2011年もいよいよ残りわずか。わたしが過去最高に音源を購入したこともあり、今年はいつも以上に充実した音楽ライフを送りました。その上で2011年を総括していく中で絶対に取り上げたいことがあります。
それがTokyo Jupiter Recordsについてです。小さいレーベルであり、ご存知ない方も多いでしょう。ですが、当ブログを訪れる人には、絶対に知ってもらいたいので特集いたしました。以下からスタートしていきます。
※ 本記事は2011年12月に制作。10年以上経過しているため、一部改訂しています。
Tokyo Jupiterとの出会い
そもそものレーベルとの出会いのきっかけは某オンライン・ショップにて、ドイツのポストメタル・バンドのRadare『Infinite Regress』という作品を購入したこと。今年の正月に入ってからの出来事です。
そして、前述の作品について書いたことから、Twitter上でTokyo Jupiterのオーナー・西田 皇之氏(以下:キミさん)と繋がりが生まれるに至りました。その後もリリース商品を買ったり、ディストロ入荷商品を購入したりして、Tokyo Jupiterの世界にひたすら引き込まれていく事になります。
Tokyo Jupiter Recordsは、世界各地に散りばめられたまだ光の当たっていない激情ハードコア/ポストロック系バンドを中心に探り当て、リリースを手掛けているレーベル。ほぼオーナーの個人運営で規模は小さいながらも、想像もつかないぐらいに貢献を果たしている日本の誇れるレーベルのひとつ。2007年12月から始まった音楽発信は、2011年12月の現在までに20作品以上を数え、どれもが夜空の星のようにそれぞれが違う輝きを放っている。
リリース内容はポストハードコア、ポストロック、スラッジ/ポストメタルまでわたりますが、ハードコア愛好家だけでなく、マニアックな音楽フリークの心を動かし続けています。初々しいアーティスト達の煌きを国境を越えて感じる歓び。個人的にもTokyo Jupiterから発売される音源はいつも新しい発見に驚かされ、新鮮な感動で満たされる。
また、ディストロも行っており、レーベル・リリース以外の仕入れ商品にしても目から鱗。聴き手に対して新しい視野を拡げ、新しい音楽体験を常にもたらしてくれる。その発送業務は海外にまでおよび、日本のみならず世界でもTokyo Jupiter Recordsの名が知られているほど。
所属アーティストの来日公演も手掛けていて、2009年11月にはThe Black Heart RebellionとThe Caution Childrenを招聘して日本ツアーを敢行している。
2011年には欧州でTokyo Jupiter Festivalを成功させました。そして東日本大震災における支援にも積極的に取り組んできました。そういった真摯な姿勢もTokyo Jupiterが支持される要因。もちろん、所属アーティストからの信頼も厚く、まだ見ぬ原石からの売り込みも絶えないと聞く。そんな大いなる可能性を秘めたレーベルなのです。
Tokyo Jupiter オーナー インタビュー
”Tokyo Jupiter Recordsを深く知ってもらいたい!”という想いが特に強かったので、レーベル・オーナーの西田 皇之氏に幣サイト初めてとなるインタビュー(メール・インタビュー)を行いました。レーベルを知って1年未満の初心者の自分ですが、Tokyo Jupiter Recordsの一ファンとして前々から伺ってみたい事が多々あって、今さら恥ずかしくて聞けないような質問も含めてこの機会にいろいろとぶつけてみました。
Tokyo Jupiter Recordsの生い立ち、意義と共にレーベル・オーナーの人物像にも迫る内容になっています。是非ともご一読下さい。
―― まずはTokyo Jupiter Recordsを始めたきっかけをお答えいただけますか?
