冷涼なポップ感と甘美な毒 Plastic Tree『インク』

¥1,010 (2021/08/21 09:39時点 | Amazon調べ)

   メジャー・デビュー15周年に発表する12thアルバム(発売は2012年12月12日)。個人的にはプラトゥリはベスト盤と前作『アンモナイト』ぐらいしかチェックしておらず、これまであまり縁が無し。それが、本作を聴いてみたところ、思わぬ完成度の高さに凄く引き込まれた。評判の通りに、様々な層にアピールできる作品に仕上がっている。

 徹底した美意識がもたらす耽美かつセンチメンタルな作風。それに揺らぎはない。ヴィジュアル系を出自にUKロック、オルタナ、ゴシック、シューゲイザーやポストロック、エレクトロニカ…etcと様々なジャンルと向き合い、柔軟に取り入れながら、そこに有村さんの文学的な詩を重ねることで独特の味わいを堪能させてくれる。

 本作に関してもそう。どことなく俯き加減の陰鬱さを醸しつつ、淡い切なさと色彩を零していく#2「インク」、印象的なピアノと透明感のあるギターがシングル#3「くちづけ」、ここまでのベクトルを滑らかに変貌させる極彩色のエレクトロ・チューン#4「ピアノブラック」と序盤から見事な楽曲が並び、物語を形作っていく。時代を見つめながら歩んできたキャリアがもたらす多彩さ、ナイーヴな感傷、流麗なメロディ。とても幻想的である。だが、親しみやすさを感じるのは、冷涼なポップ感と甘美な毒が織り込まれているからだろう。

 中盤では小気味よいパンクスにV系調味料をふりかけた#5「あバンギャルど」、アコースティックな曲調から急に砕けた感じで弾ける#6「ライフ・イズ・ビューティフル」といった曲が続き、哀感たっぷりのダークなシューゲイズ風#9「てふてふ」も取り揃えて多彩な曲調をアピール。そして、シングル#8「静脈」や#10「シオン」などで流麗なポップさを演出し、本作のハイライトとなる12分超えのインスト・ナンバー#11「218小節、かくも長き不在。」に繋がっていく。この曲を初聴した時は、思わず鳥肌が立ったほど。美しいギターが波のように静かに寄せては返し、クライマックスでは恒久の光と轟音が降り注ぐ名曲。インスト・ポストロック好きの琴線に確実に触れるだろうと個人的に思う。

 今更ながらプラトゥリにハマるのかと思いながらも、緻密に構成された世界観と長年に渡って積み重ねてきたキャリアが見事に合致したこの『インク』は、それだけの説得力を持つ秀作に仕上がっている。様々な色彩を残しながら奏でられる12曲、じっくりと味わって聴いていただきたいものだ。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

目次
閉じる