メインソングライターを務める2人、ブレット・キャンベル(Vo,Gt)とジョセフ・D・ロウランド(Ba,Vo,Synth)を中心に2008年に結成されたドゥームメタル4人組。アメリカ・アーカンソー州リトルロックを拠点に活動。バンド名は棺桶担ぎ人を意味する。
2012年にリリースした1stアルバム『Sorrow and Extinction』、2014年に発売の2nd『Foundations of Burden』がPitchforkの同年のメタル・ベストアルバムにおいてそれぞれ1位、2位を獲得したことで世界中に知られるようになります。
ドゥームメタルの新基準としてバンドは高く評価され、以降も作品をコンスタントにリリース。4thアルバム『Forgotten Days』はメタルレーベル最大手のひとつであるNuclear Blastから発売されています。
本記事では1stアルバム『Sorrow and Extinction』~2024年5月発売の5thアルバム『Mind Burns Alive』までの5作品について書いています。
アルバム紹介
Sorrow and Extinction(2012)
1stアルバム。全5曲約49分収録。Profound Loreからのリリースでタイトルは直訳すると”悲しみと消滅”。
オープナー#1「Foreigner」の冒頭のアコースティック・ギターから世界は憐憫に浸る。曲調はドゥームらしいスローペースを守りますが、重々しいが圧をそこまで感じさせないリフが繰り返され、ヴォーカルは朴訥とした歌い方で彩ります(歌声は若き日のオジー・オズボーンに似てると評されている)。
何よりも局所的に挟まれるメロディックなフレーズが全体の彩度や艶感を保っており、長めのギターソロには古色然とした薫りが漂ってくる。#5「Given to the Grave」におけるシンセの薄化粧も効果的な働き。
それでいて乾いた哀しみがどこか通底。これはバンドの中心人物であるJoseph D. Rowlandが本作の制作途中に母を亡くしたことに起因しています。だからか本来このジャンルが持つ禍々しさや呪術めいた雰囲気とは離れていて、葬送歌としてのドゥーム・メタルとしての側面が強い。
そしてCodiene等に代表されるスロウコアの性質も感じさせたり、70年代のプログレ的な雰囲気が持ち込まれていたりもする。またタッチの柔らかさゆえの軽妙さや叙情性が適切にブレンドされているのは他にはない武器。
Pallbearerは1stアルバムにしてドゥーム・メタル界の新星として名を馳せ、本作はPitchforkの『2012年のメタルアルバム TOP40』で第1位に輝いています。
Foundations of Burden(2014)
2ndアルバム。全6曲約55分収録。前作の成功を経て本作はプロデュース/エンジニアにはビリー・アンダーソンを起用しています。
ドゥームメタルという様式を守りながらも、哀愁たっぷりに聴かせてくれる組立の妙。基本10分を目安にした曲が大半(本作でも6曲中4曲が10分超え)ですが、Black Sabbath譲りの重心の低いサウンドを礎に柔らかなメロウネスが効いています。
出足の#1「Worlds Apart」から情け容赦ないヘヴィ地獄に落とし入れるのではなく、ゆるやかな反復と共に酩酊感を産んでいく。古のロック的な気品やサイケっぽい感触に加えてクリーンヴォイスのおかけでソフトな耳辺りの良さを保つ。
#2「Foundations」にしても暗鬱の雰囲気が漂うドゥーム・メタルだが禁断ともいえる甘美さをも備え、#4「The Ghost I Used To Be」ではレトロ・サイケと交わって艶やかさのある重厚なハーモニーが引き立つ。
ラストを飾る#6「Vanished」が12分近くかけて劇的なドラマを奏でており、一撃のインパクトに力を注ぐのではない引きの美学が感じられます。
要所では✝闇✝に取り込まれるような感覚を持っていますが、メロディとハーモニーが主張を強めたことでまろやかさが活きている。本作もまたPitchforkにて8.6の高得点でBest New Musicに選出されており、彼らの活躍はフロックではないことを物語ります。
Heartless(2017)
3rdアルバム。全7曲約60分収録。現時点ではProfound Loreからリリースされた最後の作品で、本作はジョー・バレーシがミックスを担当しています。国内盤ライナーノーツによるとバンドは『Heartless』を以下のように説明。
”このアルバムでは新しい領域に踏み込んでいる。上部・内面の虚無をのぞき込むのではなく、奇妙な現実に専念している。我々は人生・故郷・世界の闇の深さを測り、希望のかけらを見出そうとするのだ“
ハーモニーに磨きをかけた前作と比べると、本作では展開美に磨きをかける。#1「I Saw The End」からずっしりとした重みはあるものの威圧的でなく風通しの良さを感じさせるものです。