現在手がけているような類の音楽が元々好きで、多種多様な音楽を聴くことのできる環境が備わった豊かな日本に生まれた人間として、アーティストやシーンに何かしらの形で貢献したいというテーマは常日頃から抱えていました。
ネットの発達によって音楽プレーヤーのボタンをクリックするだけで未知の音楽を容易に耳にすることができるようになった現代。そんな時代においても、聴いてオシマイの消費音楽としてではなく、ユーザーの興味や関心といったものを異文化間の音楽コミュニケーションの継続的な手段として昇華していく機会を窺っていました。
きっかけとなったのは海外のレコードレーベルやアーティストと直にレコードを購入・取引をするようになり、アンダーグラウンドで活動するアーティスト達がどのような形でサポートされ、次世代へと引き継がれていくのか知ってからですね。
欧米・他諸外国ではアーティスト・レーベル間の共同リリースや情報交換が頻繁に行われ、各国に点在する音楽愛好家達が自国内でそのアーティスト達が活動できるような環境づくり(レコードの制作や流通・ライヴ企画)を自主的に行なっています。
もちろん日本でも実力や実績のある海外アーティストに対し、こういった試みを行い来日を実現させてきた背景がありますが、ノンブランドでもレコードレーベル未所属でもいい、諸外国のアンダーグラウンドで精力的な活動をする良質な若手アーティスト達をもっとミクロな視点からサポート出来ないかと思い、現在のレーベルを立ち上げました。
また海外のアーティストをリリースすることで日本のアーティストとの接点、ツアーやリリースの機会を作ることもできますし、将来的にはレーベルを介してどんどん日本のアーティスト達に外へ出ていって欲しいという願望もありますね。
―― レーベル設立から現在に至るまでの経緯を大まかで構いませんのでお答えください。
2007年の夏頃に海外レーベルとの取引の際に若手アーティストが自主制作した音源を聴く機会があって、それからすぐにコンタクトを取り、その年の12月にスタートさせました。最初にコンタクトを取ったのはベルギーのThe Black Heart RebellionとUSのThe Caution Childrenですね。彼らもまさかまともにデビューもしていない・作品も出していない自分達が遙か海の向こうの日本のレーベルに声をかけられたとは到底信じがたい雰囲気でして。
The Black Heart Rebellionに関しては、Daitro/Heaven In Her Armsのユーロツアー(ベルギーで共演)に同伴したkillie/This Time We Will Not Promise And Forgive/OTO RECORDSの吉武氏が実際に彼らと会って、彼らの日本デビューを後押ししてくれたという話も聞いています。その縁もあってThe Black Heart Rebellionの1stフルレングス「Monologue Japan limited edition」では吉武氏が歌詞翻訳を手がけてくれています。
その後の流れに関しては以下の通りです。
■ 2007年 USのThe Caution ChildrenとUKスコットランドで精力的なライヴ活動をしていたArchivesのデモ音源をリリース。
■ 2008年 レーベルのナンバリング第一弾となるThe Black Heart Rebellionの初期音源集「S/T」と、第二弾にあたるThe Caution Childrenの1stフルレングス「Vacations」をリリース。その後、フランス・リヨンのフレンチ/アラビア系激情ハードコアバンドOrfevreとその内3人のメンバーが在籍しているポストハードコアバンドSeila Chiaraのデモ音源をリリース。
■ 2009年 リリースの幅を拡げ、The Black Heart Rebellionの1stフルレングス「Monologue Japan limited edition」、カナダ・モントリオールのアンダーグラウンドを支える有力なバンドメンバーが一同に集ったMilanKuのデビュー作、惜しくも解散を表明したArchivesのラスト作、The Black Heart Rebellionの同期であるベルギーのLoathusと、当時全員が10代だったスウェーデンの若手ポストロックバンドCome Across Trachimbrodのデビュー作をリリース。その年の11月にThe Black Heart RebellionとThe Caution Childrenのジャパンツアーを国内有数の若手激情ハードコアバンドbirthサポートの元、実現。
