【作品紹介】If These Trees Could Talk、内なる世界と外なる世界との対話をもたらすインスト

 2005年から活動を続けるアメリカ・オハイオのインストゥルメンタル5人組。兄弟であるZack Kelly(Dr)、Cody Kelly(Gt)を中心に結成され、20年を超えてもオリジナル編成でマイペースに活動を続けます。

 If These Trees Could Talkというバンド名は、ZackとCodeyの祖父がよく口にしていた言葉からきている(DECIBELIBTのインタビューを始め、各所で同内容を話している)。また、Sonic Abuseのインタビューによると略すなら”Trees”らしいのですが、本記事内ではITTCTとしています。

 MogwaiやExplosions In The Sky、Toolから影響を受けたというインストゥルメンタルを主体に活躍。ポストロック色の強いバンドですが、Metal Blade Recordsと契約。2016年の3rdアルバム『The Bones of a Dying World』や初期作の再発盤がリリースされています。

 20年代からは家庭や仕事優先のため活動が限定的でしたが、2024年に8年ぶりとなる新曲「「Trail of Whispering Giants」」を発表。またPortals Festival 2024やPost.Festival 2024にヘッドライナーとして出演を果たしており、支持は根強い。2026年7月には約10年ぶりとなる4thアルバム『The Hidden Hand』をリリースしました。

 本記事は上述の最新作『The Hidden Hand』を始め、これまでにリリースされているフルアルバム4作とEP1作の計5作品について書いています。

目次

作品紹介

If These Trees Could Talk(2006)

 1st EP。全6曲約32分収録。”活動初期はMogwaiやExplosions In The Skyを聴いていたが、自分たちなりに解釈していた”とIBTのインタビューで回答しており、轟音系ポストロックに連なるスタイルが特徴のバンドです。

 トレモロ・リフがもたらす軽やかな飛翔感、アルペジオの煌めき、各パートの有機的な積層。トリプルギターを案内役にデビュー作ながら職人的な精巧さと味わいが詰まっています。8分を超える#1「Malabar Front」からバンドの実力を感じるには十分な内容。冷ややかなトーンを維持しながらも、ポストメタル系に通ずる歪みと重低音が幅を効かせています。

 とはいえ、爆発力で押す感じよりもじっくりと聴かせる側面が強い。#3「The Friscalating Dusklight」では穏やかなハーモニーが響きわたり、#5「The Death of Paradigm」の4分間にわたるメランコリックな波状に飲み込まれる。ちなみにタイトルが不思議な#6「41°4’23n, -81°31’4w」は、故郷であるオハイオ州アクロンの座標を示しています。

 なお本作は10年にわたって廃盤となっていましたが、所属しているMetal Blade Recordsからアートワークとマスタリングを一新して2022年に再発売されています。

メインアーティスト:If These Trees Could Talk
¥1,200 (2026/08/14 00:58時点 | Amazon調べ)

Above the Earth, Below the Sky(2009)

 1stアルバム。全10曲約45分収録。ポストロック7:ポストメタル3ぐらいの配分で突き進むインストは、前作から大きな変更はなし。3本のギター、ベースとドラムによる5人編成の音でほぼ完結するスタイルもそのままです。

 詩的かつ流麗な響きから嵐のようなセクションへの突入は、Explosions In The SkyとPelicanの中間地点を攻めている印象。しかしながら轟音系ポストロックに準拠しているようで外れてもいる。

 ITTCTは要素を付け足すことや曲のバリエーションを増やすよりも己の武器を最大限に活かして、簡潔に仕上げます。

 静から動へ単純な移行を良しとせず。ギターがそれぞれに役割分担を果たして優美なストーリーを語っていく。その様は公務員に例えてもよいだろう実直な仕事ぶりです。

 終盤にPelicanばりの剛腕さとヘヴィネスが押し寄せる#2「What’s in the Ground Belongs to You」、MONOを彷彿とさせるトレモロの応酬によって哀切が色づく#7「Thirty-Six Silos」等はインパクト強し。

 また10分近くをかけてアルバム・タイトルをなぞっていく#4「Above the Earth」~#5「Below the Sky」は、風に揺れる森林のざわめきのようで、ITTCTがつむぐ音楽に惹かれます。

Red Forest(2012)

 2ndアルバム。全9曲約47分収録。これまで同様に明確なコンセプトは設けられてないそうですが、精妙に絡み合うトリプル・ギターがもたらすメランコリーと破滅感が増しています。

 彼等なりの紳士協定があるのか、変わらずに5人による生音が主体。お互いを引き立てながらじょう舌に物語を描きます。しかし、諦観と無力感が全体から漂っている。特に#2「The First Fire」や#6「Red Forest」辺りに顕著で、煌々としたメロディが流れるも、クライマックスに向かうにつれて哀感が強まります。

