アイルランド・ダブリンを拠点に活動するインストゥルメンタル・バンド。バンド名はPink Floydの楽曲「Echoes」の歌詞からとられている。轟音系ポストロックと言われる類のスタイルの中で管弦楽器の柔軟な取り込みや電子音、スポークンワードの導入などで壮大なサウンドを生み出しています。
2016年に1stアルバム『Learning to Growl』を発表。その後にメンバー脱退や活動休止期間を経るなどありましたが、2024年11月に2ndアルバム『I Leave You This』をリリース。
本記事はこれまでに発表されているフルアルバム2作品について書いています。
作品紹介
Learning to Growl(2016)
1stアルバム。全9曲約60分収録。当時はトリプルギター、ベース、キーボード、ドラムの6人編成。2012年にチェコの小さなスタジオで録音を開始したそうですが、結局はプリプロとなり、新たな要素をさらに重ねていったためにリリースがここまで延びたらしい(GoldenPlecインタビューより)
しかしながら、初のフルレングスにして完成度に惚れ惚れとします。いわゆる轟音系インスト・ポストロックを専攻し、研究した内容。作戦は”静から動へ”を中心に展開されており、聴後の快感指数と幸福指数は高い値を計測するはずです。
展開がこれでもかというぐらいにドラマティックであり、ダイナミック。そこに聴かせる力があります。冒頭を飾る#1「Indie Rose」、#2「Telekinetic Forest Guard」からトリプルギターをサウンドの中心に据えて、Caspian辺りを彷彿させるメロディの饒舌さ、柔らかなノスタルジー、脅威の爆発力で聴く者を魅了してくる。
また鍵盤やホーン、ストリングス、声の絡ませ方が絶妙。実際に地元の合唱団やオーケストラをゲストに加えた形で、それが曲の表情をグッと鮮やかに引き立てています。楽曲自体は基本的にジャムセッションの自然派生型で生まれているとのこと(ゆえに時間がかかる)。ですが、精微でスタイリッシュなまとめかたをしていても生まれてくる熱量や昂揚感は相当なものです。
本作中で最も幻想的な美しさを表現する#4「Daeku」は時間をかけて心を満たし、ラストの轟音シンフォニー#9「Big River Man」は輝かしい歓喜が訪れます。脱世界、豊かな白への同化と羽ばたき。全体を通して、繊細な温かみや大らかな優しさを感じさせるのも惹かれる点でしょう。
2016年の注目されるべき1枚だと思います。同年のポストロック、インスト系では特にインパクトのあった作品。
I Leave You This(2024)
2ndアルバム。全10曲約60分収録。しばらくの活動休止間を経て、メンバーも4人編成になって再出発。8年ぶりのフルアルバムとなります。インストを主体に壮大なサウンドを生み出していく根幹は変わらずとも、声や電子音の主張が強くなっていることは大きな変化のひとつ。
スポークンワード(語り)をほとんどの楽曲で登場させ、感情の機微やメッセージを明確化。そしてエレクトロニックな要素の増量によって、煌びやかな装いとダンサブルな躍動感を追加しています。
”死、喪失、悲しみを悼むとともに、私たち全員が共有するこの人生の畏敬の念と美しさを讃える曲“と表明する#2「Your Last Breath」。荘厳なストリングスとピアノによる装丁の中で、マスロック風のギターループ、声とサックスの追加が感情的な旅路をさらに豊かなものとしており、結成時からのスタイルを進化させていることが伺えます。
また中盤から後半にかけては東洋的なエッセンスを注入。特にタイトルからして日本人として何かを感じずにはいられない#6「Hibakusha」。作品中で最も重いベースラインによって牽引され、英語の語りが緊張感を高めていくのですが、最終盤においては”全てが灰と化し・・・”から始まる日本語の語りがエンディングを席巻する(Bandcampのクレジットによると石川実咲さんが担当されてますが、私は存じ上げない)。
続く#7「Miss Na Kita」はタブラ風に聴こえる独特のパーカッションがリードし、#8「This is Like Love」はインド映画はご存知かと真顔で迫ってくるかのようで、ワールドミュージックの側面が強化されていることがおもしろい。
そしてアルバムの要である#9「Paul Lynch」は本作の制作に不可欠な役割を果たしたが、亡くなってしまった親友を偲んだ1曲。彼の人生を輝かせるようにシンセサイザーは彩り、柔らかなビートが心地よく弾む。生楽器よりも豊かな色合いを育む中で終盤の聖歌によるリフレインが人生の儚さや美しさを伝えて終わっていく。
本作は楽曲全体で新しいテクスチャーへの挑戦やバリエーションを担保しています。00年代の遺産を受け継ぐ中でも自由で柔軟な取り込みをすることで、ありがちなポストロックではない作品に仕上がっている。同郷の大先輩であるGod Is An Astronautとは違う宙を航海する大胆で深い発展。
※ちなみにEchoes And Dustのインタビューによると本作の制作中に聴いて影響を受けた3作品に以下をあげている
- Yosi Horikawa『Spaces』
- Rival Consoles『Odyssey / Sonne』
- Frightened Rabbit『The Midnight Organ Fight』