■ 2010年 Seila ChiaraとOrfevreのSPLIT作、ドイツのポストメタル界の新星Radareのデビュー作、The Black Heart Rebellionの来日をきっかけに繋がったベルギーのAmenraメンバーによるサイドプロジェクトバンドKingdomの音源集をリリース。
■ 2011年 9ヶ国のアーティスト達が参加した2枚組コンピレーション「TOKYO JUPITER Compilation II」をリリースした後、国内参加組である東京の激情ハードコアバンドNonremと共に渡欧し、ベルギーとフランスの2ヶ所で計4日間に渡るライヴフェス「TOKYO JUPITER FEST」を開催。
ベルギーからはThe Black Heart Rebellion、Kingdom、Syndrome、フランスからはSeila Chiara、Orfevre、TotorRo、イタリアからはUp There: The CloudsとGottesmorder、ポルトガルからはAdornoのメンバー擁するI Had Plansが参加。
ベルギーでは東北地方太平洋沖地震における被災支援のためのベネフィットフェスを行い、ベルギー・ドイツ・フランス間をSeila Chiara、Nonremらと共にツアー。帰国後には2008年以来となるThe Caution Childrenの2ndフルレングス「Unknown Lands」、デモ音源以来初の単独作となるSeila Chiaraの「Rive」、傍ら「exclusive CDR series」という名のCDRシリーズではスウェーデンのVia Fondo、ロシアのReka、イタリアのGottesmorderの作品集をリリース。
年内最後にヨーロッパ最高峰のポストメタルバンドAmenraの音源集「Mass III-IIII Japan limited edition」、フランスの新鋭激情・ポストロックバンドTotorRoの1stフルレングス「All Glory To John Baltor」をリリースし、現在に至る。
―― わたしを含めて気になっている方は多いと思うので、Tokyo Jupiter Recordsという名前の由来と意味を教えてください。
一時期SF小説にハマっていた時期があって、日本SF大賞や星雲賞を受賞された神林長平氏の小説をきっかけに知った、とある作品の一節から名づけましたね。音や歌を用いて人の心や世界を調律して一つにしていくというテーマにシンパシーを感じて、です。
―― 所属されているバンドは、聴き手の心を動かす感情的な音楽を奏でるバンドがほとんどです。そんなバンドをリリースするにあたって基準や重点を置いているところはどこですか?
リリース作品によっては複雑な音作りによる世界観への理解、ストーリー性やそこに込められたメッセージを感じ取るための感受性が要求されることもあるかとは思いますが、音楽性についていえばフィーリングがモノをいう世界なので私の中では「こうでなければならない」という正確な基準というものは存在しません。
ですので共通する部分としてあえて挙げるとすればやはり“感情表現や思考の部分”です。
言葉にはできない繊細な部分にあたるのですが、社会性・建前・処世術が要求される現代社会においても、決して取り繕うことのない、剥き出しのハートの部分を包み隠さず投げかけることのできるアーティストは、表現者と受け手の相互理解の実現においてこれ以上とない可能性を秘めていると思います。
そういった部分をそれぞれの音楽性の中で表現できる・大切にしているアーティスト達を率先してサポートしていきたいと考えています。
―― リリースされたどの作品にも思い入れはあると思います。その中でも特に思い入れの強い作品ってのはありますか? また、Tokyo Jupiter Recordsを全く知らないリスナーに対して、キミさんが一番にオススメするとしたら、一体どの作品になるでしょうか?