 枯れ果てた木々、立ち込める霧、わずかに届く仄かな光がもたらす赤み。そこに無常さを突き付けるような音の波が流れ込む。それでも芯までじっくりと味わうインストとしての矜持が本作にて示されています。

 リズミカルな3連からディストーションの轟きが炸裂する#4「They Speak With Knives」、優美かつパワフルなサウンドが3分間に凝縮された#8「Aleutian Clouds」と赤い森に忍び込むメリットは多数あります。

メインアーティスト:If These Trees Could Talk
¥1,600 (2026/08/14 00:59時点 | Amazon調べ)

The Bones of a Dying World(2016)

 3rdアルバム。全9曲約54分収録。赤い森から滅びゆく世界の骨へと行き着いた本作は、かのMetal Blade Recordsからのリリース。だからといってメタル度が特に高くなったとわけではなく、ポストロック用のタイヤで走り続けています。

 本作については”アルバムのアートワークや曲のタイトルに関して言えば、テーマは地球の現状と、世界が自らを癒すことができないという脅威を反映しています。私たちはリスナーを喜びと悲しみの渦に巻き込み、物語を完結させることで、音楽を通してそうした感情を表現しようと努めています“とIBTのインタビューで話している。

 お得意のポストメタル的な重圧/ダイナミクスは効いているものの、トリプル・ギターを擁した美しいメロディを中心とした組み立ての方に本作でも分があります。クリーン・トーンを中心に織物職人のようにギターを重ね、いずれもドラマチックに展開。冒頭から心をわしづかみにされる#1「Solstice」から冷涼な音色を中心に静と動を丹念に編み込んでいます。

 しかし、これまでに無い激しさを増すリズムが目立つ#3「Earth Crawler」、ギターヒーロー張りのソロの引き倒しが聴ける#7「The Giving Tree」と細かな変化はあり。ポストメタル度よりもプログレッシヴ度が上がっているのは本作の特徴でしょう。

 そして轟音なしで流麗に聴かせる#2「Swallowing Teeth」、初期のPelicanを思わせるヘヴィな#6「Iron Glacier」など劇的な瞬間が何度となく訪れる本作。精査された音と組み立て、ストーリー展開は変わらずに雄弁です。

The Hidden Hand(2026)

 4thアルバム。全9曲約40分収録。約10年ぶりとなるフルアルバムです。メンバーは2005年から続くオリジナル編成を継続し、リリースは引き続きMetal Blade Recordsから。”このアルバムの制作過程では多くの浮き沈みがありました。予想以上に時間がかかりましたが、最終的な目標は感情に訴えかける音楽を作ることであり、それが達成できたことを願っています“とバンドはプレスリリースで説明している。ちなみに2024年に発表した8年ぶりとなる名シングル「Trail of Whispering Giants」は収録されていません(これは併せてチェックしてほしい曲)。

 過去作と比べるとダイナミクスはやや控えめな印象を受けますが、3本のギターが各自のラインを奏で精妙なバランスで成り立つITTCT節は健在。2分に満たない導入曲#1「Archons」に続く#2「Moon Machine」から迫力と繊細の間を揺れ動くように、トレモロギターの重層から軽やかなメロディを交互に繰り返しながら展開していく。また#3「Sea of Glass」は7/4拍子交じりのパートをフックにし、#7「Metanoia」では終盤を飾るギターソロがインパクトを残します。

 そんな中で本作には新しい試みが2つあります。ひとつは先行曲である#4「Blurry Creatures」における声の存在。結成からずっとインストゥルメンタルに徹しているバンドでしたが、その掟をついに破ってスポーツのチャントに近いコーラスが乗る(オーオーって感じのです)。IDIOTEQのインタビューによると声を担当しているのはメンバーの子供たちだそうで、同時に”大勢の人がライヴで一緒に歌ってくれるのが待ち遠しいよ“とも話しています。

 そして、初めてのカバー曲となるAphex Twin#8「Film」の収録。BPMは落としているものの、原曲が持つ雰囲気を損なうことなく水晶のようにきらめくギターを中心に見事なバンドサウンドへの転換を果たしています。ちなみに選曲理由については”90年代後半に育った僕たち全員にとって大きなインスピレーション源だった“と話している(参照:プレスリリース)。アンビエンスな雰囲気を持続するかのように#9「Endlessly Connected」はドラムレスで瞑想を促すギターの音色と共に終わっていく。

 10年という月日を経ると上述した変化がバンドには訪れますが、ITTCTの持ち味は大きく変わっていない。以前より没入感に重きを置いている印象があり、じっくりと聴き浸りたい作品です。

メインアーティスト:If These Trees Could Talk
¥1,600 (2026/08/15 00:00時点 | Amazon調べ)

LIVE VIDEO

If These Trees Could Talk – Live at Portals Festival 2024 – Full Set (Official)
目次