De Doorn(2021)

ベルギーの暗黒重神の4年ぶりとなる7thフルアルバム。これまでアルバムタイトルに冠していた『Mass』は、6作をかけていったん閉じられました。とはいえ、暗黒と重音を統率して「痛み」を限りなく表現するAmenraの法則/儀式は健在です。苦しみを薪として、築かれる漆黒の大伽藍。かつてのような禍々しい怨念よりも、解放への祈祷のごとく。無慈悲だった重音の濁流は、少しだけ労りの心を持つことで、また違った見返りを聴き手にもたらします。
本作において、盟友であるOathbrekerからVo.Caro姐が久々に登板したことに、まず驚きました。ですが、それよりも聴いて明らかなのは余白、朗読が増えたこと。静と動による破格のダイナミズムは、変わらずに彼らの手中にあるものです。
しかしながら、濃霧に囚われていくかのようなアンビエント#2「De Dood In Bloei」が顕著ですが、他の曲にも最低限に音を減らし、静かに語るパートが存在する。聴き手に対し、己の内面を深く見つめ直すことを促すように。とはいえ、その静けさの中に軽さを感じることはなく、刹那ですら畏怖を覚える重みに支配されています。
その中で首謀者・Colinは、核として一層の存在感を放ちます。人々を諭すような朗読、余りにも悲痛過ぎる叫び。そこには当然、Caroの助力による相乗効果もあります。特に#4「Het Gloren」の後半において、喉と頭の血管が切れそうなぐらいの絶叫の応酬。強烈なインパクトをもたらすと同時に、存在意義を強く主張する。怒り、嘆き、そんな言葉では言い表せない感情を密度濃い闇の中からぶつけているのです。
”De Doorn = 棘”を意とするタイトル。棘があることで必然的に取られる距離感や痛みがもたらされる。そして、人間は己に何らかの棘を持ち、他者が持つ何らかの棘に警戒を覚えるものです。#3「De Evenmens」のMUSIC VIDEOには棘人間化する模様とその贖罪が描かれているように思います。
見ていて非常に痛々しくエグく思うのですが、サウンドの重量と凶暴さが増していく終盤では、甚だしい痛みと肉体は業火によって一欠片も残さずに焼かれていく。彼等の表現における真骨頂でもある。
12分42秒にも及ぶ終曲#5「Voor Immer」は、本作が併せ持つ要素を1曲に集約したかのような存在感を放っています。最終工程においては、沈黙すらも美しいと思わせる前半から、全てを無に還すような重音がクライマックスで轟きます。
不確定な未来に向けて、彼等の重音は生き延びていくための祈り。Amenraの音楽に希望を見出すか、絶望を見るかは人それぞれでしょう。でも、本作は決して苦痛への招待状ではなく、暗闇の淵に引きずり込むようなものではなく、生命を尊み悼む音が押し寄せるものです。「Mass」という線ではなく、「De Doorn」という点で描いたからこそ、彼らは別の到達点へと導かれたのかもしれません。
最近になって知りましたが、オランダのプロレスラー、マラカイ・ブラック(Malakai Black)選手の入場テーマ曲に本作の1曲目「Ogentroost」を使用しているとのこと。雰囲気に合ってますね。この曲もまた10分を超えて”痛み”を表現する曲で強力です。
彼等が過去に発表した6作のMassシリーズについては以下で書いています。こちらも併せてご覧ください。