やはり最初の2作品、The Black Heart Rebellion『S/T』とThe Caution Children『Vacations』でしょうか。このリリースが実際、来日に繋がったので思い出補正は強いですね。
何も知らない方にどれかオススメするとしたらThe Black Heart Rebellion『Monologue Japan limited edition』もしくは、V/A 『TOKYO JUPITER Compilation II』でしょうか。これらの作品に存在している音楽的要素がレーベルのアイデンティティになっていると思います。
―― 今の厳しすぎる音楽業界の中で、売れる保証の全く無い無名のアーティストをリリースすることには、凄く勇気がいりますよね?リリースするペースにしてもかなり早くて驚かされます。
セールス云々というより、サポートできる環境内で良質の作品を出していくというのはレーベルのテーマに繋がりますし、商業的判断については勇気というよりは覚悟に近いものがあると思います。
ペースに関しては今年は特に早かったですね。昨年企画していたものが予算的な問題で翌年に繰り越したこと、ツアーやライヴフェスの経験で得たアーティストとの繋がりが関係しているとは思いますが、3/11の大地震の際に多くの所属アーティスト達に助けられたことへの感謝、奮起、国内外の情勢の不安定さに対するカウンター的意味合いが最も大きかったように思えます。
―― 作品を手に取ると丁寧なパッケージにいつも惚れ惚れとしますし、さらに価格の安さにも毎回毎回びっくりしてしまいます。その点からオーナー自身の作品への愛情はもちろんのこと、ユーザーに手にとってもらうことへのこだわりを凄く感じます。先着予約特典も積極的に行っていらっしゃいますし。この辺りはどのように考えていますか?
シンプルかつ美しい装丁、デザインを作ることを目標としています。理想は色々とありますが、限りある予算の中で出来ることを考えた結果が現在のスタイルへと繋がっています。価格に関しては、流通にかかるコストや粗利率を抑えることで何とかこの価格帯で提供させていただいています。
海外におけるレコードの価格は日本とは比べ物にならないぐらい安価なので、所属しているアーティストにとってのメインのレーベル(他にレーベルを持たない)になっているケースを踏まえれば、海外流通のための金銭バランスを考えて、将来的にはもう少し安価に設定していきたいです。今は極度の円高ですからね。
特典については「客寄せ」という意味合いより、マイナーなレコードレーベル・アーティストに注目してくださっている意欲的なユーザーに何かしらのギフトを送りたいという気持ちで作っています。いつの時代もこういった音楽ユーザーが支えてくれたことでアンダーグラウンド・シーンが開拓されてきたと思いますし、CDやレコードが売れない、データ化された音源で十分だと言われる時代に何か少しでも記念になるようなものを、と思っています。
―― 海外のお客さんも多いですよね?商品の発送はもちろんのこと、所属アーティストもほとんど海外ですし、Tokyo Jupiter Festも海外で行われました。グローバルな活動をされているという印象を強く受けます。
シェアでいえば海外のユーザーがほぼ半数を占めています。現在運営しているFacebookのファンページでは95%近く海外在住の方が登録してくださっていますね。先に挙げたレーベルのテーマや目標を踏まえれば、文化の違いに囚われることなく外へと活動の幅を拡げていく必要がありますし、リリースに関しても国籍人種の壁・リリース条件に左右されることのない大きなキャパシティを持つよう常日頃から意識しています。
―― Twitterを拝見していると運営のお手伝いをされてる方もいらっしゃるようですが、運営は基本的にキミさん一人で行っているのでしょうか?