反復とタメを効果的に用いながらドラマティックに展開。11分超の#4「Dancing in Madness」ではクラウトロックに通ずる電子音のアプローチとドゥームメタルの破滅的音響が相まみえる世界線であり、アコースティックの凪が涼やかさをもたらします。
これまで通りドゥームという拠り所は変わってませんが、どんどんと獲得している透明感と叙情性。暗くて重くて禍々しいという同ジャンルのテンプレートから逸れていってるのは明白で、遅いテンポを主体とした正統派なロック作品としての魅力が高まっている印象があります。
短くて5分、最長で12分40秒と曲尺は変わらずに長め。ですが、哀愁あるツインギターと古き良きに通ずる歌心が潤いあるハーモニーを生む。
エンディングを飾る#7「A Plea For Understanding」は12分を超える最長曲になりますが、ポストメタルに通ずる浮遊感と美麗さをまとう。聴き手を絶望のステージに立たせないまろやかドゥームとしてどんどんと滋味深いバンドになっているのが興味深い。
Forgotten Days(2020)
4thアルバム。全8曲約53分収録。最大手のメタルレーベルのひとつであるNuclear Blastへ移籍し、プロデューサーにランドール・ダンを迎えて制作。本作についてジョセフ・D・ロウランドはMetal Insiderのインタビューについて以下のように述べています。
”『Forgotten Days』は『Heartless』の装飾的でクリーンな性質の多くを取り去り、私たちのソングライティングの背後にある筋肉質な部分をさらけ出した。同時に非常に個人的なテーマを扱った、深く感情的な曲のためのプラットフォームを提供している“。
そのテーマはアートワークに示されているように家族であり、喪失という点に重きが置かれます。作品内容は前述したインタビュー通りにメランコリックなタッチが少し減退して、ズルズル系リフを中心に重量感と煙たさが増しています。
珍しく4分でビシッと締める#5「The Quicksand of Existing」は変化を表すコンパクトで簡潔な楽曲。ただ相変わらずこのジャンルらしいキまるみたいな感覚はあまりないし、遅攻こそが正義の姿勢は変わってない。
BPMはゆったりとして速いパートを入れることはしていませんし、代わりにハーモニーで聴かせる技法は冴えわたっています。
なかでもアルバムの核となる#4「Silver Wing」や#8「Caledonia」は、バンドの資質を総動員したようなプログレッシヴ・ドゥームとして特筆すべき魅力を放つ。物憂げな美と品のあるドゥームメタルに着地させるのは、Pallbearerの妙技といえるものでしょうね。
Mind Burns Alive(2024)
5thアルバム。全6曲約51分収録。”これまでよりもダイナミクスとサウンドの色彩を深く追求している。真のヘヴィネスとは感情の重みから生まれるものであり、感情を伝えるために時にはひたすら殴打することが正しいアプローチではないこともある、というのが私の信念だ”とブレット・キャンベルは本作について述べる。
その発言にアーロン・ターナー総帥が04年のインタビューで同じようなことを言ってたのを思い出します。作風としては3rdアルバム『Heartless』を掘り下げた感じで、もっとメロウで古風な薫りが包み込む。
繊細なヴォーカリゼーション、緩衝材としてのシンセやサックスの流入、クリーンなギターソロなど。曲尺は変わらずに平均8分30秒を数える中(10分超が2曲あり)、ゆったりとしたテンポの中で孤独と苦悩という内省的なテーマを織り上げ、瞑想的なトーンを保っています。
”Pallbearerらしからぬ”というのは確かにそうでしょう。しかしながら、ドゥームメタルらしい重厚さや煙たさを押しつけがましく表現しないバンドでした。
本作のリフもヘヴィであるものの威圧的ではなく、分厚い雲を思わせるイメージ。それにプログレやAOR、はたまたスロウコアのご加護を受けた慎重なアプローチを設け、これまで以上にまろやかに歌い上げています。
そんな本作を象徴する楽曲がふたつめのリードシングル#4「Endless Place」。ひっそりと鳴るアコギの序盤から複数の章を経る10分38秒間は、壁が孤独をささやくように寂寥感を増幅させ、初のゲスト奏者を招いたサックスの音色まで飛び込んできます。
バンドのアイデンティティを維持しつつ音の重さではなく、感情で階級を上げて聴き手の真に迫ろうとする。『Mind Burns Alive』はタイトル通りに精神的な部分を強調した作品であり、幻想的な柔らかさを帯びていても絶望が滲む。
このアルバムは、人生の負の転機に打ちのめされたと感じたことがある全ての人、自分の大切な人たちが自分自身の影に堕ちていくのを見たことがある人、信じるべき何かを探し求め、結局何も得られなかった人のためのものだ。
Pallbearer 公式Facebookページの投稿より (ブレット・キャンベルの発言)