORRIE氏の声による魂の浄化。凄い。

 終盤2曲は圧巻で、#10「神髄」は黒木氏のギタープレイを中心にプログレッシヴ・メタルの怪奇性と混沌を帯び、Borisが全面参加した#11「Into My Eyes」はDEAD ENDの「冥合」とは別の危うくもまばゆい世界が立ち上がる。

 本作リリース・インタビューとなるROCK AND READ VOL.83では彼のベースにある”独我論”を解説(難しすぎる)。その中で“音楽というものを媒介にして、僕のこの真理感覚のすべてを、ある種の覚醒に導く”という言葉を残す。作風は変われどMORRIE御大の真理が凝縮された作品は続いています。

メインアーティスト:MORRIE
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Ballad D(2022)

 6thアルバム。全12曲約65分収録。DEAD ENDのギタリストである足立”YOU”祐二氏が20年6月に逝去。彼へのレクイエムとなるDEAD ENDセルフ・カバー作品。プロデュースは縁の深い岡野ハジメ氏。選曲は全6枚のフルアルバムから行われています。

 ”アコースティックはメインだが、落ち着いたバラード調に流れない。かといってバンド的なアレンジでもない。歌をメインに立てた、聴いて一人で深く浸りたくなるようなパーソナルなもの“というMORRIE御大の構想のもとで制作(上記はCDブックレットの土屋京輔氏のライナーを引用)。

 その言葉通りにアコースティックへの転生という限定的ではない魅力に溢れます。SUGIZO氏の参加で大らかな飛翔感を伴う#1「Serafine」は原曲に近い印象。ですが、スパニッシュ調の大胆な改編が行われた#2「Embryo Burning」、語りのパートが追加された#3「Luna Madness」、デジタルなタッチを増して暗鬱な美に揺れる#10「Beyond The Reincarnation」と新鮮なイメージで上書きされる。

 盟友の追悼に加え、歌い直したいという純粋な思いを本作にて体現していますが、原曲のニュアンスは大切にされていて歌は違和感を抱くほどの変化は無し。適切なアップデートといえるもので、歌詞も基本的にはそのままです。

 その中で驚きだったのは咲人氏が参加した#6「Promised Land」。パーカッシヴなリズムの上を韓国のJambinaiがよぎるような東洋風のアレンジを施し、中盤のギターソロではエキゾチックな情熱の嵐が吹き荒れる。

 締めくくりにはDEAD ENDで最も思い入れのある曲だと語る#12「冥合」が選ばれ、相容れない光と闇の狭間で鎮魂歌として鳴り響く。『Ballad D』は核心となる輝き方を変えようと、永続する音楽としての価値を示しています。DEAD ENDの開始から38年が経過して実質的な終わりが突き付けられても“今ここに”存在し続けるMORRIEという個体を通し、継承され続けていくものがある

アーティスト:MORRIE
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