基本的な運営は全て一人で行なっています。主には企画・制作・広報・マネージメント・流通販売・発送といった部分ですね。無論ご飯を食べるための活動ではないので余裕のない運営になっているのですが。ここだけの話、広報はあまり得意な分野ではないので、どなたか手伝って下さる方を募集中です。
他にはアートワークなどを手がけるデザイナーが海外に3人、歌詞翻訳やインタビューなど踏み入った部分の表現をサポートしてくれているトランスレーターが1人在籍しています。
―― こちらの質問も気になってる方は多いと思います。キミさん自身はどのような音楽に影響されてきましたか?大まかな音楽遍歴を教えてください。また、人生を変えるような衝撃を受けた作品もあれば合わせてお答えいただけると嬉しいです。
高校生ぐらいの頃にはもう洋楽ばかり聴いていました。輸入作品を取り扱う大型レコード店に毎週のように通っては、海外アーティストのCDを購入したり、UKの音楽大衆紙「NME」や「ROCK SOUND」「KERRANG!」、時には「METAL HAMMER」まで購入して、新譜やニュースを随時チェックしていました。
英語もできないのに辞書を用いて単語を調べては、レコード店のPOSにないCDなどを取り寄せてもらったりと、海外の音楽メディアに対するアンテナは若い頃から張っていたと思います。
オルタナティヴロックで名盤と言われるものは一通り聴いていたと思いますし、探究心がよりマイナーな方向へ向いてからは、ここ10年の間に隆盛を極めたポストロックと並行して海外や日本のパンクやハードコア、エモ、カオティック、スラッジへと掘り下げていきました。
感受性が最も豊かだった時期にはEnvyやRaein、Daitro、Funeral Dinerなど90’s激情を体現するアーティストのライヴ、ISIS等に代表されるアートメタル勢の来日にも立ち会って、音だけではなく音楽に対する姿勢といったものまで吸収していきましたね。
それから一時的にレコード店に勤めてその他のジャンルや提供側の姿勢を勉んだ後に、現在のレーベルを立ち上げてます。
―― 最初からある程度のヴィジョンは持って運営されていたと思いますが、今の現実とはかけ離れていますか?
理想と現実のギャップついては元から覚悟を決めて取り掛かったので、現在の状況についてはある程度想定内です。ただ金銭的な部分でいえば運営継続は非常に難しいところですね。ただ提供側だけでなく全ての人間が大変な時代を生きていると思います。レコードが売れなくなった~などの愚痴は決して言いたくないですよね。
―― 最後に今後の予定や展望など、あればお聞かせください。
2012年は活動スタートから5年目を迎える節目の年になります。共に歩み育んできたアーティスト達の成長の証を、これまでサポートしてくださった皆さんにお届けできるようなタイトルを用意したいと思っているのと、これは常に頭の中に在ることですが、ジャパンツアーをどこかのタイミングでやりたいなと思っています。
理想を追い求める反面、このタイミングで来ても果たしてお客さんが見に来てくれるだろうかという企画側としての現実的な不安はやはり存在していますが、ベターなタイミングを見計らって動いていきたいと思っています。
Tokyo Jupiter Records DISC GUIDE
このセクションではこれまで発売されたTokyo Jupiter Recordsリリース商品のうち、わたくしが重要だと思う10作品を取り上げたい。いわゆる激情系ポストハードコア、そしてポストロックの要素を備えたエモーショナルな音楽、そしてドラマ性を兼ね備えたのがTokyo Jupiter のレーベル・カラーと表現できると思っています。
そこに沿いつつ、Tokyo Jupiterの歴史において重要なバンドを中心に取り上げます。気になったらBandcamp等でチェックしてみてください。
なお本項目は、2022年11月に全面改訂しています(+である調で書いています)。
The Black Heart Rebellion – Monologue(2009)
ベルギーの古都・ゲントで結成された5人組のポストハードコア・バンドの1stアルバム。燃えたぎるポストハードコアと美しきポストロックの両軸の中で育まれていくドラマティックな楽曲の数々を届ける彼等。徐々に熱を帯びていくような静と動のメリハリをつけた展開、劇的なクライマックス。ポストロックの穏やかな美しさ、ハードコアとしての性急さと強度が合致。作品のフィーリング自体は物悲しさとモノクロームの叙情性に彩られているが、エモーショナルの嵐にさらされる。国内盤はOTO RECORDSの吉武氏による歌詞対訳封入。The Caution Childrenと共に初来日ツアーを行った。2012年11月には再来日。本作以降はエクスペリメンタル系の音楽性へと変わる。
