
amazonプライム会員になるだけでこんなにも恩恵が受けられる、というのが今の世です。わたくしも数年間プライム会員であり、商品も関連サービスもよく利用しています。そのひとつにあるのがamazonプライムビデオ。もうみなさん、知ってるでしょうから細かい説明は省きます。
前提として、なんだかんだ映画は映画館で集中して観るのが自分は一番良いと思っています。自分の2017年~2020年までの劇場鑑賞作品数が、年平均で80作品ぐらい。絶対に他事がやれない状況で物語に入り込む。そこであれこれ考えながら観るのが一番良いし、入ってくるのかなと感じています。とはいえ、amazonプライムビデオ限定というのもあるので(最近の有名どころだと、「SOUND OF METAL」とかでしょうか)、利用はそこそこしています。
というわけで今回は、amazonプライムビデオの見放題サービスで鑑賞可能な邦画10作品を選びました。最初は邦画5本、洋画5本という形にしようかと思っていましたが、選んでいたら無理だなとなってしまい、邦画10本という形に変更。良かったら参考までにみていっていただけると嬉しいです。ちなみに1作品だけ映画館で観てないし連続ドラマですが、オススメなので許してください。
今回の選定基準は以下の通りです。紹介順は順位ではありません。
- わたしが映画館で鑑賞した作品であること
- amazonプライムビデオ見放題対象商品であること
- 邦画であること(※1作品だけ例外あり)
- 新しめの作品であること(今回は2018年~2020年の作品を選出)
※ amazonプライムビデオの見放題対象商品は、時間が経つと入れ替わります。本記事は2021年6月19日時点のものです。
三島由紀夫 VS 東大全共闘 50年目の真実(2020)
2020年のベスト3に入る一本です。三島由紀夫氏の小説は昨年の新装版発売はあったものの(この映画公開のあと)、まだ6~7冊ぐらいしか読めてません。この時代は学生運動が盛んだった頃。そんな程度の知識で本作に臨んだわけですが、自分がサンドバッグにでもなったかのように言葉の乱打に遭います。
完全アウェイの中で討論会に乗り込んだ三島氏が、全共闘に対して論破ではなく説得しているのが印象的でした。討論内容は、抽象的で難しい。他者、持続性、天皇論などなど。次元の違いというのをはっきりと感じる。とはいえ小説家・平野啓一郎氏や哲学者・内田樹氏がポイントで出てきて解説してるので、自分の中でも少しだけ整理ができるかな。
とにかく伝わるのは、言葉には重みがあり、怖さがあり、力があるということです。本作を観ると、言葉に対してもっと誠実に向き合うことが必要だと痛感する。今、観るべき作品のひとつ。
私をくいとめて(2020)
2021年の1月に観たのが3月末にはプライムビデオ見放題で配信されるのだから、世の中のサイクルは本当に早い(本作の正式な公開日は2020年12月)。綿矢りささんの小説と大九明子監督による『勝手にふるえてろ』コンビが本作で再登板です。
なによりも贅沢なぐらいのスーパー能年玲奈タイム。それにつきます。中村倫也さんが声だけっていうのも贅沢だし、のん×橋本愛の7年ぶり共演っていうのも贅沢ではあるんですけども。30代の独身OLがかかえる恋愛の悩みを少しずつ解決しながら物語する形です。自身の内面と向き合い、他者からの見られ方に戸惑い、幸せって何なのかを考える。のんさんはやっぱり素晴らしいなと思う次第です。『勝手にふるえてろ』の続きみたいな感じでも観れるかなと思います。
劇場(2020)
小説を3回読んでいます。公開直後に伏見ミリオン座で鑑賞後、すぐにアマゾンプライムビデオにて観返す。映画館とプライムビデオ見放題同時スタートっていう試みがあるからこそ、これができるというのが新鮮でした。
基本的には原作に忠実なストーリー。プライドだけは一丁前の売れない演劇人・劇作家の永田(山崎賢人)、青森出身で服飾の学校に通っている沙希(松岡茉優)、2人の7年間を描く。その中で『劇場』は映画に置き換えたときの見事さ。それは純粋に永田と沙希の描き方・追い方で、「靴、同じですね?」という新しいナンパ様式?から始まる恋を長い時間をかけて追っていく。2人の心が密接になるところから離れていくまで。山崎賢人くんと松岡茉優さんの演技がまた見事でしてね。