The Caution Children / And Baby~(2014)
アメリカ・フロリダのポストハードコア・バンドの3rdアルバム。レーベルの記念すべき第30弾リリース。ギタリストを迎えて5人体制で制作し、Jack Shirleyがレコーディング。アトモスフェリック/シューゲイザー的なアプローチを取り入れ、他とは一線を画すロマンチックなポストハードコアで、人々の感情を刺激する。ギタリストの加入によって、音像の厚みや空間的なアプローチはさらに説得力は増した。それでも小奇麗にまとまることはなくて、ラフで荒削りな感触は健在。作品を通しても全10曲約28分とこれまでのオリジナル作品で一番の短さながら、スケール感やダイナミズムは過去最高の仕上がり。2009年、2015年と2度来日。
Milanku / Pris À La Gorge(2012)
作家であるミラン・クンデラの小説と思想に触発され、カナダ・モントリオールで結成されたポストハードコア・バンドの2ndアルバム。前作でたどり着いた境地を経て、突き詰めた激しさと美しさをまとい、力強く織り上げるストーリーに心を衝き動かされる力作。Explosions In The SkyやMONOのような静から動への過剰なまでにドラマティック展開に、envyのごとき感情を激しく駆り立てるハードコアの魂が宿る。2013年10月にはTokyo JupiterとArchaique Smileによって来日ツアーが実現。
Rosetta / Utopioid(2016)
フィラデルフィアのポストメタル・バンドの6thアルバム。タイトルは理想郷を意味する「Utopia」、依存症を生じやすく離脱症状や過剰摂取により、アメリカにおいては薬物中毒死の半数近くを占める医薬品「Opioid」。ほぼ正反対の意味を持つ2つの言葉を組み合わせた造語である。一人の人間の誕生~死まで。喜怒哀楽の感情を楽曲によって塗り分けて描き切っており、最もコンセプチュアルかつ内省的な作品となった。理知的でメロウなポストメタル系への転質。それが人の感情と共鳴し、人の人生と共鳴する。彼等のディスコグラフィーにおいて常に内在していた”空間と宇宙”は、本作でも健在。2016、2018年に来日公演を敢行。
Of decay and sublime – Psalm, La Mer(2019)
Ukita Takahiro氏を中心にArchaique SmileやOVUMのメンバーを引き連れるインストゥルメンタル5人組。初の単独作品EP。10分超えの#1「Psalm」と8分近い#2「La Mer」の2曲を収録。電子音の交配やストリングス・アレンジも含みつつ、しんみりとした暗い情緒から天へと昇るような光景を導き出す。2曲ともにクライマックスに向けたトリプルギターの重奏があまりに美しい響きをもたらしており、何度か体験しているライヴでは轟音に包まれる中でまろやかな陶酔感があった。
Sore Eyelids / Avoiding Life(2019)
2018年に解散したSuis La Luneのフロントマン、Henning Runolf率いるシューゲイズ/エモ・バンドの3rdアルバム。滑らかなファルセットや伸びのある歌声を響かせ、軽快なインディーロックから牧歌的なアコースティック、浮遊感に満ちたシューゲイズ・サウンドを行き交う。Suis La Luneのように激しさに囚われることはなくても、個人の感情には囚われており、まぎれもなくHenningによる私的詩的な表現が心の芯まで沁みこむ。歌っているのは彼が抱える闇であるが、吐露することが人が生きている証でもある。それでも、ここで聴けるのは瑞々しさに開放感が伴った音楽だ。
Viva Belgrado / Bellavista(2020)
スペイン・コルドバのポストハードコア4人組の3rdアルバム。2017年に来日公演を行ったからか、曲名に「Más Triste que Shinji Ikari(碇シンジ)」や「Ikebukuro Sunshine(池袋サンシャイン)」を採用。envyイズムに浸った曲調は基本線にあるものの、スパニッシュ・ギターとフラメンコ要素を取り入れたり、ローファイなヒップホップだったり、マスロックのようなアプローチも飛び出す。それが捲し立てるスペイン語詞と並んで妙なポップさを生み出している。今までの経験値の上で繰り出しているから違和感は無く、むしろこの野心があるあらこそ、全編を通した開放感のあるつくりに繋がった。2017年5月に来日。