少しネタバレにはなりますが、逆に原作のここは切らないでほしかったという部分があります。それが永田と青山の尊厳の踏み躙りあいメール合戦。この場面に人間の醜さとプライドの塊みたいなのが表現されていると感じてたので、青山役が伊藤沙莉さんだから余計に入れ欲しかったな。映画版では必要以上に永田を嫌われ者にできなかったというのは思いますけどね。小説だと永田はもっともっと嫌なヤツです(笑)。でも永田が常に抱える焦燥と劣等感は人間臭いし、それが表面化しているかしていないかが人間の嫌悪感を決めるのかとも思ったり。
二人は変わらないのか、変わってしまったのか。変わったのは永田なのか沙希なのか。それはご鑑賞いただければと思います。
愛しのアイリーン(2018)
90年代中盤に連載されていた新井英樹氏の漫画の映画化。国際結婚した主人公を通して地方の農村が内包する問題を描いています。今回のぶっ飛び枠です。
数ヶ月前に観た映画では”毎日帰ると妻に死んだふりされていて困ってた”安田顕さんが、今回は女性器と(妻の)アイリーンの名を叫び続ける中年男性・岩男の役で、狂気というほかない役すぎてビビります。端的に言えば、性と愛と家族の物語ではあるんですけれども、その中に国際結婚や保守的な田舎というのが絡んできて物語を複雑化させている。露骨な性的なシーンもあるし、まっ血っ血になるぐらいの血液も観れます。とにかくハードコアですよ。
安田顕さんの母親役である木野花さんの息子を思うあまりの狂気もすさまじく、妻・アイリーンを演じたナッツ・シトイさんもまた狂気。差別や家族という呪縛に立ち向かうエネルギーはそこから生まれるのかもしれない。観た後になんじゃこりゃ!となることも否定はしません。でも、涙活なんてものよりも生々しいものが観たい方にオススメです。
岬の兄妹(2019)
今回の紹介する中では、一番キツいと思います。悲惨カロリー摂取過剰になるぐらいに。足に障害を持つ兄、自閉症の妹が主要人物。「足が悪くて働けない → お金ない → 妹を1万で売ろう→ 生活改善」という非道な方程式を編み出してしまう。ここがまずキツい。目を背けたくなるシーンが多々登場しますが、挟まれるユーモアがちょっとした憩いにはなっています。あのプールのシーンとか。
人間、食べるものがなくなるとティッシュを食べ出す(甘いらしい)。兄の友人が「お前は足が悪いからじゃなくて、頭が悪いからダメなんだ!」と言われますけど、その非道な手段を選ぶ前に福祉を頼る知識もないというのは観てれば理解できます。けれども、生にしがみつかなきゃいけないのが人間の業。正しくなくても、その人たちにとっては正しいことっていうのはある。本作はやっぱり兄妹愛の濃さ。それは貫かれてます。
青の帰り道(2018)
毎回、新作を楽しみにしている藤井道人監督。そのきっかけになったのが本作です。一番好きな『デイアンドナイト』と迷いましたが、青春群像劇のこちらをチョイス。
群馬県の高校を卒業した男女7人の物語。2008年から2018年の10年間が描かれてますが、2018年は最後にちょっとだけなんで、主には高校3年生から23,24歳ぐらいまでの移ろい。宣伝ポスターのキラキラ青春感はどこに夢死したという感じに重苦しく圧し掛かり、痛々しく刺さる作品です。自由だと叫んだ若者たちが理想と現実の前に葛藤する姿、しかも重い出来事が次々と起こり巻き込まれるので、観ている側も苦しくなります。
地元に残る人、東京に出ていく人、このグループ内で結婚する人、生きるのをやめた人。様々なその生き方は、自分だったらどうしていたのかを考えさせます。しかしながら、真野恵里菜さんや清水くるみさんに容赦無さすぎる。あんだけ堕ちさせるかっていうぐらいに。「人生、こんなはずじゃなかったのに」とは誰もが思うところ。けれども生きていかなきゃいけない、あの頃の美しい思い出を胸に。ホント、いろいろ詰まってますよ、この作品には。
しかしながら2008年ごろに”エモい”という言葉は、ほぼ使われてないと思うんだがとツッコミたい(笑)。
志乃ちゃんは自分の名前が言えない(2018)
青春映画、エモいという言葉を添えたくなるぐらいに。吃音症である志乃、ミュージシャンを志すも音痴である加代、この2人がひょんなことから仲良くなり、音楽デュオを結成して文化祭での演奏を目指す。ちなみに携帯電話が出てこないので90年代後半が舞台だと思われます(作品の中で時代背景がわかる感じのことがあまりない)。先生も志乃の吃音はみんなで話す緊張からきているものだという感じで、まだまだそういう考えが浸透していないという印象も受けました。