Svalbard / When I Die, Will I Get Better?(2020)
UKブリストルの4人組ポストハードコア・バンドの3rdアルバム。Oathbreakerと共に歩んでいくようなクラスト経由のポストハードコアという印象が、本作においてはポストロック/シューゲイズ要素の強化を突破口にして、さらに進化。幻惑のレイヤーとクリーンなコーラスが彩ったかと思うと、持ち味の馬力と瞬発力を思う存分に活かして突っ走り、また減速しては甘く魅惑する。過剰なドラマティシズムは全曲に渡ってフル稼働している。「When I Die, Will I Get Better? = 死んだら、私は楽になりますか?」と自身と社会に問いかけながら、世と刺し違える覚悟を持って彼女は叫ぶ。After Hours 19にて来日。
So Hideous / None But A Pure Heart Can Sing(2021)
アメリカ・ニューヨークを拠点に活動する音楽集団の3rdアルバム。ポストブラック系と言われることが多いが、そこに終息しない前衛性を発揮している。クラシックとブラックメタル/ハードコアが親密に結びつく#1「Souvenir(Echo)」を皮切りに、その壮大さを肌で実感。正確無比かつシャープな切れ味のあるリズムが土台にあって、管弦楽器を加えたゴージャスなタッチがある。音符のひとつひとつがバチバチにバトルするような感覚があって、それゆえの豊かな広がりがもたらされた。そしてジャズ/即興的なアプローチが緊迫性と即時的な快感を高めており、特に#2「The Emerald Pearl」は必聴。
kokeshi + [’selvə] + Presence of Soul / Immagine Residua(2022)
Tokyo Jupiter Records15周年となる日本2バンド、イタリア1バンドによるスプリット作品。1曲ずつ提供した全3曲約20分収録。冒頭を飾る日本のブラックゲイズ/ハードコア系のkokeshiは、和製暗黒と情緒の中でシャープでいてゴリゴリのサウンドと叫びがインパクト大。何よりもMVが良い。続くイタリアのブラックメタル[’selvə]はSHIZUNEのメンバーと共に捨て身の爆走と咆哮で八つ裂きにしてくる。最後を飾るポストロック/シューゲイズ・バンドのPresence of Soulは10分の大曲。サポート・ギターであるRYO氏のデスヴォイスと日本語詞をフィーチャーしつつ、漆黒から漂白するような展開へと流れていくかと思いきや、地獄へと連れ戻される。こちらの記事で読めるのだが、3バンド共にTokyo Jupiterへの強いリスペクトが込められた曲を届けたことが伝えられている。
あとがき
上の画像は、今年に入って購入したTokyo Jupiter Recordsの作品一覧。写真に写って無いディストロ商品も含めるともう少し多いです。これらの作品を購入して聴いてるうちに僕自身の中で湧き上がってくるものがあって、是非ともTokyo Jupiter Recordsを特集できないだろうかと考えたのが特集記事のきっかけでありました。
加えて、作品を紹介するにとどまらないさらに大きなものを残したいという想いもありました。読者の皆様には、これが新しい音楽を知るきっかけとなれば幸いです。
今回の特集を組むにあたって、Tokyo Jupiter Recordsの西田皇之氏には最大限の感謝を示します。当然ながら、彼がいなければもちろんレーベル自体も存在してなかったわけで。今回の特集が成立することはなかったし、海外の原石たちを知ることも無かったかもしれない。
さらに忙しい合間を縫ってインタビューにご返答いただいた。隅々までびっしりと書かれた内容の濃さには本当に驚き。将来のあるバンドの丁寧なサポートを通じて、真摯に音楽と向き合い、音楽業界の発展を願っている人間の一人。過去の再発では無く、現行のアーティストをサポートすることでそのアーティストの可能性を大きく拡げていくことに全力を尽くしている。特集の完成度がグッと高まったのは、このインタビューに尽きます。本当に感謝。
Tokyo Jupiter Records Links
- Official site https://tokyojupiterrecords.com/
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