ハッピーな終わり方はしませんが、この年代だからこそのぶつかり合いや心の共有からすごく人間味を感じました。やっぱり「みんなと同じことが何でできないのか」と思ってしまいますね。そんな自分を認めようというメッセージ性も孕んでいたと思います。公園や駅前の通りで路上演奏する彼女たちの姿はあまりにも眩い。演奏するのがミッシェルの「世界の終わり」やブルーハーツの「青空」。なんとも心地よく響きます。
きみの鳥は歌える(2018)
近年、映画化が続く小説家・佐藤泰志さんの『きみの鳥はうたえる』の映画化。1981年作。小説の1970年代・東京というのを現代の北海道・函館を舞台にして、他にも改編ポイントがいくつかあります。
僕(柄本佑)、静雄(染谷将太)、佐知子(石橋静香)の3人によるずっと続くと思ってたある夏の物語。 モラトリアム、不思議な三角関係。非常に小説的に淡々と紡がれる中で僕の変化を感じ取れる内容。 それぞれがとにかく自然体に感じる演技ですが、誰も本心がわからない・見せないところをこちらで想像しながら観ていく。あの時の感情・行動、関係性の変化。
気ままに飲んでクラブ行ったり、ビリヤードしに行ったり、本屋のバイトでいろいろもめたり。結末は原作と違いましたけど、映画はこれで良かったのかもと思いました。優柔不断であった僕が、どうにもならないタイミングで唯一見せた意思。曖昧が曖昧じゃなくなる最後は、結局楽しい時は続かないということでしょうか。染谷将太くんは飄々さと優しさを滲ませ、石橋静河さんのカラオケシーンはとてもインパクトがあります。
2019年4月に閉館した今池のキノシタホールで観た最初で最後の一本。
蜜蜂と遠雷(2019)
”世界は音楽で溢れている”
才能っていう言葉に逃げたくはないけれども、努力は裏切らないとは思うけれども、努力ではどうにもならない領域があるというのを理解させる。芸術は美しくもあり、残酷でもある。それを思い知らされます。
神様から選ばれた者たちが紡ぐ美しく力強い音色、そして共鳴。勝ち負けじゃない。それぞれがそれぞれの演奏で心を震わせる。とにかく演奏シーンの臨場感と緊迫感にはすごく引き込まれました。余計な装飾はいらない。音楽の力をこれでもかと感じる『蜜蜂と遠雷』でした。
実写ドラマ I”S(アイズ) (2019)
最後は映画館で観てないし、連続ドラマというルール破りの反則技で紹介。今から20年以上前の中学生時代に読んでいたというのが一番大きいんですけど、近年の漫画実写化において一番成功した作品じゃないかなと僕は思っています。1997年から2000年まで週刊少年ジャンプで連載され人気を集めた青少年の淡い思い出として君臨する、桂正和による伝説的青春恋愛漫画「I”s(アイズ)」が実写ドラマ化。
何といっても原作に忠実・丁寧。作り手の原作愛をものすごく感じます。無理な拡張とか、狙い過ぎた表現とか余計なことをしていないっていうのが大事です。ちゃんと舞台も90年代で、ブラウン管のTVにビデオ。家の電話で連絡を取り合い、携帯電話が発売されたばかり。原作の世界観にこだわりぬいてます。主人公のイチタカに関しては賛否あると思いますけど、他の配役はほぼ完璧と言っていいぐらい。伊島空くんが完コピ過ぎて引くぐらいの寺谷の完成度を誇ります。4人のヒロイン陣も素晴らしい。
あまり細かい説明をしても仕方ないので、まず1話を再生させることが大事です。そこからはどんどん再生が進みます。原作知っている方は、丁寧な実写化と懐かしさに胸を痛め、初めて見る人にしたってあらゆる感情をかっさらっていくと思いますよ。
ちなみにこれを撮影した豊島監督は、最初に紹介した『三島由紀夫VS東大全共闘』の監督を務めています(もうおひとりが『アンダー・ユア・ベッド』の安里麻里監督)。このふり幅の凄さ。そして、本作を観て漫画を全巻買いました。
まとめ
月々500円ちょっとでこのサービスが利用できるのはやっぱり恐ろしい。他にも『生きてるだけで、愛』や『凪待ち』とかまだまだたくさん紹介したい中で10本に絞ってみました。これはまだなのか、あれ見放題じゃなくなっている、などの作品もありまして作品選びはやっぱり難しいなと思った次第。ここに挙げた作品にしたって見放題から外れることはあるかもしれないので、気になった方はお早めに。
追記:2021年6月20日に洋画編を作成しました。
